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宇宙戦争

The war of the worlds

出版年
1898年
翻訳
開原かいばら 藍誠あいせい
概要
高度な知能を持つ火星人が地球に襲来し、圧倒的な科学力で人類を蹂躙する。社会が崩壊し絶望に包まれる中、生存をかけた孤独な戦いが描かれる。しかし、無敵の侵略者は地球の微小な細菌という想定外の脅威に直面し、物語は意外な結末へと向かう。

H・G・ウェルズ 著


「だが、これらの世界に住む者があるなら、それはいったい何者なのか。
……世界の主は、われわれか、それとも彼らか。……また、
万物が人間のために造られたとは、どういうことなのか。」
        ケプラー(憂鬱の解剖より引用)

第一部 火星人の襲来

第一章 開戦前夜

十九世紀も終わりに近づいたころ、この世界が、人間よりも優れた、しかし人間と同じく死すべき知性によって、鋭く、つぶさに観察されているなどとは、誰も信じなかっただろう。人間がそれぞれの仕事に追われるあいだにも、顕微鏡をのぞく人が一滴の水のなかに群がり、増殖するはかない生き物を調べるのと、おそらくほとんど変わらぬ厳密さで、人間もまた観察され、研究されていたのだ。人々は限りない自己満足に浸り、物質界を支配していると安んじきって、地球の上を行き来しながら、ささやかな用事を片づけていた。顕微鏡の下の滴虫も、同じようにしているのかもしれない。宇宙にある、地球より古い世界が人類に危険をもたらすとは、誰も考えなかった。考えたとしても、そこに生命があるはずはない、あってもまずありえまいと、片づけるだけだった。過ぎ去ったあの時代のものの考え方を思い返すと、不思議な気がする。地球人の想像は、せいぜい火星にも人間がいるかもしれない、おそらく自分たちより劣っていて、伝道の試みを喜んで迎えてくれるだろう、という程度にとどまっていた。だが、宇宙の深い隔たりの向こうでは、われわれが滅びゆく獣に対して占めるのと同じ位置を、われわれの知性に対して占める精神が――広大で、冷徹で、情けを知らぬ知性が――羨望の目を地球に注ぎ、ゆっくりと、着実に、われわれを狙う計画を練っていた。そして二十世紀の初め、その思い上がりは無残に打ち砕かれた。

火星という惑星が太陽から平均一億四千万マイルの距離を公転し、受け取る光と熱が地球の半分にも満たないことは、読者にあらためて言うまでもあるまい。星雲説[訳注:太陽系は回転する星雲から生まれたとする説]にいくらかでも真実があるなら、火星は地球より古いはずであり、地球がまだ溶融状態を脱しないうちから、その表面では生命の営みが始まっていたに違いない。体積が地球の七分の一にも満たないことも、生命の生まれうる温度までの冷却を早めただろう。そこには空気があり、水があり、生き物を養うのに必要なものがすべてある。

それなのに、人間は虚栄心が強く、その虚栄心に目をくらまされているため、十九世紀のまさに終わりまで、火星の知的生命が地球の水準をはるかに、いや、少しでも超えて発達しているかもしれない、と書いた者は一人もいなかった。また、火星は地球より古く、表面積は四分の一にも満たず、太陽からも遠いのだから、時の始まりから遠ざかっているばかりか、時の終わりにも近づいているという当然の帰結も、一般には理解されていなかった。

いつかわが惑星にも訪れるはずの、長い歳月をかけた冷却が、この隣の世界ではすでに著しく進んでいた。火星の自然環境には今なお謎が多いが、赤道地方ですら正午の気温が地球の最も寒い冬にようやく近づく程度だと、今ではわかっている。大気は地球よりはるかに薄く、海は縮んで表面の三分の一を覆うにすぎず、ゆるやかな季節の移り変わりにつれ、両極の巨大な雪冠が発達しては溶け、周期的に温帯を水浸しにする。われわれには気の遠くなるほど先のことに思える、惑星が衰え果てる最後の段階が、火星の住民にとっては目前の問題となっていた。差し迫る必要は彼らの知性を研ぎ澄まし、能力を高め、心を冷酷にした。そして、われわれには夢想することさえ難しい機器と知性をもって宇宙の彼方を見れば、最も近いときには太陽の方角へわずか三千五百万マイルのところに、希望の明けの明星が見える。より暖かな、われわれの惑星だ。草木の緑と水の灰色に彩られ、豊饒を雄弁に物語る雲の大気に包まれ、その漂う薄雲の切れ間から、人の満ちた広大な陸地と、軍艦のひしめく狭い海とがのぞいていた。

この地球に住むわれわれ人間は、彼らにとって、少なくともわれわれにとっての猿やキツネザルと同じほど、異質で卑しい生き物に違いない。人間の理性もすでに、生命とは絶え間ない生存競争だと認めている。火星の知性も、どうやら同じ信念を抱いているらしい。彼らの世界では冷却が遠くまで進んでいるのに、この世界にはまだ生命があふれている。ただし彼らの目には、下等な動物ばかりがあふれているのだ。代々、忍び寄ってくる破滅から逃れるには、太陽の方角へ戦争を仕掛けるしかない。

とはいえ、彼らを厳しく裁く前に、われわれ自身がどれほど無慈悲で徹底した絶滅を行ってきたか、思い出さねばならない。姿を消したバイソンやドードーなどの動物に対してばかりではない、人類のうちの劣った人種に対してもだ。タスマニア人は、人間の姿をしていながら、ヨーロッパからの移住者による絶滅戦争で、わずか五十年のうちに一人残らず消し去られた。火星人が同じ精神で戦争を仕掛けてきたからといって、とがめられるほど、われわれは慈悲の使徒なのだろうか。

火星人は、驚くほど精密に地球への降下を計算し――彼らの数学がわれわれをはるかにしのぐのは明らかだ――ほぼ完全な一致協力のもとに準備を進めたらしい。観測機器に十分な性能があれば、われわれも十九世紀のはるか以前から、その危機の兆しを見て取れたかもしれない。シアパレッリらは赤い惑星を観察していた――そういえば、火星が数えきれぬ世紀にわたり戦争の星とされてきたのは奇妙なことだ――が、あれほど丹念に地図に写し取った模様がなぜ変化するのか、読み解けなかった。そのあいだずっと、火星人は準備を進めていたに違いない。

一八九四年の衝しょう[訳注:地球から見て惑星が太陽の正反対に来る位置関係]の際、円盤状に見える火星の明るい部分に大きな光が現れ、初めにリック天文台で、次いでニースのペロタンに、さらにほかの観測者たちにも目撃された。イギリスの読者が初めてそれを知ったのは、八月二日付のネイチャー誌だった。あの輝きは、火星の地中に掘り下げた巨大な穴で、地球へ砲弾を撃ち出す大砲を鋳造していたのではないかと、私は考えている。その後二度の衝でも、光の現れた地点の近くに、いまだ説明のつかない奇妙な模様が見られた。

あの嵐がわれわれに襲いかかったのは、もう六年前になる。火星が衝に近づくころ、ジャワのラヴェルが、その惑星で灼熱のガスが大噴出したという驚くべき知らせを送り、天文交流会の電信網を沸き立たせた。噴出は十二日の真夜中近くに起こった。すぐさま向けた分光器は、主として水素からなる燃えるガスの塊が、地球に向かって猛烈な速度で動いていることを示した。この火の噴流は、十二時十五分ごろには見えなくなった。ラヴェルは、惑星から突如激しく噴き出した巨大な火炎にたとえ、「砲口から燃えるガスが噴き出すようだった」と述べている。

それは、のちに実に的確な表現だったとわかった。だが翌日の新聞は、デイリー・テレグラフの小さな記事を除き、何も伝えなかった。世界は、人類を脅かした最も重大な危険の一つを知らずに過ごしていた。私もオッターショウで著名な天文学者オギルヴィに会わなければ、その噴出のことを聞かずに終わったかもしれない。彼はこの知らせにひどく興奮し、その勢いで、その晩一緒に赤い惑星を交代で観測しようと私を誘った。

その後に起こった数々の出来事にもかかわらず、あの夜の観測は今も鮮明に覚えている。暗く静まり返った天文台。隅の床に弱い光を落とす、覆いを掛けたランタン。望遠鏡の時計仕掛けが刻む規則正しい音。屋根の細い切れ目――星くずの帯が横切る、長方形の深淵。オギルヴィは姿こそ見えなかったが、動き回る物音がした。望遠鏡をのぞくと、深い青の円のなかに、小さな丸い惑星が浮かんでいた。なんと小さく、明るく、静かなものだったことか。かすかな横縞があり、完全な球形よりわずかに平たい。だが、あれほど小さく、あれほど暖かみのある銀色で――針の頭ほどの光! 震えているように見えたが、実際には、惑星を視野にとどめる時計仕掛けの動きで、望遠鏡が振動していたのだった。

見つめているうちに、惑星は大きくなったり小さくなったり、近づいたり遠ざかったりするように見えたが、それはただ目が疲れていたせいだった。われわれから四千万マイル――四千万マイル以上の虚空に隔てられていたのだ。物質宇宙という塵が浮遊する空間の、途方もない広がりを実感する人は少ない。

視野のなかで火星の近くに、三つのかすかな光点があったのを覚えている。限りなく遠く、望遠鏡でしか見えない三つの星。その周囲はすべて、宇宙空間の底知れぬ闇だった。霜の降りる星夜の、あの闇をご存じだろう。望遠鏡では、その深さがはるかに増して見える。そして、遠すぎ、小さすぎて私には見えなかったが、彼らが送り出した〈もの〉は、その信じがたい距離を、速やかに、確実に、私めがけて飛んできていた。一分ごとに何千マイルも近づきながら、地球に数知れぬ闘争と災厄と死をもたらす〈もの〉が。のぞいていた私は、そのとき夢にも思わなかった。地上の誰一人、その狙いを外さぬ飛翔体を思い描きはしなかった。

その夜も、遠い惑星からガスが噴き出した。私はそれを見た。精密時計が真夜中を告げた瞬間、縁に赤い閃光が走り、輪郭がほんのわずかに突き出した。私はオギルヴィに告げ、彼と場所を代わった。暖かな夜で、私は喉が渇いていた。オギルヴィがこちらへ伸びてくるガスの帯を見て声を上げるあいだ、私はぎこちなく脚を伸ばし、暗闇を手探りしながら、ソーダ水のサイフォンが置かれた小卓へ向かった。

その晩、最初のものから二十四時間に一、二秒足りないころ、もう一つ、目に見えぬ飛翔体が火星から地球へ旅立った。私は暗闇のなかで卓上に腰を掛け、目の前を緑や深紅の斑点が漂うのを見ていたのを覚えている。たばこを吸う火が欲しいと思っていた。見たばかりの小さな輝きが何を意味し、まもなく何をもたらすのか、少しも疑わなかった。オギルヴィは一時まで観測して切り上げた。私たちはランタンに明かりをともし、彼の家へ歩いていった。眼下の闇にはオッターショウとチャートシーがあり、何百人もの住民が安らかに眠っていた。

その夜の彼は火星の状態についてさまざまに推測し、火星の住民がこちらへ合図しているのだという俗説を一笑に付した。火星に隕石が激しい雨となって降っているか、巨大な火山爆発が続いているのだろうというのが、彼の考えだった。隣り合う二つの惑星で、生物の進化が同じ道筋をたどるなど、まずありえないことを彼は私に説いた。

「火星に人間らしいものがいる見込みは、百万に一つですよ」と彼は言った。

その晩も翌晩も、そのまた翌晩も、真夜中ごろに何百人もの観測者が炎を見た。十晩にわたり、毎晩一度ずつ。十発目で砲撃が止まった理由を説明しようとした者は、地球には一人もいない。発射に伴うガスが火星人に支障をきたしたのかもしれない。地球の強力な望遠鏡では、ゆらぐ小さな灰色の斑点に見える濃い煙か塵の雲が、火星の澄んだ大気に広がり、見慣れた地形を覆い隠していた。

日刊紙もついには異変に気づき、火星の火山についての平易な記事が、いたるところに載るようになった。時事と笑いを扱うパンチ誌は、これを政治風刺画にうまく取り入れていたと覚えている。そして、まったく気づかれぬまま、火星人の撃ち出した飛翔体は地球へ近づいていた。一秒に何マイルもの速さで宇宙の虚空を突き進み、一時間ごと、一日ごとに、ますます近くへ。あれほど速やかな運命が頭上に迫っているのに、人々が変わらず些細な仕事にかまけていられたことが、今ではほとんど信じがたい奇跡のように思える。マーカムは、当時編集していた絵入り新聞に載せる火星の新しい写真を手に入れ、ひどく喜んでいた。今の人々には、十九世紀の新聞がどれほど充実し、進取の気性に富んでいたか、なかなかわからないだろう。私自身は、自転車の乗り方を覚えるのに熱中し、文明の進歩につれて道徳観念がどう発達するかを論じる一連の論文に追われていた。

ある晩――最初の飛翔体はもう一千万マイル以内に迫っていたはずだ――私は妻と散歩に出かけた。星明かりの夜で、私は黄道十二星座を説明し、天頂へゆっくり上っていく明るい光点、火星を指さした。多くの望遠鏡が、そこへ向けられていた。暖かな夜だった。帰り道では、チャートシーかアイルワースから来た行楽客の一団が、歌い、楽器を鳴らしながら通り過ぎた。家々の上階の窓には、床につこうとする人々の明かりがともっていた。遠い駅から、列車を入れ換える金属音や響きが聞こえ、距離に和らげられて、ほとんど旋律のようだった。妻は、空を背にした鉄枠に並ぶ赤、緑、黄色の信号灯の鮮やかさを指摘した。何もかもが、あれほど安全で、穏やかに思えた。

第二章 流れ星

そして、最初の流れ星の夜が来た。それは未明、ウィンチェスター上空を東へ駆け抜け、大気の高みに火の筋を引いていくところを目撃された。何百人もが見て、普通の流れ星と思ったに違いない。アルビンによれば、緑がかった尾を残し、それが数秒間光っていたという。隕石研究の第一人者デニングは、最初に現れた高度を九十ないし百マイルほどとし、自分のいる地点から東へ約百マイルのところに落ちたようだと述べた。

その時刻、私は家の書斎でものを書いていた。フランス窓はオッターショウに向いており、ブラインドも上げてあった――当時の私は夜空を見上げるのが好きだった――が、何も見なかった。だが、宇宙から地球に来たもののなかでも最も奇怪なこの物体は、私がそこに座っているあいだに落ちたに違いない。通り過ぎるとき顔を上げさえすれば、見えたはずなのだ。飛ぶ姿を見た人のなかには、しゅうっという音がしたと言う者もいる。私自身は何も聞かなかった。バークシャー、サリー、ミドルセックスでは、多くの人が落下を見たはずだが、せいぜい、また隕石が落ちたと思っただけだろう。その夜、落下物を捜そうとした者はいなかったらしい。

だが翌朝早く、哀れなオギルヴィは捜索のために起き出した。彼は流れ星を見ており、ホーセル、オッターショウ、ウォーキングのあいだのコモン[訳注:共有地。ここでは草木に覆われた広い荒地]のどこかに隕石があると確信していた。そして夜明けから間もなく、砂取り場の近くで、実際に発見した。飛翔体の衝突で巨大な穴が開き、砂や砂利が荒地の四方へ激しく飛び散って、一・五マイル先からも見える盛り土となっていた。東側ではヒースが燃え、暁の空に薄い青煙が立ち上っていた。

〈もの〉自体はほとんど砂に埋まり、落下の際に粉砕したモミの木の破片が周囲に散っていた。露出した部分は巨大な円筒のようで、くすんだ褐色の厚い鱗状の皮膜がこびりつき、輪郭をぼかしていた。直径は三十ヤードほどあった。オギルヴィはその大きさに驚き、形にはいっそう驚いて近づいた。隕石はたいてい、多かれ少なかれ丸みを帯びているからだ。だが、大気を突き抜けてきた熱がまだ強く、そばまでは寄れなかった。円筒の内部で何かが動く音は、表面の冷え方が一様でないせいだと考えた。そのときには、中が空洞かもしれないとは思いつかなかったのだ。

彼は〈もの〉が自らうがった穴の縁に立ち、その奇妙な姿を見つめつづけた。何よりも異様な形と色に驚き、その到来に何かの意図があるのではないかと、すでにおぼろげに感じていた。早朝は驚くほど静かで、ウィブリッジの方角の松林を出たばかりの太陽は、もう暖かかった。その朝、鳥の声を聞いた記憶はなく、風もまったく吹いていなかった。聞こえるのは、燃え殻めいた円筒の内部からする、かすかな物音だけだった。コモンにいるのは彼一人だった。

そのとき突然、彼ははっとした。隕石を覆う灰色の燃えかすのような皮膜が、円形の端の縁から剝がれ落ちていた。薄片となって落ち、砂の上に降り注いでいた。大きな一片がふいに剝がれ、鋭い音を立てて落ちたので、心臓が喉まで跳び上がる思いがした。

しばらくは、それが何を意味するのかわからなかった。熱はひどかったが、もっとよく見ようと穴に降り、大きな塊のそばまで寄った。そのときも、本体が冷えたためだろうと思っていた。ただ、灰が円筒の端からしか落ちていないことが、その考えと食い違った。

やがて彼は、円筒の丸い蓋が、本体に対してごくゆっくり回っていることに気づいた。あまりに遅い動きなので、五分前には手前にあった黒い印が、今は円周の向こう側にあるとわかって、初めて見抜けたのだ。それでも意味はのみ込めなかったが、くぐもったきしみが聞こえ、黒い印が一インチほど急に動いた。その瞬間、すべてがわかった。円筒は人工物だ――中は空洞で――端がねじ式で外れるのだ! 中にいる何かが蓋を回している! 

「大変だ!」とオギルヴィは叫んだ。「人が入っている――何人もいるんだ! 焼け死にかけている! 逃げようとしているんだ!」

そのとたん、彼の思考はひらめき、この物体と火星の閃光を結びつけた。

閉じ込められた生き物を思うと恐ろしくて、熱さも忘れ、蓋を回すのを手伝おうと円筒に進み寄った。幸い、まだ赤熱する金属に手を焼く前に、目に見えぬ放射熱に押しとどめられた。しばらく途方に暮れて立っていたが、やがて振り返り、穴をよじ登ると、夢中でウォーキングへ走り出した。時刻は六時ごろだったはずだ。荷馬車の御者に会い、説明しようとしたが、話も姿もあまりに尋常でなかった――帽子は穴のなかで落としていた――ので、相手はそのまま行ってしまった。ホーセル橋のそばの酒場で、ちょうど戸を開けていた下働きの男にも通じなかった。その男は逃げ出した狂人だと思い、酒場の一室に閉じ込めようとしたが、失敗した。これで少し冷静になったオギルヴィは、ロンドンの新聞記者ヘンダーソンが庭にいるのを見つけると、柵越しに声をかけ、ようやく話を理解させた。

「ヘンダーソン」と彼は呼んだ。「昨夜の流れ星は見ましたか?」

「ああ、それが?」とヘンダーソンは言った。

「あれが今、ホーセル・コモンにあるんです。」

「おやまあ!」とヘンダーソンは言った。「隕石が落ちたのか! それはいい。」

「でも、ただの隕石じゃない。円筒です――人工の円筒なんですよ! しかも、中に何かいる。」

ヘンダーソンは鋤を持ったまま立ち上がった。

「何ですって?」と彼は聞き返した。片耳が聞こえなかったのだ。

オギルヴィは見てきたことをすべて話した。ヘンダーソンは一分ほどかけてのみ込むと、鋤を放り出し、上着をひっつかんで道へ出た。二人はすぐさまコモンへ戻った。円筒は同じ場所に横たわっていた。だが内部の音は止み、蓋と本体のあいだに、光る金属の細い輪が見えていた。その縁では、かすかにしゅうしゅうと音を立て、空気が入るか漏れるかしていた。

二人は耳を澄まし、鱗状に焼けただれた金属を棒でたたいた。返事がないので、中の人間は、一人にせよ何人にせよ、気絶しているか死んでいるのだろうと考えた。

もちろん二人だけでは何もできなかった。励ましと助けを約束する言葉を叫び、また町へ引き返した。砂まみれになり、興奮して取り乱した二人が、明るい朝日のなか、狭い通りを駆けていく姿は想像がつくだろう。ちょうど店の人々は雨戸を外し、人々は寝室の窓を開けていた。ヘンダーソンはすぐ駅に入り、ロンドンへ電報を打った。それまでの新聞記事で、人々にはこの話を受け入れる下地ができていた。

八時にはもう、大勢の少年や仕事のない男たちが、「火星から来た死人」を見ようとコモンへ向かっていた。

噂はそんな形になったのだ。私が初めて聞いたのは八時四十五分ごろ、デイリー・クロニクルを受け取りに出たとき、新聞配達の少年からだった。当然ながら私は驚き、すぐに家を出て、オッターショウ橋を渡り、砂取り場へ向かった。

第三章 ホーセル・コモンにて

円筒の横たわる巨大な穴の周囲には、二十人ほどの小さな人だかりができていた。地面に埋まった巨体の姿は、すでに述べたとおりである。周囲の芝や砂利は、突発的な爆発に遭ったように焦げていた。衝突の瞬間に火が噴いたのだろう。ヘンダーソンもオギルヴィもいなかった。今は何もできないとわかり、ヘンダーソンの家へ朝食に行ったのだと思う。

四、五人の少年が穴の縁に足をぶらぶらさせて座り、巨大な物体へ石を投げて遊んでいた。私がやめさせると、今度は見物人の群れを縫って鬼ごっこを始めた。

見物人には、自転車で来た二人、私が時々頼む日雇いの庭師、赤ん坊を抱いた娘、肉屋のグレッグと幼い息子、それに、いつも駅のあたりをうろつく二、三人の無頼漢やゴルフのキャディーがいた。話す者はほとんどいなかった。当時のイギリスの庶民で、天文学について漠然とした知識以上のものを持つ人は少なかった。大半は、オギルヴィとヘンダーソンが残していったままの、大きなテーブルのような円筒の端を黙って見ていた。黒焦げの死体の山を期待していた人々は、この動かない塊に拍子抜けしたのだろう。私がいるあいだにも帰る人がいて、新しく来る人もいた。私は穴に降り、足元でかすかに何かが動く音を聞いた気がした。蓋は確かに回転を止めていた。

そこまで近づいて初めて、この物体の異様さがはっきりした。一見しただけでは、横転した馬車や、風で道に倒れた木ほどの刺激もない。実際、それ以下だった。錆びたガスタンクの浮き屋根のように見えた。灰色の鱗状の皮膜が普通の酸化物ではなく、蓋と円筒の隙間に光る黄白色の金属が見慣れぬ色をしているとわかるには、多少の科学教育が必要だった。見物人の大半にとって、「地球外」という言葉には意味がなかった。

そのとき私は、これが火星から来たことを疑っていなかったが、中に生き物がいるとは思えなかった。蓋が回るのは自動仕掛けかもしれない。オギルヴィの説にもかかわらず、私はまだ火星には人間がいると信じていた。円筒の中に文書が入っていたらどうだろう、翻訳にはどんな困難があるだろう、貨幣や模型もあるだろうかと、空想が次々に広がった。ただ、そうと決めつけるには、円筒は少し大きすぎた。早く開いたところを見たくてならなかった。十一時ごろ、何も起こりそうにないので、私はそんな考えを巡らせながら、メイベリーの家へ歩いて帰った。だが、抽象的な研究にはなかなか身が入らなかった。

午後になると、コモンの様子は一変していた。夕刊の早版が、大見出しでロンドンを驚かせたのだ。

「火星からの通信を受信。」

「ウォーキングより驚くべき報告。」

といった具合だった。さらに、オギルヴィが天文交流会へ送った電報は、
三王国[訳注:イングランド、スコットランド、アイルランド]すべての天文台を沸き立たせた。

砂取り場脇の道には、ウォーキング駅から来た辻馬車が六台以上、チョバムから来た籐張りの軽馬車、それに、いかにも身分の高そうな人の馬車が止まっていた。そのうえ、自転車も大量に積み重なっていた。暑さをものともせず、ウォーキングやチャートシーから歩いてきた人も多かったはずで、全体では相当な群衆になっていた。華やかな服の婦人も一、二人交じっていた。

日差しは焼けつくほど強く、空には雲一つ、風も一息なく、日陰といえば、まばらに立つ数本の松の下だけだった。ヒースの火は消えていたが、オッターショウへ続く平地は見渡すかぎり黒く焦げ、まだ煙の筋を垂直に上げていた。チョバム通りの商売熱心な菓子屋は、青リンゴとジンジャービールを手押し車いっぱいに積み、息子に売りに来させていた。

穴の縁へ行くと、なかに六人ほどの男がいた。ヘンダーソンとオギルヴィ、あとで王室天文官ステントと知った背の高い金髪の男、それに鋤やつるはしを振るう数人の作業員だ。ステントはよく通る甲高い声で指図していた。円筒の上に立っていたので、かなり冷えたのは明らかだった。顔は真っ赤で、汗が流れ、何かにいら立っているようだった。

円筒は大部分が掘り出されていたが、下端はまだ埋まっていた。穴の縁で見つめる群衆のなかに私を見つけると、オギルヴィはすぐ下へ呼び、荘園領主のヒルトン卿を訪ねてもらえないかと頼んだ。

増えつづける群衆、とりわけ少年たちが、掘り出し作業の大きな妨げになっているという。簡単な柵を設け、見物人を遠ざける手助けをしてもらいたかったのだ。内部では今も時折かすかな物音がするが、つかむところがないため、作業員には蓋を回せなかったという。外殻は途方もなく厚いらしく、われわれにかすかに聞こえる音も、内部では大騒ぎなのかもしれなかった。

私は喜んで引き受けた。そうすれば、予定されている囲いの内側で見物できる、特権的な一人にもなれる。ヒルトン卿は屋敷にいなかったが、ロンドンからウォータールー発六時の列車で帰る予定だと聞いた。そのときは五時十五分ごろだったので、私は家へ戻り、茶を飲んでから、卿を待ち受けるため駅へ歩いていった。

第四章 円筒が開く

コモンへ戻ったとき、日は沈みかけていた。ウォーキングの方角から小さな人の群れがいくつも急いで来ており、帰っていく者も一、二人いた。穴を囲む群衆は増え、レモン色の空を背に黒く浮かんでいた。二百人ほどだったろうか。声が高まり、穴の周囲では何かもみ合いが起きているらしかった。奇妙な想像が頭をよぎった。近づくにつれ、ステントの声が聞こえた。

「下がれ! 下がれ!」

少年がこちらへ走ってきた。

「動いてるんだ」と、すれ違いざまに言った。「ぐるぐる回って、外れかけてる。嫌だよ、あんなの。おれは家へ帰る。」

私は群衆へ進んだ。実際、二百か三百人はいたと思う。押し合いへし合いし、そこにいた一、二人の婦人も、決して引けを取っていなかった。

「穴に落ちたぞ!」と誰かが叫んだ。

「下がれ!」と何人もが言った。

群衆が少し揺れ動き、私は肘でかき分けて進んだ。みなひどく興奮していた。穴から奇妙なうなりが聞こえた。

「おい!」とオギルヴィが言った。「この馬鹿どもを下がらせるのを手伝ってくれ。あの忌々しいものの中に何がいるか、わからないんだぞ!」

若い男が円筒の上に立ち、穴からよじ登ろうとしていた。ウォーキングの店員だったと思う。群衆に押し落とされたのだ。

円筒の端は内側から回されていた。光るねじ山が二フィート近くせり出していた。誰かが私にぶつかり、私は危うくその上に落ちかけた。振り向いた瞬間、ねじが抜けたのだろう、円筒の蓋が砂利の上に落ち、金属音を響かせた。私は後ろの者に肘を突き入れ、もう一度〈もの〉へ顔を向けた。丸い空洞は、一瞬、完全な闇に見えた。夕日が目に入っていたのだ。

誰もが、人間が出てくると思っていたのではないか。地球の人間とは多少違っていても、肝心なところは人間だと。少なくとも私はそうだった。だが、見ているうちに、陰のなかで何かが動いた。灰色のものが幾重にも波打ち、続いて、二つの光る円盤が――目のようなものが見えた。すると、杖ほどの太さの、小さな灰色の蛇に似たものが、うねる塊の中心から巻き上がり、私に向かって空中でくねった。さらにもう一本。

突然、背筋が冷たくなった。後ろで女が大きな悲鳴を上げた。私は次々に触手の突き出してくる円筒から目を離さず、半身をひねり、穴の縁から人を押し分けて後退し始めた。周囲の顔で、驚きが恐怖へと変わっていった。あちこちで言葉にならない叫びがした。全員が後ずさっていた。店員はまだ穴の縁でもがいていた。気づくと私は一人で、穴の向こう側では人々が走り去っていた。ステントもそのなかにいた。再び円筒を見ると、抑えようのない恐怖に捕らえられた。私は石のように固まり、見つめるばかりだった。

熊ほどもありそうな、灰色の丸い巨体が、ゆっくり、苦しげに円筒からせり上がってきた。盛り上がって光を受けると、濡れた革のようにきらめいた。

二つの大きな黒っぽい目が、私をじっと見つめていた。その目を包む塊、すなわち頭部は丸く、いわば顔と呼べるものがあった。目の下には口があり、唇のない縁が震え、あえぎ、唾液を垂らしていた。全身が痙攣するように上下し、脈打っていた。細長い触手状の付属肢が円筒の縁をつかみ、もう一本は空中で揺れていた。

生きた火星人を見たことのない人には、その姿の異様な恐ろしさは想像もつくまい。上唇の尖った奇妙なV字形の口、眉の隆起のない額、くさび形の下唇の下にあるべき顎の欠如、絶えず震える口、ゴルゴン[訳注:蛇の髪を持つギリシャ神話の怪物]を思わせる触手の群れ、異質な大気のなかで激しくあえぐ肺、地球の強い重力による、見るからに重く苦しげな動き――そして何より、巨大な目のすさまじい眼光。そのすべてが、生々しく、強烈で、人間離れし、不具で、怪物じみていた。脂ぎった褐色の皮膚はどこか菌類めいており、ぎこちなく、だらだらと鈍い動作には、言いようもなく不快なものがあった。初めて出会い、ちらりと見ただけで、私は嫌悪と恐怖に打ちのめされた。

怪物は突然消えた。円筒の縁から転げ落ち、巨大な革の塊が落ちるような鈍い音を立てて、穴の底に落ちたのだ。奇妙なくぐもった叫びが聞こえ、すぐにまた一体、開口部の深い陰に黒々と現れた。

私は身をひるがえし、おそらく百ヤード先の最も近い木立へ、夢中で走った。だが、あのものたちから顔を背けられず、斜めに、つまずきながら走った。

若い松とハリエニシダの茂みに入り、私は息を切らして立ち止まり、その後の成り行きを見守った。砂取り場の周囲のコモンには人々が点々と立ち、私と同じく、恐怖に半ば魅入られて、あの生き物を、いや、正確にはその潜む穴の縁に積もった砂利を見つめていた。そのとき、穴の縁で丸い黒いものが上下するのが見え、私は新たな恐怖に襲われた。落ちた店員の頭だった。熱い西日を背に、小さな黒い物体に見えたのだ。肩と膝が縁に掛かったかと思うと、また滑り落ち、頭だけになった。ふいに消え、かすかな悲鳴が届いた気がした。戻って助けようという衝動が一瞬起こったが、恐怖がそれを押しつぶした。

それからは、円筒の落下でできた深い穴と砂山に隠され、何も見えなかった。チョバムかウォーキングから道を来る者がいたら、その光景に驚いただろう。百人余りに減っていく群衆が、溝のなか、茂みの陰、門や生け垣の後ろに、不ぞろいな大きな輪を描いて立っていた。言葉は少なく、交わすにしても、短く興奮した叫びだけだった。そして見つめていた。ただひたすら、いくつかの砂山を。ジンジャービールの手押し車は、燃える空を背に、黒々と、奇妙な見捨てられたものとして立っていた。砂取り場には無人の馬車が並び、馬は鼻袋から餌を食べたり、前脚で地面をかいたりしていた。

第五章 熱線

火星から地球へ運んできた円筒から、火星人が出てくる姿を垣間見たあと、私は一種の呪縛にとらわれて動けなかった。膝までヒースに埋まり、彼らを隠す盛り土を見つめつづけた。私のなかで、恐怖と好奇心がせめぎ合っていた。

穴へ戻る勇気はなかったが、のぞき込みたくてたまらなかった。そこで、地球への新来者を隠す砂山から目を離さず、見通しの利く場所を探して、大きく弧を描いて歩き始めた。一度、タコの腕のような細い黒い鞭の束が夕空を横切り、すぐに引っ込んだ。そのあと、細い棒が一節ずつ伸び上がり、先端の円盤がぐらつきながら回転し始めた。あそこで何が起こっているのだろう。

見物人の大半は、一、二か所に集まっていた。ウォーキング寄りに小さな群れがあり、チョバムの方角にも一団がいた。彼らも私と同じ葛藤を抱いているらしかった。近くにいる人は少なかった。一人に近づき、声をかけた。名前は知らないが、近所の男だと気づいた。だが、まともな会話のできる状況ではなかった。

「なんて醜い化け物だ!」と男は言った。「ああ、なんて醜い化け物だ!」

男は何度も同じことを繰り返した。

「穴のなかに人がいたのを見ましたか?」

私は尋ねたが、答えはなかった。私たちは黙り、しばらく並んで見ていた。誰かがそばにいることに、お互い多少の慰めを感じていたのだろう。やがて私は、一ヤード以上高くなる小さな盛り上がりへ移った。ほどなく男を捜すと、ウォーキングへ歩いていくところだった。

それ以上何も起こらないまま、夕焼けは薄闇へと変わった。左の遠く、ウォーキング寄りの群衆は増えているようで、かすかなざわめきが聞こえるようになった。チョバム寄りの一団は散っていた。穴には、ほとんど動く気配がなかった。

何よりこの静けさが、人々に勇気を与えた。ウォーキングから新しく来た人々も、安心を取り戻す助けになったのだろう。ともかく、日が暮れるにつれ、人々はゆっくり、途切れ途切れに砂取り場へ近づき始めた。円筒を取り巻く夕暮れの静寂が破られないほど、その動きは勢いを増すようだった。二、三人ずつの黒い人影が、進み、止まり、見つめ、また進んだ。そうして広がり、細く不ぞろいな三日月形を作り、その細い両端で穴を囲もうとしていた。私も、自分の側から近づき始めた。

そのとき、何人かの御者らが大胆に砂取り場へ入るのが見え、蹄の音と車輪のきしみが聞こえた。少年がリンゴの手押し車を押していった。そして、穴から三十ヤード以内のところに、ホーセルの方角から進む黒い小さな一団が見えた。先頭の男は白旗を振っていた。

これが使節団だった。急いで相談が行われ、火星人は姿こそ不快だが、明らかに知的な生物なのだから、合図を送りながら近づき、われわれも知性を持つことを示そうと決まったのだ。

旗は、ひらり、ひらりと、右へ、左へと揺れた。遠すぎて誰も見分けられなかったが、あとになって、オギルヴィ、ステント、ヘンダーソンらがこの交渉を試みていたと知った。一団は前進するにつれ、ほぼ完成していた人の輪を、いわば内側へ引き込んだ。ぼんやりした黒い人影がいくつも、慎重に距離を置いてついていった。

突然、光が閃き、緑がかった明るい煙が穴から噴き出した。はっきり三度に分かれ、ひとつ、またひとつと、静止した空気のなかをまっすぐ昇っていった。

その煙――むしろ炎と呼ぶべきかもしれない――はあまりに明るく、噴き上がると、頭上の濃い青空も、チャートシーへ続く、黒い松を点在させた霞む褐色のコモンも、急に暗くなったようだった。煙が散ったあとも、その暗さは残った。同時に、かすかなしゅうしゅうという音が聞こえ始めた。

穴の向こうでは、白旗を先頭にした小さなくさび形の一団が、この現象に足を止めていた。黒い地面の上に立つ、小さな黒い影の群れだった。緑の煙が昇ると、その顔が青緑色に浮かび、煙とともにまた消えた。やがて、しゅうしゅうという音は、徐々にうなりへ、長く大きな唸動音へと変わった。丸く盛り上がったものが穴からゆっくり現れ、そこから、光線の幻のようなものがかすかに揺らめき出た。

すると、散らばっていた人々のあいだから、本物の炎が噴き上がった。まばゆい火が、一人から次の一人へと跳び移った。目に見えぬ噴流がぶつかり、白い炎となって燃え上がるようだった。一人ひとりが、ふいに一瞬、火そのものになったかのようだった。

そして私は、彼らを滅ぼす炎の明かりによって、人々がよろめき、倒れ、そのあとに続いた者たちが向きを変えて逃げるのを見た。

私は立ちつくしていた。遠くの小さな群れのなかを、死が一人から一人へ跳んでいるとは、まだ理解できなかった。ただ、ひどく奇妙なことだと感じていた。ほとんど音もなく、目をくらます光が閃くと、人が頭から倒れ、動かなくなった。見えぬ熱の矢が通り過ぎると、松は燃え上がり、乾いたハリエニシダの茂みはどれも、ぼんという鈍い音とともに火の塊になった。遠いナップヒルの方角でも、木々や生け垣、木造の建物が、突然光って燃え始めた。

燃える死、目に見えず逃れようもない熱の剣が、速やかに、着実に、周囲をなぎ払っていた。触れられた茂みが光るので、こちらへ来るのがわかったが、私は驚きと茫然自失で動けなかった。砂取り場で火がはぜ、馬が突然悲鳴を上げ、たちまち途絶えた。そして、見えない灼熱の指が、私と火星人のあいだのヒースをなぞったようだった。砂取り場の向こうに弧を描いて、暗い地面が煙を上げ、ぱちぱちと鳴った。左手の遠く、ウォーキング駅からの道がコモンへ出るところで、何かが轟音を立てて倒れた。すぐに、しゅうしゅうという音もうなりも止み、黒いドーム状の物体は、穴へゆっくり沈んで見えなくなった。

あまりに一瞬の出来事で、私は驚きに呆然とし、閃光に目をくらまされ、立ったまま動けなかった。あの死が一周していたら、不意を突かれた私は間違いなく殺されていた。だがそれは通り過ぎ、私を生かして、周囲の夜を突如、暗く見知らぬものに変えた。

起伏のあるコモンは、暮れたばかりの深い青空の下、道だけが白っぽい灰色に見え、あとはほとんど真っ黒だった。暗く、突然、人が消えていた。頭上には星が集まり、西の空はまだ、緑がかるほど淡く明るい青だった。松の梢とホーセルの屋根が、西の残照に黒く鋭く浮かんだ。火星人もその装置も、揺れつづける鏡を載せた細い支柱を除いて、まったく見えなかった。あちこちの茂みや一本立ちの木が、まだ煙を上げ、赤く燃えていた。ウォーキング駅の方の家々は、静かな夕空へ尖った炎を伸ばしていた。

それと、恐ろしい驚き以外は、何も変わっていなかった。白旗を持った黒い点の小集団は消滅した。それでも夕べの静寂は、ほとんど破られもしなかったように思えた。

この暗いコモンに、私は一人、無力で、何の守りもなく立っている。そのことが胸に落ちた。すると突然、外から何かが降りかかるように、恐怖が来た。

力を振り絞って身をひるがえし、ヒースのなかを、つまずきながら走り始めた。

それは理屈のある恐れではなかった。火星人ばかりでなく、周囲の薄闇や静寂そのものへの、取り乱した恐怖だった。あまりにひどく気力を奪われ、私は子供のように声もなく泣きながら走った。一度背を向けると、もう振り返る勇気はなかった。

自分は弄ばれているのだという、異様な確信があったのを覚えている。安全な場所へあと一歩というところで、この謎めいた死が――光の走る速さで――円筒を囲む穴から私を追って跳び出し、打ち倒すのだ、と。

第六章 チョバム通りの熱線

火星人がどうしてあれほど速やかに、しかも無音で人を殺せるのかは、今も謎である。ほぼ完全に熱を通さない容器の内部で、何らかの方法により極度の熱を生じさせるのだと考える人が多い。その熱を、組成不明の磨かれた放物面鏡を使い、狙った物体へ平行な束として投射する。ちょうど灯台の放物面鏡が光を投げかけるように。だが、こうした細部を完全に証明した者はいない。仕組みはともかく、その本質が熱の束であることは確かだ。熱、そして可視光線ではなく不可視の光線。可燃物は触れただけで燃え上がり、鉛は水のように流れ、鉄は軟らかくなり、ガラスは割れて溶ける。水に当たれば、たちまち爆発して蒸気になる。

その夜、穴の周囲の星明かりの下には、焼け焦げ、ゆがみ、見分けもつかなくなった四十人近い人々が横たわっていた。ホーセルからメイベリーまでのコモンは、一晩じゅう人影もなく、明々と燃えていた。

虐殺の知らせは、チョバム、ウォーキング、オッターショウへ、おそらくほぼ同時に届いた。惨事が起きたころ、ウォーキングでは店じまいが済み、店の者など大勢が、聞いた話に誘われて、ホーセル橋を渡り、両側を生け垣に挟まれた、やがてコモンへ出る道を歩いていた。一日の仕事を終え、身なりを整えた若者たちが、この珍事を――何か目新しいことがあればいつもそうするように――口実に、一緒に散歩し、他愛ない恋の駆け引きを楽しんでいる姿を想像できるだろう。夕闇の道を満たす、あの話し声のざわめきを……。

もちろん、その時点では、円筒が開いたことさえ知る人はウォーキングにほとんどいなかった。哀れなヘンダーソンは、夕刊紙への特報電報を持たせ、自転車の使いを郵便局へ送っていたのだが。

二、三人ずつ開けた場所へ出た人々は、興奮して話しながら、砂取り場の上で回る鏡を見つめる小さな群れを見つけた。新しく来た者たちにも、その場の興奮はすぐ伝わったに違いない。

使節団が全滅した八時半には、道を離れて火星人へ近づいた者たちとは別に、この場所だけでも三百人以上が集まっていたかもしれない。警官も三人おり、一人は騎馬警官で、ステントの指示を受け、人々を下がらせ、円筒に近づけまいと努めていた。群衆といえば騒いで悪ふざけする機会だとしか思わない、軽率で興奮しやすい連中からは、やじも飛んだ。

ステントとオギルヴィは、衝突の可能性を案じ、火星人が出てくるとすぐ、ホーセルから兵営へ電報を打った。この奇妙な生物を暴力から守るため、一個中隊の援助を求めたのだ。そのあと戻り、あの不運な前進の先頭に立った。群衆が見た二人の死のありさまは、私の記憶とほとんど一致する。緑の煙が三度噴き、低いうなりが響き、炎が閃いた。

だが、あの群衆が逃れた危機は、私のよりはるかに際どかった。ヒースに覆われた砂の小丘が、熱線の下部を遮ったために助かっただけなのだ。放物面鏡の位置があと数ヤード高ければ、一人として生き残り、語ることはできなかっただろう。人々は閃光と倒れる男たちを見た。そして、いわば見えぬ手が、夕闇をこちらへ駆けながら、茂みに火をつけていった。次いで、穴のうなりを上回る鋭い音とともに、光線が頭上すれすれをなぎ払い、道沿いのブナの梢を燃やし、角に最も近い家の煉瓦を割り、窓を砕き、窓枠に火をつけ、切妻の一部を崩れ落とした。

木々が突然、ぼんと燃え、しゅうしゅうと鳴り、まばゆく光ったため、恐慌に陥った群衆は、しばらくためらうように揺れ動いたらしい。火の粉や燃える小枝、炎の小片のような葉が道へ降り始めた。帽子や服に火がついた。そのときコモンから叫びが起こった。悲鳴と怒号が交錯し、突如、騎馬警官が両手で頭を抱え、叫びながら混乱のなかを駆け抜けた。

「来るわ!」と女が叫んだ。たちまち誰もが向きを変え、ウォーキングへ戻る道を開けようと、後ろの者を押した。羊の群れのように、何も見ず逃げ出したのだろう。高い土手に挟まれて道が狭く暗くなるところで、群衆は詰まり、絶望的なもみ合いが起きた。全員が逃れたわけではない。少なくとも三人、二人の女と幼い男の子が、そこで押しつぶされ、踏みつけられ、恐怖と闇のなかに死ぬまま置き去りにされた。

第七章 家にたどり着くまで

私自身の逃走については、木にぶつかり、ヒースにつまずきながら進んだ苦しさしか覚えていない。周囲には火星人の目に見えぬ恐怖が迫り、あの情け容赦のない熱の剣が、いまにも振り下ろされて私の命を絶つ前に、頭上をあちらこちらへ旋回しているようだった。私は四つ辻とホーセルのあいだの道に出て、四つ辻へ向かって走った。

ついに一歩も進めなくなった。激しい感情と逃走に疲れ果て、よろめいて道端に倒れた。ガス工場のそばで運河を渡る橋の近くだった。倒れたまま動けなかった。

しばらく、そこにいたに違いない。

私は奇妙に当惑しながら身を起こした。一瞬、なぜここにいるのか、はっきりわからなかったのだと思う。恐怖は衣を脱ぐように消えていた。帽子はなく、襟は留め具から外れていた。ほんの数分前、現実のものは三つしかなかった。夜と宇宙と自然の広大さ、自分の弱さと苦悶、そして間近に迫る死。だが今は、何かが裏返り、見方が突然変わったようだった。一つの心の状態からもう一つへ移る過程は、感じられなかった。私は即座に、いつもの自分――まっとうな、ごく普通の市民――に戻っていた。静かなコモン、逃げ出した衝動、噴き上がる炎は、夢のなかの出来事のようだった。あれは本当に起きたのか、と自問した。信じられなかった。

立ち上がり、橋の急な坂をふらつきながら上った。頭はただ、空白の驚きに満たされていた。筋肉も神経も力を失ったようだった。酔ったようによろめいていたのだろう。橋の丸みの向こうに頭が現れ、籠を提げた労働者の姿が見えた。脇を小さな男の子が走っていた。男はこんばんはと言って通り過ぎた。話しかけようかと思ったが、やめた。挨拶に意味もなくもごもごと答え、橋を渡りつづけた。

メイベリーのアーチを、列車が南へ飛び去った。火に照らされた白煙が大きく渦巻き、明るい窓が長い毛虫のように連なっていた。がたがた、がたがた、がたん、ごとん――そして消えた。オリエンタル・テラスと呼ばれる、こぢんまりした美しい切妻屋根の家並みの一軒では、門口に数人がぼんやり立ち、話していた。何もかも現実で、見慣れたものだった。それなのに、背後のあれは! 狂気じみた、ありえぬ幻想! あんなことがあるはずはない、と私は自分に言った。

私はとりわけ気分の変わりやすい人間なのかもしれない。この経験がどれほど人にもあるのか、私にはわからない。ときおり、自分自身と周囲の世界から切り離される、ひどく奇妙な感覚に襲われる。何もかもを外から、想像もつかぬほど遠い場所から、時の外、空間の外、すべての苦悩と悲劇の外から眺めているようなのだ。その夜は、その感覚が非常に強かった。ここには、夢のもう一つの面があった。

だが、この静けさと、二マイルと離れていないところを飛び交う速やかな死との、あまりの不釣り合いが私を苦しめた。ガス工場では作業の音がし、電灯はすべてともっていた。私は人々のそばで立ち止まった。

「コモンの様子はどうですか?」と尋ねた。

門口には男二人と女一人がいた。

「え?」と男の一人が振り向いた。

「コモンの様子は?」

私は繰り返した。

「あんた、今までそこにいたんじゃないのか?」と男たちは言った。

「みんなコモンのことで、すっかり浮かれちゃって」と女が門越しに言った。「いったい何の騒ぎなの?」

「火星から来た人間のことを聞いていませんか?」と私は言った。「火星から来た生き物のことを?」

「もう十分聞いたわ」と女は門越しに言った。「どうもご親切に」。三人とも笑った。

私は間抜けにされた気がして、腹が立った。見たことを話そうとしたが、うまく言えなかった。途切れ途切れの言葉に、また笑われた。

「そのうち、もっと聞くことになりますよ」と私は言い、家へ向かった。

戸口で、私のやつれた姿に妻が驚いた。私は食堂に入り、腰を下ろし、ワインを飲んだ。話せるほど気持ちが落ち着くと、見てきたことを話した。冷たい料理の夕食はすでに出ていたが、私が語るあいだ、食卓に手つかずで置かれていた。

「ただ、一つだけ」と、私は与えてしまった恐怖を和らげようと言った。「あれほどのろのろ這うものは見たことがない。穴に居座って近づく人を殺せても、外へは出られない。……それにしても、あの恐ろしい姿は!」

「もうやめて、あなた」と妻は眉を寄せ、私の手に手を重ねた。

「気の毒なオギルヴィ!」

私は言った。「今ごろ、あそこで死んでいるかもしれないんだ!」

少なくとも妻は、私の体験を信じられないとは思わなかった。その顔が死人のように白いのを見て、私は急に口をつぐんだ。

「ここへ来るかもしれないわ」と妻は何度も言った。

私はワインを勧め、安心させようとした。

「あいつらは、ほとんど動けないんだ。」

私は、火星人が地球に定着するのは不可能だという、オギルヴィから聞いた話を繰り返し、妻と自分を慰め始めた。とりわけ重力の問題を強調した。地球表面の重力は、火星表面の三倍ある。したがって火星人は、筋力は同じなのに、体重は三倍になる。自分の体が鉛の外套になるわけだ。実際、それが一般的な見方だった。たとえば翌朝のタイムズもデイリー・テレグラフも、この点を強調していた。そして両紙とも、私と同じく、状況を変える二つの明白な要因を見落としていた。

今ではわかっているが、地球の大気には火星よりはるかに多くの酸素が、あるいは、はるかに少ないアルゴンが含まれる――どちらの言い方でもよい。この余分な酸素が火星人に与える活力は、増した体重を補ううえで、間違いなく大きな役割を果たした。第二に、火星人ほど機械に秀でた知性なら、いざとなれば筋力を使わずに済ませられるという事実を、われわれはみな忘れていた。

だが、そのときの私はこれらを考えず、理屈のうえでは侵入者にまったく勝ち目がないと判断していた。ワインと食事、自分の食卓の安心感、妻を落ち着かせねばならぬ必要に支えられ、いつのまにか勇気と安堵が戻ってきた。

「馬鹿なことをしたものだ」と、私はワイングラスに指を触れながら言った。「危険なのは、恐怖で正気を失っているからに違いない。生き物はいないと思っていたのかもしれない。少なくとも、知的な生き物は。」

「最悪の場合でも」と私は言った。「穴へ砲弾を一発打ち込めば、みな殺せる。」

一連の出来事の激しい興奮で、私の感覚は異常に鋭くなっていたのだろう。あの夕食の食卓は、今でも驚くほど鮮明に覚えている。桃色のランプシェードの下から、不安そうに私をのぞく、愛しい妻の優しい顔。白い食卓布の上の銀器とガラス器――当時は哲学の物書きにも、ささやかな贅沢がいろいろあった――。グラスのなかの紅紫色のワイン。それらは写真のようにはっきりしている。食後、私は座ったまま、木の実をつまみ、合間にたばこを吸い、オギルヴィの無謀さを惜しみ、火星人の近視眼的な臆病さを非難した。

モーリシャス島の、どこか立派なドードーも、巣のなかで尊大に構え、肉を求める無慈悲な水夫を満載した船の到来を、こんなふうに論じたかもしれない。「明日になったら、つつき殺してやろうじゃないか、おまえ。」

私は知らなかったが、その後の長い、奇怪で恐ろしい日々を前に、これが最後の文明的な夕食となった。

第八章 金曜の夜

あの金曜日に起きた数々の奇妙で驚くべきことのなかで、私にとって最も不思議なのは、社会秩序を根底から倒すことになる一連の事件の始まりが、その社会の日常の習慣と、なんの支障もなくかみ合っていたことだ。金曜の夜、コンパスを取り、ウォーキングの砂取り場を中心に半径五マイルの円を描いたとして、その外側で、新来者のために気持ちや暮らしぶりを変えた人間が一人でもいただろうか。コモンで死んだステントや、三、四人の自転車乗り、ロンドンから来た人々の身内なら別だが。もちろん円筒のことを聞き、暇な折に話題にした者は多かった。だが、ドイツへの最後通告ほどの騒ぎには、とうていならなかった。

その夜ロンドンでは、飛来物の蓋がゆっくり回って外れるさまを記した、哀れなヘンダーソンの電報は、作り話と判断された。彼の夕刊紙は確認を求める電報を打ち、返事がないので――当人は殺されていた――号外を出さないと決めた。

五マイルの円内ですら、大多数は動かなかった。私が話しかけた男女の態度は、すでに述べた。地域じゅうで人々は夕食や夜食をとり、労働者は一日の仕事のあと庭をいじり、子供は寝かされ、若者は小道を歩いて愛を語り、学生は本に向かっていた。

村の通りにはざわめきがあったかもしれない。酒場では新しい話題が会話を独占し、あちこちで使者や、その後の出来事の目撃者が、興奮の渦や叫び声、右往左往を引き起こしたかもしれない。だが大半は、働き、食べ、飲み、眠る日常を、数えきれぬ歳月そうしてきたままに続けていた。まるで空に火星などないかのように。ウォーキング駅でも、ホーセルでも、チョバムでも、同じだった。

ウォーキングの分岐駅では、遅い時刻まで列車が停車しては出発し、側線では入れ換えが行われ、乗客は降り、待ち、何もかもがいつもどおり進んでいた。町の少年がスミス社の独占に食い込み、午後のニュースを載せた新聞を売っていた。貨車のぶつかる響きや、分岐点から聞こえる機関車の鋭い汽笛に、「火星から来た人間!」という売り声が交じった。

九時ごろ、興奮した男たちが信じがたい知らせを携えて駅へ来たが、酔っぱらいが来た以上の騒ぎにはならなかった。がたごととロンドンへ向かう乗客は、窓の外の闇をのぞいた。見えたのは、ホーセルの方角からまれに舞い上がり、揺らめいて消える火の粉と、赤い輝き、それに星を横切る薄煙だけだった。せいぜい荒地の火事だろうと思った。異変が感じられたのは、コモンの縁だけだった。ウォーキングに接するあたりでは六軒ほどの邸宅が燃えていた。三つの村のコモン側の家々はすべて明かりをともし、住民は夜明けまで起きていた。

チョバム橋にもホーセル橋にも、好奇心に駆られた群衆が落ち着きなくたむろしていた。人は入れ替わっても、群れは残った。あとでわかったことだが、一、二人の物好きが闇へ入り、火星人のすぐ近くまで這っていった。だが戻らなかった。ときおり、軍艦の探照灯のような光がコモンをなぎ払い、そのあとには熱線が控えていたのだ。それらを除けば、広いコモンは静まり返り、荒涼としていた。星の下、焼け焦げた遺体が一晩じゅう、そして翌日も、そこかしこに横たわっていた。穴から響く槌音を聞いた人は多かった。

これが金曜の夜のありさまだった。中心には円筒があり、古い惑星、地球の皮膚に毒矢のように突き刺さっていた。だが毒は、まだほとんど回っていなかった。周囲は静かなコモンで、ところどころがくすぶり、黒い物体がいくつか、ねじれた姿で横たわって、かすかに見えた。あちこちに燃える茂みや木があった。その外側を興奮の帯が囲んでいたが、炎症はまだそこから先へ広がっていなかった。世界のほかの場所では、生命の流れが、太古からのままに続いていた。まもなく静脈も動脈も詰まらせ、神経を麻痺させ、頭脳を破壊する戦争の熱は、まだ発症していなかった。

一晩じゅう火星人は眠らず、疲れも知らず、槌を振るい、立ち働き、機械の準備を進めた。ときおり、緑白色の煙がひと吹き、星空へ渦を巻いて昇った。

十一時ごろ、一個中隊の兵士がホーセルを通り、コモンの縁に展開して封鎖線を張った。その後、第二の中隊がチョバムを通り、北側へ展開した。日中にはインカーマン兵営の将校数人がコモンへ来ており、そのうちエデン少佐は行方不明と伝えられた。連隊の大佐はチョバム橋へ来て、真夜中にも群衆への聞き取りに忙しかった。軍当局は、確かに事態の重大さを認識していた。翌朝の新聞によれば、十一時ごろ、軽騎兵一個中隊、マキシム機関銃二挺、カーディガン連隊の兵約四百人が、オールダーショットを出発したという。

真夜中を数秒過ぎたころ、ウォーキングのチャートシー通りの群衆は、星が空から北西の松林へ落ちるのを見た。緑がかった色をしており、夏の遠雷のように、音もなく空を明るくした。これが第二の円筒だった。

第九章 戦闘開始

土曜日は、気をもませる一日として記憶に残っている。けだるい日でもあった。暑く、蒸し、気圧計の針も激しく上下していたという。妻は眠れたが、私はほとんど眠れず、早く起きた。朝食前に庭へ出て耳を澄ませたが、コモンの方角で動くものは、ヒバリだけだった。

牛乳屋はいつもどおり来た。車のがたつく音を聞き、私は最新の知らせを聞こうと脇門へ回った。夜のうちに火星人は軍隊に包囲され、大砲も来る予定だという。そのとき、聞き慣れた、安心させる音がした。ウォーキングへ向かう列車だった。

「できることなら、殺さない方針だそうですよ」と牛乳屋は言った。

隣人が庭仕事をしているのを見つけ、しばらく話してから朝食に戻った。まったく平凡な朝だった。隣人は、その日のうちに軍隊が火星人を捕らえるか、始末できるだろうと考えていた。

「あんなに人を寄せつけないのは残念ですね」と彼は言った。「ほかの惑星でどう暮らしているのか、知ったら面白いでしょうに。何か教わることもあるかもしれない。」

彼は垣根まで来て、一握りのイチゴを差し出した。庭仕事に熱心なだけでなく、実りを気前よく分ける人だった。同時に、バイフリート・ゴルフリンクス周辺の松林が燃えていると教えてくれた。

「また、あの厄介なものが落ちたそうです。二つ目が。でも、一つでたくさんですよ。この騒ぎが片づくまでには、保険屋もずいぶん払うことになるでしょう。」

そう言って、たいそう機嫌よく笑った。林はまだ燃えていると言い、煙の霞を指さした。「松葉と芝が厚く積もっているから、何日も地面が熱いでしょうね」。それから、「気の毒なオギルヴィさん」の話になり、真顔に戻った。

朝食後、私は仕事をせず、コモンの方へ歩いていくことにした。鉄道橋の下に兵士の一団がいた。工兵だったと思う。小さな丸帽子をかぶり、汚れた赤い上着のボタンを外して青いシャツをのぞかせ、濃色のズボンと、ふくらはぎまでの長靴を履いていた。運河の向こうには誰も通せないと言われた。橋へ続く道を見ると、カーディガン連隊の兵が一人、歩哨に立っていた。私はしばらく兵士たちと話し、前夜に見た火星人の様子を伝えた。誰も実物を見たことがなく、ごく曖昧な印象しか持っていなかったので、矢継ぎ早に質問された。部隊の移動を誰が命じたのかは知らず、ホース・ガーズ[訳注:当時のイギリス陸軍司令部]でもめたのだろうと考えていた。一般に工兵は普通の兵士よりずっと教育があり、予想される戦いの特殊な条件について、かなり鋭く論じ合った。私が熱線を説明すると、兵士同士の議論が始まった。

「物陰を這って近づいて、一気に襲うんだな」と一人が言った。

「馬鹿言え」と別の一人が言った。「そんな熱に、何の物陰が役に立つ? おまえを焼く薪になるだけだ! 地形に隠れて行けるだけ行って、そこから塹壕を掘るんだ。」

「塹壕なんぞくそ食らえだ! おまえはいつも塹壕だな。ウサギに生まれりゃよかったんだよ、スニッピー。」

「じゃあ、首もないってのか?」と三人目が、ふいに聞いた。小柄で浅黒く、物思わしげにパイプを吸っている男だった。

私はもう一度説明した。

「タコだな」と男は言った。「おれに言わせりゃタコだ。『人間を漁すなどる者』[訳注:聖書で、イエスが弟子に与えた言葉]どころか、今度は魚と戦う者だ!」

「あんな獣を殺したって、人殺しにはならん」と最初の男が言った。

「さっさと砲弾をぶち込んで、終わりにすりゃいいじゃないか」と小柄で浅黒い男が言った。「何をしでかすかわからんぞ。」

「その砲弾はどこにある?」と最初の男が言った。「時間がないんだ。一気にやる。おれならそうする。今すぐだ。」

そんなふうに議論していた。しばらくして私は彼らと別れ、朝刊をできるだけ買おうと駅へ向かった。

だが、長い午前と、いっそう長い午後を細かく述べて、読者を退屈させるつもりはない。ホーセルとチョバムの教会塔まで軍が押さえていたので、コモンを一目見ることさえできなかった。話しかけた兵士は何も知らず、将校たちは忙しいうえ、口を閉ざしていた。町の人々は軍の存在にすっかり安心を取り戻していた。たばこ屋のマーシャルから、息子がコモンで死んだ者の一人だと、初めて聞いた。ホーセルの外れの住民は、兵士に家の鍵を掛けて退去するよう命じられていた。

二時ごろ、ひどく疲れて昼食に戻った。すでに述べたとおり、その日は非常に暑く、うっとうしかったので、午後には気分を変えようと冷水浴をした。四時半ごろ、夕刊を買いに駅へ出かけた。朝刊には、ステント、ヘンダーソン、オギルヴィらの死について、ひどく不正確な記事しかなかったからだ。だが、知らないことはほとんど載っていなかった。火星人は姿をまったく見せなかった。穴のなかで忙しく働いているらしく、槌音がし、煙がほぼ絶えず上がっていた。どうやら戦闘の準備をしていたのだ。「改めて信号による接触を試みたが、成果はない」が各紙のお決まりの文句だった。工兵の話では、溝に入った男が、長い竿の先の旗で合図したという。火星人はそんな働きかけに、われわれが牛の鳴き声に向ける程度の注意しか払わなかった。

これほどの武装と準備を目にして、私が大いに興奮したことは認めねばならない。想像力は好戦的になり、侵入者を十通りもの華々しい方法で打ち破った。少年時代に夢見た戦闘と英雄的活躍が、いくらかよみがえったのだ。そのころの私には、あまり公平な戦いとは思えなかった。穴のなかの連中は、ひどく無力に見えた。

三時ごろから、チャートシーかアドルストーンの方角で、一定の間隔を置いて大砲が鳴り始めた。第二の円筒が落ちた、くすぶる松林を砲撃していると聞いた。開く前に破壊しようというのだ。だが、最初の火星人たちに向ける野砲がチョバムへ着いたのは、五時ごろになってからだった。

夕方六時ごろ、私は妻と庭のあずまやで茶を飲み、迫りつつある戦闘を熱心に論じていた。するとコモンからくぐもった爆発音がし、すぐに一斉射撃が続いた。その直後、すぐ近くで激しい轟音が起こり、地面が揺れた。芝生へ飛び出すと、オリエンタル・カレッジの周囲の梢が煙を含んだ赤い炎に包まれ、隣の小さな教会の塔が崩れ落ちた。モスクの尖塔は消え、カレッジ自体の屋根も、百トン砲に撃たれたようになっていた。わが家の煙突の一本が、砲弾に当たったように裂けて吹き飛び、一部が瓦の上をがらがらと落ち、書斎の窓の下の花壇に、赤い破片の山となった。

妻も私も立ちすくんだ。そのとき私は、遮っていたカレッジがなくなった以上、メイベリー・ヒルの頂も火星人の熱線の射程内に入ったはずだと悟った。

私は妻の腕をつかみ、有無を言わせず道へ走らせた。それから女中を連れ出し、箱が欲しいと騒ぐので、私が二階から取ってくると言った。

「ここにはいられない」と私は言った。その言葉の最中、コモンで一瞬、射撃が再開した。

「でも、どこへ行けばいいの?」と妻はおびえて言った。

私は途方に暮れて考えた。そして、レザヘッドにいる妻のいとこたちを思い出した。

「レザヘッドだ!」

突然の騒音に負けぬよう、私は叫んだ。

妻は私から目を離し、坂の下を見た。人々が驚いて家から出てきていた。

「どうやってレザヘッドまで行くの?」

坂の下では、一団の軽騎兵が鉄道橋の下をくぐった。三騎はオリエンタル・カレッジの開いた門を駆け抜け、別の二人は馬を下り、家から家へ走り始めた。梢から立ち昇る煙を通して輝く太陽は血のように赤く、何もかもを見慣れぬ不気味な光で照らした。

「ここにいてくれ。ここなら安全だ」と私は言い、すぐにスポッテッド・ドッグ亭へ向かった。主人が馬と二輪馬車を持っていると知っていたのだ。まもなく丘のこちら側の全員が動き出すとわかり、私は走った。主人は酒場におり、家の裏で何が起きているか、まったく知らなかった。男が一人、私に背を向けて主人と話していた。

「一ポンドはもらわなきゃな」と主人は言っていた。「それに、御者がいない。」

「二ポンド出す」と私は見知らぬ男の肩越しに言った。

「何の代だ?」

「真夜中までには返しに来る。」

「おいおい、何をそんなに急ぐ?」と主人は言った。「こっちは豚を売る話をしてるんだ。二ポンドで、返してくれるって? いったい何があった?」

私は急いで、家を離れねばならないと説明し、二輪馬車を借りた。そのとき、主人も家を離れるべきだとは、同じほど切実には感じなかった。私はその場で確実に馬車を受け取り、道を下って走らせ、妻と女中に預けると、家へ駆け込み、いくつかの貴重品や、わずかな銀器などをまとめた。そのあいだにも家の下手のブナは燃え、道の上手の板柵は赤く輝いていた。作業中、馬を下りた軽騎兵の一人が走ってきた。各戸を回り、退去を警告していたのだ。私が宝物を包んだテーブルクロスを抱えて玄関を出たとき、兵士は先へ行くところだった。私は背後から叫んだ。

「どうなっているんだ?」

兵士は振り向いてこちらを見つめ、「料理の蓋みたいなものに入って這い出してきた」といったことを怒鳴り、頂上の家の門へ走っていった。突然、黒い煙が渦を巻いて道を横切り、一瞬その姿を隠した。私は隣の戸をたたき、知っていたことを確かめた。隣人は妻とロンドンへ行き、家には鍵が掛かっていた。私は約束どおり女中の箱を取りに戻り、引きずり出して、馬車の後部の女中の脇へ置いた。それから手綱をつかみ、妻の隣の御者台へ跳び乗った。次の瞬間には煙と騒音を抜け、メイベリー・ヒルの反対側の坂を、オールド・ウォーキングへ向かって勢いよく下っていた。

前方には、穏やかな日なたの風景があった。道の両側には麦畑が広がり、メイベリー亭の看板が揺れていた。医者の馬車が先を走っていた。坂の下で、私は離れていく丘を振り返った。赤い炎の筋を交えた濃い黒煙が、静かな空へ流れ昇り、東側の緑の梢に暗い影を落としていた。煙はすでに東西へ遠く延び、東はバイフリートの松林へ、西はウォーキングへ達していた。道には、こちらへ走ってくる人が点在していた。暑く静かな空気を通して、ごくかすかだがはっきりと、機関銃のうなりが聞こえ、やがて止んだ。小銃の音は断続的に続いた。火星人は熱線の届くかぎり、何もかもに火をつけているらしかった。

私は御者が得意ではなく、すぐ馬へ注意を戻さねばならなかった。次に振り返ったときには、二つ目の丘が黒煙を隠していた。私は鞭を振るい、手綱を緩めて馬を走らせ、震えるような騒乱とのあいだに、ウォーキングとセンドが入るまで進んだ。ウォーキングとセンドのあいだで、医者の馬車に追いつき、追い越した。

第十章 嵐のなかで

レザヘッドはメイベリー・ヒルから十二マイルほどある。パイフォードを過ぎた豊かな牧草地には干し草の香りが漂い、両側の生け垣は、無数の野バラで甘く華やいでいた。メイベリー・ヒルを下る途中に始まった激しい砲撃は、始まったときと同じ唐突さで止み、夕暮れはひどく穏やかで静かになった。九時ごろ、私たちは無事レザヘッドへ着いた。私はいとこたちと夕食をとり、妻を託し、そのあいだ馬を一時間休ませた。

道中、妻は妙に口数が少なく、不吉な予感に押しつぶされているようだった。私は安心させようと話しかけ、火星人は体が重すぎて穴に縛りつけられており、せいぜい少し外へ這い出せるだけだと説明した。だが妻は短く答えるばかりだった。宿の主人との約束がなければ、その晩はレザヘッドにとどまるよう、きっと頼んだだろう。そうしていればよかったのだ! 別れるときの妻の顔は、ひどく白かったと覚えている。

一方、私は一日じゅう熱に浮かされたように興奮していた。文明社会をときおり走る戦争熱によく似たものが血に入り込み、心の底では、その夜メイベリーへ戻らねばならないのを、それほど残念に思っていなかった。それどころか、最後に聞いた一斉射撃で火星からの侵入者が全滅してしまったのではないかと、恐れてさえいた。獲物にとどめを刺す場に居合わせたかった、と言えば、当時の心境が最もよく表せる。

帰途についたのは十一時近くだった。夜は思いがけず暗かった。いとこたちの家の明るい廊下から出た私には、まさに真っ暗に見えた。昼と同じく蒸し暑かった。周囲の低木を揺らす風は一息もないのに、頭上の雲は速く流れていた。いとこの使用人が二つの車灯をともした。幸い、道は熟知していた。妻は明るい戸口に立ち、私が馬車に乗るまで見ていた。それからふいに身をひるがえして中へ入り、並んで無事を祈るいとこたちだけを残した。

初めは妻の不安が移って、少し気が沈んでいたが、考えはすぐ火星人へ戻った。そのとき私は、夕方の戦闘がどう進んだのか、まったく知らなかった。戦いを引き起こした事情すらわからなかった。オッカムを通るころ――帰りはセンドとオールド・ウォーキングではなく、こちらを選んだ――西の地平に血のような赤い光が見えた。近づくにつれ、その光は空へゆっくり這い上がった。迫る雷雨の流れる雲が、そこで黒と赤の煙の塊に交じっていた。

リプリー通りは無人だった。窓の一つ二つに明かりがあるほか、村に人の気配はなかった。だが、パイフォードへ折れる角では、危うく事故を起こしかけた。一団が私に背を向けて立っていたのだ。通り過ぎても何も言わなかった。丘の向こうの出来事を彼らがどれほど知っていたのか、私にはわからない。道沿いの静かな家々も、住民が安心して眠っていたのか、見捨てられて空だったのか、それとも夜の恐怖におびえ、眠らず見張っていたのか、わからない。

リプリーからパイフォードを抜けるまではウェイ川の谷にいたので、赤い光は見えなかった。パイフォード教会の先の小丘を上ると、光が再び現れ、周囲の木々が、迫る嵐の最初の気配に震えた。背後で教会の鐘が真夜中を打つのが聞こえた。それからメイベリー・ヒルの輪郭が見え、梢と屋根が赤い背景に黒く鋭く浮かんだ。

それを見つめていると、不気味な緑の光が周囲の道を照らし、遠いアドルストーン方面の森を浮かび上がらせた。手綱がぐいと引かれた。流れる雲を、一本の緑の火の糸が貫いたようだった。入り乱れる雲を一瞬照らし、左の野原へ落ちた。第三の流れ星だった! 

その出現に続き、対照的な紫色のまばゆさで、迫る嵐の最初の稲妻が踊り出た。雷は頭上でロケット花火のように炸裂した。馬は銜はみを噛み締め、制御を振り切って暴走した。

メイベリー・ヒルの麓へ続く緩い坂を、馬車はがたがたと駆け下りた。稲妻はいったん始まると、見たこともないほど矢継ぎ早に閃きつづけた。雷鳴は次から次へ追い重なり、奇妙なぱちぱちという音を伴っていた。いつもの轟く残響というより、巨大な電気機械が動いているようだった。明滅する光は目をくらませ、方向感覚を奪った。坂を下る私の顔を、細かな雹ひょうが突風に乗って打った。

初めは前方の道しか目に入らなかったが、ふいに、メイベリー・ヒルの向かい側の斜面を速く下るものに注意を奪われた。最初は濡れた家の屋根かと思った。だが、続く閃光で、それが揺れながら急速に動いているとわかった。つかみどころのない光景だった。一瞬、何もわからぬ闇。次いで昼のような閃光に、丘の頂近くの孤児院の赤い建物、松の緑の梢、そしてその不可解な物体が、鮮明に、鋭く、明るく現れた。

私が見たあの〈もの〉を、どう描けばよいだろう! 幾棟もの家を超える高さの、怪物じみた三脚――トライポッド。若い松をまたぎ、進みながらなぎ倒す。輝く金属の歩行機械が、今はヒースを大股で横切っていた。節のある鋼鉄の綱が垂れ下がり、その歩みのけたたましい響きが、荒れ狂う雷鳴と交じった。ひとたび光ると、二本の脚を宙に上げ、一方へ傾いた姿が鮮やかに現れ、消えたかと思うと、次の閃光では、ほとんど一瞬にして百ヤードも近づいていた。乳搾りの腰掛けを傾け、地面の上を激しく転がすところを想像できるだろうか。瞬間ごとの光が与えた印象は、それだった。ただし腰掛けの代わりに、三脚で支えられた巨大な機械を思い浮かべてほしい。

そのとき突然、前方の松林が割れた。人が押し分ける、もろい葦のように、木々は折れ、勢いよく倒れた。そして第二の巨大なトライポッドが現れ、こちらへまっしぐらに突進するように見えた。私はそれを迎えるように全速で走っていたのだ! 二体目の怪物を見て、気力は完全に砕けた。見直す暇もなく、私は馬の頭を力いっぱい右へ引いた。次の瞬間、二輪馬車が馬の上へ傾き、轅が大きな音を立てて折れた。私は横へ投げ出され、浅い水たまりに激しく落ちた。

ほとんどすぐに這い出し、足を水につけたまま、ハリエニシダの茂みの下へうずくまった。馬は動かなかった――哀れに、首が折れていた! 稲妻の明かりで、横転した馬車の黒い塊と、まだゆっくり回る車輪の影が見えた。次の瞬間、巨大な機械が大股で私のそばを通り、パイフォードへ向かって坂を上っていった。

間近に見ると、その〈もの〉は信じがたいほど奇妙だった。ただ無感覚に進む機械ではなかったのだ。確かに機械であり、金属音を響かせて歩き、長く柔軟にきらめく触手を――一本は若い松をつかんでいた――異様な胴体の周囲で揺らし、がちゃがちゃと鳴らしていた。だが、進む道を選びながら歩き、上に載る真鍮色の覆いは左右に動いて、周囲を見回す頭をどうしても思わせた。本体の後ろには、巨大な漁籠のような白い金属の大塊があり、怪物がそばを通ると、脚の関節から緑の煙が噴き出した。そして一瞬のうちに去った。

そのとき見えたのは、それだけだった。明滅する稲妻のせいで、まばゆい光と濃い黒影のなかに、すべて曖昧に見えた。

通り過ぎるとき、怪物は雷をもかき消す、勝ち誇ったような耳をつんざく叫びを上げた――「アロー! アロー!」。一分後には半マイル先で仲間と一緒になり、野原の何かへ身をかがめていた。あれは、火星から撃ち込まれた十本の円筒のうち、第三のものだったに違いない。

私は数分間、雨と闇のなかに伏せ、途切れ途切れの光によって、生け垣の向こうを動く遠い金属の怪物たちを見ていた。細かな雹が降り始め、その強まりや弱まりにつれ、姿は霞んだり、再びくっきり閃いたりした。ときおり稲妻が途切れると、夜がそれらをのみ込んだ。

上からは雹、下からは水たまりで、私はずぶ濡れだった。茫然とした驚きから抜け出し、土手をよじ登って少し乾いた場所へ移ろうとしたり、差し迫る危険を考えたりできるまでには、しばらくかかった。

遠くないところに、誰かが勝手に建てて住んでいる、一間きりの木の小屋があり、小さなジャガイモ畑に囲まれていた。私はようやく立ち上がり、身を低くし、隠れられるものはすべて利用して、そこへ走った。戸をたたいたが、中の者には聞こえなかった――そもそも誰かいたのかどうか。しばらくして諦め、道の大部分で溝を利用しながら、怪物じみた機械に見つからず、メイベリー寄りの松林へ這い込むことができた。

木立に隠れ、濡れて震えながら、自宅へ向かった。小道を探して木々のあいだを歩いた。稲妻はまばらになり、林はひどく暗かった。激しく降る雹が、厚い葉の隙間から柱のように落ちてきた。

見たことすべての意味を十分に理解していたなら、すぐさまバイフリートからストリート・コバムへ回り、レザヘッドの妻のもとへ戻っただろう。だがその夜は、周囲の異様さと体の惨めさが、それを妨げた。打ち身だらけで疲れ、芯まで濡れ、嵐に耳も目も奪われていたのだ。

ただ家へ帰ろうという曖昧な考えだけがあり、それが動機のすべてだった。木々のあいだをよろめき、溝に落ちて板で膝を打ち、やっと水を跳ね上げて、カレッジ・アームズ亭から下る小道へ出た。水を跳ね上げて、と言うのは、嵐の雨水が砂を押し流し、泥の奔流となって坂を下っていたからだ。そこで、暗闇のなかから男がぶつかってきて、私は後ろへよろめいた。

男は恐怖の叫びを上げ、横へ跳び、私が気を取り直して声をかける前に走り去った。この場所では嵐の勢いがあまりに強く、坂を上るのにひどく苦労した。左の柵へ寄り、板に沿って進んだ。

頂上近くで柔らかなものにつまずき、稲妻に照らされて、両足のあいだに黒い厚地の服の塊と、一足の長靴が見えた。男がどう倒れているのか見極める前に、光は消えた。私は上に立ったまま、次の閃光を待った。光ると、頑丈な男だとわかった。安物だがみすぼらしくはない服を着て、頭を体の下へ折り込み、柵に激しく投げつけられたように、そばで折り重なっていた。

初めて死体に触れる者の当然の嫌悪を抑え、私はかがんで裏返し、心臓を確かめた。完全に死んでいた。首が折れているらしかった。三度目の稲妻で、その顔が目に飛び込んだ。私は跳び起きた。スポッテッド・ドッグ亭の主人だった。私が馬車を借りた男だった。

私はそっとまたぎ越し、坂を上った。警察署とカレッジ・アームズ亭を通って家へ向かった。丘の斜面には燃えているものはなかったが、コモンからはまだ赤い光が差し、赤みを帯びた煙が渦巻いて、降り注ぐ雹に向かって噴き上がっていた。閃光で見えるかぎり、周囲の家は大半が無事だった。カレッジ・アームズ亭の脇の道には、黒い塊が横たわっていた。

メイベリー橋へ下る道から、声と足音がしたが、呼びかけたり、そちらへ行ったりする勇気はなかった。私は鍵で玄関を開けて入り、戸を閉じ、施錠し、かんぬきを掛けた。それから階段の下までよろめき、座り込んだ。頭のなかは、あの大股で歩く金属の怪物と、柵にたたきつけられた死体でいっぱいだった。

私は階段の下で壁に背をつけ、うずくまって、激しく震えた。

第十一章 窓辺にて

私の感情の嵐は、やがて自ら力尽きる性質があると、すでに述べた。しばらくすると、自分が冷たく濡れており、階段の敷物の周囲に小さな水たまりができていることに気づいた。ほとんど機械的に立ち上がり、食堂へ行ってウイスキーを飲み、それから着替える気になった。

着替えを済ませると、二階の書斎へ行った。なぜそうしたのかはわからない。書斎の窓からは、木々と鉄道越しにホーセル・コモンが見える。慌てて出発したため、窓は開け放したままだった。廊下は暗く、窓枠のなかの光景と比べると、部屋の脇は見通せぬ闇に沈んでいた。私は戸口で足を止めた。

雷雨は去っていた。オリエンタル・カレッジの塔も周囲の松も消え、はるか遠く、砂取り場周辺のコモンが鮮やかな赤い光に照らされて見えた。その光を横切って、巨大な黒い影が、異様でグロテスクな姿をして、忙しく行き来していた。

その方角一帯が、まるごと燃えているようだった。広い斜面に無数の小さな火の舌が並び、去りゆく嵐の突風に揺れ、身をよじり、頭上を走る雲に赤い光を返していた。ときおり、もっと近くの火事から煙が窓を横切り、火星人の姿を隠した。何をしているのか、形もはっきり見えず、取り組んでいる黒い物体が何かもわからなかった。近くの火も直接は見えなかったが、その反射が書斎の壁と天井で踊っていた。空気には、樹脂の焼ける鋭い匂いがあった。

私は音を立てず戸を閉め、窓へ忍び寄った。近づくにつれ眺めは広がり、一方はウォーキング駅周辺の家々まで、もう一方はバイフリートの焼け黒ずんだ松林まで見渡せた。丘の下、鉄道のアーチ近くに明かりがあり、メイベリー通りや駅近くの通りの家が何軒も、赤く燃える廃墟になっていた。鉄道の明かりは、初め理解できなかった。黒い塊と鮮烈な光があり、その右に黄色い長方形が一列に並んでいた。やがて、破壊された列車だとわかった。前部は潰れて燃え、後ろの客車はまだ線路に載っていた。

家々、列車、チョバム方面の燃える土地――この三つの主な光源のあいだに、不規則な闇が広がり、ところどころ、くすぶって鈍く光る地面が切れ目を入れていた。火を散りばめた黒い広がりは、実に異様な眺めだった。何よりも、夜のポッタリーズ[訳注:イギリスの陶器工業地帯]を思わせた。初めは目を凝らしても、人は一人も見分けられなかった。やがてウォーキング駅の明かりを背に、黒い人影がいくつも、次々と線路を急いで横切るのが見えた。

この炎の混沌が、長年、安らかに暮らしてきた私の小さな世界だったとは! この七時間に何が起こったのか、私はまだ知らなかった。あの機械の巨人と、円筒から吐き出された鈍い肉塊との関係も、察し始めてはいたが、わからなかった。妙に自分とは無関係な興味を覚え、私は机の椅子を窓へ向け、腰を下ろした。そして黒く焼けた土地、とりわけ砂取り場の光のなかを行き来する、三つの巨大な黒いものを見つめた。

それらは驚くほど忙しそうだった。いったい何なのだろうと、私は考え始めた。知性を持つ機械なのか。そんなことは不可能だと思った。それとも、一体ずつの内部に火星人が座り、人間の脳が体のなかで支配するように、操り、指図し、使っているのか。私は人間の機械と比較し始め、生まれて初めて、知性を持つ下等動物には、装甲艦や蒸気機関車がどう見えるだろうかと考えた。

嵐のあと、空は晴れていた。燃える土地の煙の上で、小さく薄れゆく火星の光点が西へ沈みかけたころ、一人の兵士が庭へ入ってきた。柵をこするかすかな音を聞き、私は沈んでいた無気力から目を覚まして、見下ろした。板柵を越えようとする姿が、おぼろげに見えた。別の人間を見たとたん、倦怠は消え、私は身を乗り出した。

「おい」と、ささやいた。

兵士は柵にまたがったまま、いぶかしげに止まった。それから乗り越え、芝生を横切って家の角へ来た。身をかがめ、足音を忍ばせていた。

「誰だ?」と兵士もささやいた。窓の下に立ち、見上げていた。

「どこへ行くんです?」

私は尋ねた。

「わかりません。」

「隠れたいんですか?」

「そうです。」

「家に入りなさい」と私は言った。

階下へ行き、戸を開けて入れ、また鍵を掛けた。顔は見えなかった。帽子をなくし、上着のボタンは外れていた。

「ああ、神様」と、私が引き入れると兵士は言った。

「何があったんです?」

私は尋ねた。

「何がなかったっていうんです?」

暗がりに、絶望の身ぶりが見えた。「全滅です――まるっきり全滅だ」と、何度も繰り返した。

兵士は、ほとんど機械的に私について食堂へ入った。

「ウイスキーを」と私は言い、たっぷり注いだ。

兵士は飲んだ。それから突然、食卓の前に座り、腕に頭を伏せ、幼い男の子のように泣きじゃくり始めた。感情が完全に決壊していた。私は、つい先ほどの自分の絶望を奇妙にも忘れ、傍らに立って、驚いていた。

質問に答えられるほど落ち着くまで、長い時間がかかった。答えも混乱し、途切れ途切れだった。砲兵隊で馬を扱う兵で、戦闘に加わったのは七時ごろだという。そのころコモン越しに砲撃が続き、最初の火星人の一団は、金属の盾に隠れ、第二の円筒へゆっくり這っていると言われていた。

やがてその盾が、三本の脚でよろよろと立ち上がり、私が見た最初の戦闘機械となった。兵士の牽引していた大砲は、砂取り場を射界に収めるため、ホーセル近くで前車から切り離された。その到着が戦闘を引き起こしたのだ。前車の砲兵たちが後方へ下がる際、彼の馬はウサギの穴に足を取られて倒れ、彼を地面のくぼみへ投げ落とした。同時に背後の大砲が爆発し、弾薬が吹き飛び、周囲が火に包まれた。気づくと、焼け焦げた兵士と馬の死骸の山の下にいた。

「じっとしていました」と彼は言った。「怖くて正気じゃなかった。馬の前半分がのしかかっていたんです。全滅でした。あの臭い――ああ、神様! 肉が焼ける臭いです! 馬が倒れたとき背中を痛めて、ましになるまで、そこで寝ているしかなかった。一分前までは観兵式みたいだったのに――つまずいて、どかん、しゅっ! 

「全滅です!」と彼は言った。

長いあいだ死んだ馬の下に隠れ、コモンをこっそりのぞいていた。カーディガン連隊の兵は散兵隊形で穴へ突撃を試みたが、ただ一掃されただけだった。すると怪物が立ち上がり、わずかな逃走者のあいだを、悠々とコモンを行き来し始めた。頭のような覆いを、頭巾をかぶった人間の頭そのままに回していた。腕に似たものが複雑な金属の箱を持ち、その周囲では緑の閃光がきらめき、漏斗状の口から熱線が煙を吐くように放たれた。

数分後には、兵士の見るかぎり、コモンに生き物は残っていなかった。木も茂みも、黒い骸骨になっていないものは、すべて燃えていた。軽騎兵は地形の起伏の向こうの道にいて、姿は見えなかった。マキシム機関銃がしばらく鳴り、それから静まった。巨人はウォーキング駅と周囲の家々を最後まで残しておいた。やがて熱線が向けられると、一瞬で町は燃える瓦礫の山になった。それから〈もの〉は熱線を止め、砲兵に背を向け、第二の円筒を隠すくすぶる松林へ、揺れながら歩いていった。そのとき、もう一体、輝く巨人が穴から立ち上がった。

第二の怪物が第一のあとを追うと、砲兵は熱いヒースの灰を、ホーセルへ向かって慎重に這い始めた。どうにか生きて道端の溝へ達し、そこからウォーキングへ逃げた。このあたりから話は、切れ切れの叫びのようになった。町は通り抜けられなかった。まだ生きている人が少しいたらしいが、大半は取り乱し、火や熱湯で傷ついた者も多かった。火に行く手を阻まれた彼は、火星の巨人の一体が戻ってきたので、焼けつくほど熱い崩れた壁の山に隠れた。巨人は男を追い、鋼の触手で捕らえ、松の幹へ頭をたたきつけた。ついに日が暮れてから、砲兵は走り出し、鉄道の土手を越えた。

それ以来、ロンドンの方へ危険を逃れようと、メイベリーへ隠れながら進んでいた。人々は溝や地下室に潜み、生存者の多くはウォーキング村やセンドへ逃げていた。鉄道のアーチ近くで壊れた水道管を見つけ、道へ泉のように湧く水を飲むまで、ひどい渇きに苦しんでいた。

私は少しずつ、以上の話を聞き出した。彼は語り、見たことをわからせようとするうちに、落ち着いてきた。話の初めに、正午から何も食べていないと言ったので、私は食料棚から羊肉とパンを見つけ、持ってきた。火星人の目を引くのを恐れ、ランプはつけなかった。パンや肉の上で、ときおり互いの手が触れた。話すうちに、周囲の物が闇からおぼろげに現れ、窓の外の踏み荒らされた茂みや、折れたバラがはっきりしてきた。何人もの人か、何頭もの動物が、芝生を駆け抜けたらしかった。彼の顔も見え始めた。黒く汚れ、やつれていた。私もきっと同じだったろう。

食べ終えると、私たちは静かに二階の書斎へ行き、私はまた開いた窓から見た。一夜のうちに、谷は灰の谷になっていた。火は衰えていた。炎のあったところには煙の筋が立ち、夜に隠されていた無数の破壊され焼け落ちた家や、砕け黒焦げになった木々が、容赦ない暁の光のなかに、痩せさらばえた恐ろしい姿をさらした。それでも、ところどころに幸運にも難を逃れた物があった。こちらには白い鉄道信号、あちらには温室の端が、残骸のなかで白く、新鮮に見えた。戦争の歴史に、これほど無差別で全面的な破壊があっただろうか。そして、明るくなる東の光を受け、三体の金属の巨人が穴の周囲に立ち、自ら作り出した荒廃を見渡すように、頭巾を回していた。

穴は広がったように見えた。ときおり、鮮やかな緑の蒸気が、明けゆく空へ噴き上がった。昇り、渦を巻き、散り、消えた。

その向こう、チョバムのあたりには火の柱があった。朝の最初の光に触れると、血のにじむような煙の柱へ変わった。

第十二章 ウィブリッジとシェッパートンの壊滅を目撃する

夜明けが明るさを増すと、私たちは火星人を見ていた窓から離れ、ひっそりと階下へ降りた。

砲兵も、この家にとどまれないという点では同意した。彼はロンドンへ向かい、そこから所属の騎馬砲兵第十二中隊に戻るつもりだという。私はすぐレザヘッドへ帰るつもりだった。火星人の力にあまりに強く打たれ、妻をニューヘイブンへ連れていき、ただちに国外へ出ようと決めていた。あのような生物を倒すまでに、ロンドン周辺が悲惨な戦場となることは、もうはっきりわかっていたからだ。

だが、私たちとレザヘッドのあいだには、第三の円筒と、それを守る巨人たちがいた。一人だったら、危険を承知で野道を横切ったと思う。だが砲兵に止められた。「いい奥さんを未亡人にするのは、優しさじゃありませんよ」と言った。結局、森に隠れながら北へ、ストリート・コバムまで一緒に行き、そこで別れることにした。そこからエプソム経由で大きく迂回して、レザヘッドへ出るつもりだった。

私はすぐ出発するところだったが、同行者には実戦経験があり、心得が違った。家じゅうを捜して携帯用の瓶を見つけさせ、それにウイスキーを詰めた。空いているポケットにはすべて、ビスケットの包みと薄切りの肉を入れた。それから家を忍び出て、昨夜通った、整備の悪い道をできるだけ速く駆け下りた。家々は無人らしかった。道には、熱線で殺された三体の黒焦げの遺体が寄り添うように横たわり、ところどころに、時計、片方のスリッパ、銀の匙など、人々が落としたささやかな宝物があった。郵便局へ上る角では、箱と家具を積んだ小さな馬車が、馬もなく、折れた車輪を下に傾いていた。手提げ金庫が乱暴にこじ開けられ、残骸の下へ捨てられていた。

まだ燃えている孤児院の門番小屋を除けば、このあたりの家は大きな損害を受けていなかった。熱線は煙突の先を削って通り過ぎたのだ。それなのに、メイベリー・ヒルには私たちのほか、生きた人間は一人もいないようだった。大半の住民は、私がレザヘッドへ向かったときの道、オールド・ウォーキング街道から逃げたか、どこかへ隠れたのだろう。

小道を下り、昨夜の雹で今はぐっしょり濡れた黒服の男の遺体を過ぎ、麓の森へ入った。誰にも会わず、鉄道へ向かって木々を抜けた。線路の向こうの森は、傷つき黒焦げになった森の残骸でしかなかった。木は大半が倒れ、いくらか残った木々も、緑の代わりに焦げ茶色の葉をつけ、陰惨な灰色の幹を立てていた。

こちら側では、火は手前の木を焦がしただけで、燃え広がらなかった。一か所で、土曜日に木こりが仕事をしていた。空き地に、切り倒され、枝を払われたばかりの木が並び、製材機と動力機のそばには、おがくずの山があった。すぐ近くの仮小屋は無人だった。この朝は風がまったくなく、すべてが奇妙なほど静かだった。鳥さえ声をひそめていた。私と砲兵は急ぎながら、ささやき声で話し、ときおり肩越しに振り返った。一、二度、立ち止まって耳を澄ませた。

しばらくして道に近づくと、蹄の音が聞こえ、木の幹のあいだから、三人の騎兵がゆっくりウォーキングへ向かうのが見えた。呼びかけると止まったので、私たちは急いで近づいた。第八軽騎兵連隊の中尉一人と兵卒二人だった。測角儀のような台を持っており、砲兵によれば、日光信号機[訳注:鏡で太陽光を反射させ、遠方へ信号を送る装置]だという。

「今朝、そちらから来る人間を見たのは、君たちが初めてだ」と中尉は言った。「どうなっている?」

声も顔も、知りたいという熱意にあふれていた。後ろの兵士たちは好奇心いっぱいに見ていた。砲兵は土手から道へ跳び下り、敬礼した。

「昨夜、砲を破壊されました。隠れていましたが、中隊へ復帰するところです。この道を半マイルほど進めば、火星人が見えると思います。」

「いったい、どんな姿なんだ?」と中尉が尋ねた。

「鎧を着た巨人です。高さ百フィート。脚が三本で、胴体はアルミニウムのようです。頭巾をかぶった、とてつもなく大きな頭があります。」

「馬鹿を言え!」と中尉は言った。「何をでたらめな!」

「ご覧になればわかります。箱のようなものを持っていて、火を撃ち、人を殺すんです。」

「どういうことだ――大砲か?」

「違います」と砲兵は答え、熱線を生々しく説明し始めた。途中で中尉は遮り、私を見上げた。私はまだ道端の土手に立っていた。

「すべて本当です」と私は言った。

「そうか」と中尉は言った。「私も確かめるのが任務だろうな。いいか」――今度は砲兵へ――「われわれは住民を家から退去させるために配置されている。君はマーヴィン准将のもとへ行って出頭し、知っていることを全部報告したまえ。准将はウィブリッジにいる。道はわかるか?」

「私がわかります」と言うと、中尉は馬を再び南へ向けた。

「半マイルと言ったな?」

「遠くてもそれくらいです」と私は答え、木々の梢越しに南を指した。中尉は礼を言い、馬を進めた。私たちは二度と彼らを見なかった。

さらに進むと、道で三人の女と二人の子供に会った。労働者の小屋から荷を運び出していた。小さな手押し車を手に入れ、汚れた包みや古びた家具を積み上げていた。みな仕事に必死で、通り過ぎる私たちに話しかける余裕もなかった。

バイフリート駅のそばで松林を出ると、朝日に照らされた田園は穏やかで静かだった。そこは熱線の射程をはるかに離れていた。静かに見捨てられた家々や、別の家で荷造りに立ち働く人々、それに鉄道橋の上でウォーキングの方へ線路を見つめる兵士の一団さえなければ、いつもの日曜日とほとんど変わらなかっただろう。

農場の荷馬車や荷車が何台も、アドルストーンへの道をきしみながら進んでいた。ふと畑の門越しに、平らな牧草地の向こうで、六門の十二ポンド砲が整然と等間隔に並び、ウォーキングへ砲口を向けているのが見えた。砲手は傍らで待機し、弾薬車は実用にかなった距離に置かれていた。兵士たちは、ほとんど閲兵を受けるように立っていた。

「これはいい!」と私は言った。「少なくとも一度は、まともな射撃ができる。」

砲兵は門のところでためらった。

「先へ行きます」と言った。

さらにウィブリッジへ進み、橋を渡ったすぐ先では、白い作業上着の兵士が大勢、長い土塁を築いていた。その後ろにも大砲があった。

「結局、稲妻に弓矢で立ち向かうようなものです」と砲兵は言った。「あの連中は、まだ火の光線を見ていない。」

作業にかかっていない将校は、梢越しに南西を見つめていた。掘っている兵士も、ときおり手を止め、同じ方角を見た。

バイフリートは騒然としていた。人々は荷造りし、二十人ほどの軽騎兵が、馬上から、あるいは馬を下りて、急き立てていた。村の通りでは、白い丸に十字を描いた三、四台の黒い軍用車や、古い乗合馬車などに荷物が積み込まれていた。大勢の人々は、こんなときにも日曜日らしく、大半が晴れ着を着ていた。兵士たちは、事態の重大さを理解させるのに苦労していた。しなびた老人が、大きな箱と二十鉢以上の蘭を前に、それらを置いていけと言う伍長へ、怒って抗議しているのが見えた。私は立ち止まり、腕をつかんだ。

「あそこに何がいるか、わかっていますか?」

私は、火星人を隠す松の梢を指して言った。

「え?」と老人は振り向いた。「これが値打ちものだと、説明しておったんだ。」

「死です!」

私は叫んだ。「死が来るんですよ! 死が!」。老人がそれをのみ込めるならのみ込むに任せ、砲兵を追って急いだ。角で振り返ると、兵士はもう離れ、老人はまだ、蓋に蘭の鉢を載せた箱のそばに立ち、ぼんやり木々の向こうを見ていた。

ウィブリッジでは、司令部がどこか、誰も知らなかった。町全体が、それまでどこでも見たことのない混乱に陥っていた。どこも荷車や馬車だらけで、驚くほど雑多な乗り物と馬が集まっていた。町の立派な住民たち――ゴルフやボート遊びの服の男、きれいに着飾った妻たち――が荷造りし、川辺をぶらつく連中が精力的に手伝っていた。子供たちは興奮し、大半は、いつもの日曜とは驚くほど違うこの出来事を大喜びしていた。その騒ぎのなかで、立派な教区牧師は勇敢にも早朝の聖餐式を執り行い、教会の鐘が喧騒の上に鳴り響いていた。

私と砲兵は飲料用噴水の段に腰掛け、持参した食料でなかなかの食事をした。巡回の兵士――ここではもう軽騎兵ではなく、白い服の擲弾兵だった――は、今すぐ避難するか、砲撃が始まり次第、地下室へ隠れるよう警告していた。鉄道橋を渡るとき、駅の内外に増えつづける人だかりができ、人のひしめくホームに箱や包みが積み上がっているのが見えた。チャートシーへ兵と砲を送るため、普通列車は止められていたと思う。あとで聞いたところでは、その後に運行された臨時列車の席を奪い合い、凄惨な争いが起きたという。

私たちは正午までウィブリッジにいた。そのころには、シェッパートン閘門近く、ウェイ川とテムズ川の合流地点に来ていた。途中、二人の老婦人が小さな荷車に荷物を積むのを手伝った。ウェイ川は三つに分かれて注ぎ、この場所には貸し舟があり、渡し舟もあった。シェッパートン側には芝生のある宿屋があり、その向こうでは、木々の上にシェッパートン教会の塔が立っていた――今は尖塔に建て替えられている。

そこには、興奮して騒ぐ避難民の群れがいた。逃走はまだ恐慌にはなっていなかったが、往復するすべての舟を使っても渡しきれないほど、人はすでに増えていた。人々は重荷を背負ってあえぎながら来た。小さな物置の扉に家財を積み、二人で担いでいる夫婦までいた。ある男は、シェッパートン駅から逃げるつもりだと言った。

叫び声が飛び交い、冗談を言う男さえいた。ここの人々は、火星人を、町を襲って略奪するかもしれないが、最後には確実に倒される、単に手ごわい人間だと考えているようだった。ときおり不安そうにウェイ川越しのチャートシー方面の牧草地を見たが、向こうはすべて静かだった。

テムズ川の対岸は、舟着き場を除き、サリー側とは鮮やかな対照をなす静けさだった。舟から上がった人々は、小道を踏みしめて去った。大きな渡し舟が、ちょうど一往復を終えたところだった。宿の芝生には三、四人の兵士が立ち、避難民を眺めて冗談を言うだけで、手伝おうとはしなかった。宿は、酒を売れない時間帯に入っていたので閉まっていた。

「何だ、あれは?」と舟頭が叫んだ。「黙れ、馬鹿犬!」と近くの男が吠える犬を叱った。すると、また音がした。今度はチャートシーの方角からで、くぐもった衝撃音――大砲だった。

戦闘が始まったのだ。ほぼ即座に、右手の対岸、木々に隠れて見えない砲兵陣地が呼応し、次々と激しく撃ち始めた。女が悲鳴を上げた。近いのに見えない場所で突然戦いが動き出し、誰もが立ち止まった。見えるのは平らな牧草地と、大半は平然と草を食べる牛、そして暖かな日差しに動かない、銀色の刈り込まれたヤナギだけだった。

「兵隊さんが止めてくれるわ」と、傍らの女が心もとなげに言った。梢の上に霞が立った。

すると突然、遠い上流で煙が噴き上がるのが見えた。ひと塊の煙が勢いよく昇り、空中にとどまった。すぐに足元の地面が持ち上がり、大爆発が空気を震わせ、近くの家の窓を二、三枚砕いた。私たちは呆然とした。

「来たぞ!」と青いジャージーの男が叫んだ。「あそこだ! 見えるか? あそこだ!」

一体、二体、三体、四体。鎧に包まれた火星人が、遠い低木の向こう、チャートシーへ延びる平らな牧草地の彼方に、素早く次々と現れ、川へ急ぎ足で迫った。初めは頭巾をかぶった小さな姿に見え、揺れながら、飛ぶ鳥ほどの速さで進んできた。

続いて第五の一体が、斜めにこちらへ来た。装甲の胴体は日を受けてきらめき、大砲へ向かって疾走し、近づくにつれ急速に大きくなった。いちばん左、つまり最も遠い一体が、巨大な箱を高く振りかざした。金曜の夜に見た、幻のような恐ろしい熱線がチャートシーへ伸び、町を打った。

その奇怪で素早い恐るべきものを見て、水際の群衆は、一瞬、恐怖に凍りついたようだった。悲鳴も叫びもなく、沈黙した。それから、かすれたざわめき、足の動き、水を跳ねる音が起こった。ある男は、肩の旅行鞄を下ろすこともできないほどおびえ、急に向きを変えて、その角で私を打ち、よろめかせた。女が手で私を押し、駆け抜けた。私は人の流れにつられて振り向いたが、考えられないほど恐怖にのまれてはいなかった。頭にあるのは恐るべき熱線だった。水に潜る! それしかない! 

「水に潜れ!」

私は叫んだが、誰も聞かなかった。

もう一度向きを変え、迫る火星人へ向かい、砂利の浜を駆け下りて、頭から水へ飛び込んだ。ほかにも同じことをする人がいた。私が走り過ぎると、引き返しかけた舟いっぱいの人々が飛び降りた。足元の石は泥で滑り、水位が低いため、二十フィートほど走っても腰までしかなかった。そして火星人が、わずか二百ヤードほど先にそびえたとき、私は前へ身を投げ、水面の下へ潜った。舟の人々が川へ跳び込む音は、耳に雷のように響いた。両岸で人々が慌てて上がっていた。だが火星の機械は、そのとき、右往左往する人間を、巣を蹴飛ばした人が慌てる蟻を見るほどにも気に留めなかった。息が半ば詰まって頭を出すと、火星人の頭巾は、対岸でまだ撃ちつづける砲兵陣地を向いていた。前進しながら、熱線発生器と思われるものを振り出していた。

次の瞬間には岸へ来て、一歩で川の半ばを渡った。前脚の膝が対岸で折れ、さらに一瞬後には、シェッパートン村のそばで全高を現していた。そのとき、右岸の誰にも知られず、村の外れの陰に据えられていた六門の砲が、一斉に火を噴いた。すぐそばの衝撃音が、最初に続いて最後まで重なり、心臓が跳ねた。怪物はすでに熱線を生む箱を上げかけていた。そのとき最初の砲弾が、頭巾の六ヤード上で炸裂した。

私は驚きの声を上げた。ほかの四体は、目にも意識にも入らなかった。近くの出来事に釘づけだった。同時に、さらに二発が胴体のそばの空中で炸裂した。頭巾がねじれるように向きを変えたが、第四の砲弾を正面から受けるには間に合い、かわすには遅かった。

砲弾は、怪物の顔の真正面で炸裂した。頭巾が膨れ、閃き、赤い肉と輝く金属の十数片に引き裂かれて吹き飛んだ。

「当たった!」と私は、悲鳴とも歓声ともつかぬ声で叫んだ。

周囲の水中の人々から、応じる叫びが聞こえた。一瞬の歓喜で、水から跳び上がれそうだった。

首を失った巨像は、酔った巨人のようによろめいた。だが倒れなかった。奇跡的に均衡を取り戻し、もはや足元に注意も払わず、熱線を放つ箱を硬直したまま掲げ、シェッパートンへ速くよろめいていった。生きた知性、頭巾のなかの火星人は殺され、四方へ飛び散っていた。残ったのは、破滅へ突進する複雑な金属装置だけだった。操るものもなく、一直線に進んだ。シェッパートン教会の塔へぶつかり、破城槌の一撃のように粉砕し、脇へそれ、さらによろめき、私の見えないところで、すさまじい勢いで川へ倒れ込んだ。

激しい爆発が空気を揺さぶり、水、蒸気、泥、砕けた金属が、空高く噴き上がった。熱線の箱が水に触れた瞬間、水は蒸気になったのだ。次いで、泥の海嘯のような巨大な波が、ほとんど火傷するほどの熱さで、曲がり角を越えて上流へ押し寄せた。人々が岸へもがくのが見え、火星人の崩壊が生む沸騰音と轟音の上に、悲鳴や叫びがかすかに聞こえた。

一瞬、私は熱さも気にせず、当然の身を守る必要も忘れた。黒い服の男を押しのけ、荒れる水をかき分け、曲がり角の向こうが見えるところまで進んだ。六艘ほどの無人の舟が、乱れる波に行き先もなく翻弄されていた。下流に倒れた火星人が見えた。川を横切って横たわり、大半が水没していた。

残骸から濃い蒸気の雲が噴き出し、その激しく渦巻く切れ間に、巨大な脚が水をかき回し、泥と泡のしぶきを空へ飛ばすのが、途切れ途切れに、おぼろげに見えた。触手は生きた腕のように揺れ、打ちつけた。その動きの無力さ、目的のなさを除けば、傷ついた生き物が波のなかで生きようともがいているようだった。機械からは大量の赤褐色の液体が、音を立てて噴き上がっていた。

この断末魔から私の注意をそらしたのは、工業都市でサイレンと呼ばれるものに似た、猛烈な叫びだった。曳舟道近くで膝まで水につかった男が、聞こえぬ声で私に叫び、指をさした。振り向くと、ほかの火星人がチャートシーの方角から、川岸を巨大な歩幅で進んでいた。シェッパートンの砲は、今度はむなしく鳴った。

私はすぐ水中へ身を沈め、動くことが苦痛になるまで息を止め、できるかぎり長く、苦しみながら水面の下を進んだ。周囲の水は荒れ、急速に熱くなっていた。

息をつき、目にかかる髪と水を払おうと、一瞬頭を上げたとき、蒸気は渦巻く白い霧となり、初めは火星人をすっかり隠していた。騒音は耳をつんざいた。やがて、霧に大きく見える灰色の巨体が、おぼろげに現れた。私のそばを通り過ぎており、二体は、泡立ち、激しく動く仲間の残骸へ身をかがめていた。

第三、第四の機体は、その脇の水中に立っていた。一体は私から二百ヤードほど、もう一体はラレハム寄りだった。熱線発生器が高く振られ、しゅうしゅうと音を立てる熱線が、あちらこちらへ打ち下ろされた。

空気は音で満ちた。耳をつんざき、感覚を乱す音のせめぎ合いだった。火星人の金属の喧騒、家々の崩れる轟音、木や柵や小屋が燃え上がる鈍い音、火のはぜる音と咆哮。濃い黒煙が噴き上がって川の蒸気に交じり、熱線がウィブリッジを往復すると、当たった場所が白熱して閃き、すぐ煙に包まれた不気味な炎の舞いへ変わった。近くの家はまだ無傷で、運命を待っていた。蒸気のなかに、ぼんやり、かすかに、青白く立ち、その背後を火が行き来していた。

私はおそらく一瞬、煮え立つ寸前の水に胸までつかり、境遇に呆然として、逃れる望みもなく立っていた。蒸気越しに、同じ川にいた人々が、葦のあいだから這い上がるのが見えた。人の足から逃げる小さな蛙が草を急ぐようだった。曳舟道で、ただ取り乱して走り回る者もいた。

そのとき突然、熱線の白い閃光がこちらへ跳んできた。家々は触れられると溶けるように崩れ込み、炎を噴いた。木々は轟いて火となった。光線は曳舟道を上下に揺れ、逃げ惑う人々を舐め取って、私の立つところから五十ヤードもない水際へ来た。川を横切ってシェッパートンへ走り、その跡の水は、蒸気を頂く、沸騰したみみず腫れのように盛り上がった。私は岸へ向いた。

次の瞬間、沸点に近い巨大な波が襲ってきた。私は大声で叫び、火傷を負い、目も半ば見えず、激痛のなかで、跳ねてしゅうしゅうと鳴る水を、岸へよろめいた。足を取られれば、それで終わりだった。ウェイ川とテムズ川の角を形作る、広い裸の砂利州へ、火星人から丸見えのまま、力なく倒れた。死ぬほかないと思った。

おぼろげな記憶がある。頭から二十ヤードもないところへ火星人の足が降り、柔らかな砂利に突き刺さって、四方へかき乱し、また持ち上がった。長い緊張の時が過ぎ、それから四体が仲間の残骸を運び、煙の幕に明瞭になったり霞んだりしながら、川と牧草地の広大な空間を、果てしなく思えるほど遠ざかっていった。そして、ひどくゆっくりと、私は奇跡的に助かったのだと理解した。

第十三章 司祭との出会い

地球の兵器の威力をこのように不意に思い知らされた火星人は、ホーセル・コモンの最初の陣地へ退いた。急いでいたうえ、破壊された仲間の残骸を抱えていたので、私のように取り残された取るに足りぬ獲物を、大勢見逃したに違いない。仲間を捨て、そのまま進んでいたなら、そのとき彼らとロンドンのあいだにあるのは十二ポンド砲の陣地だけだった。接近の報が届くより早く、首都へ達していただろう。その到来は、一世紀前にリスボンを破壊した地震と同じほど、突然で、恐ろしく、壊滅的だったはずだ。

だが彼らは急がなかった。円筒は次から次へ、惑星間を飛んできた。二十四時間ごとに援軍が届いた。そのあいだ、敵の途方もない力を十分に悟った陸海軍当局は、猛烈な勢いで働いていた。刻々と新しい砲が配置され、日暮れ前には、キングストンとリッチモンド周辺の丘陵の斜面で、あらゆる木立、郊外のあらゆる邸宅の列が、待ち構える黒い砲口を隠していた。そして、ホーセル・コモンの火星人の陣地を囲む、おそらく二十平方マイルもの焼け荒れた地域を、緑の木々のあいだの焼けた村を、つい昨日まで松の若木林だった、黒く煙るアーケードを、決死の斥候たちが這っていった。砲手へ火星人の接近を知らせるための日光信号機を携えて。だが火星人も、われわれが砲を使うこと、人間が近づけば危険なことを、今や理解していた。どの円筒であれ、一マイル以内へ踏み込んだ者は、命で代価を払わずには済まなかった。

午後の早い時間、巨人たちは行き来しながら、第二と第三の円筒――第二はアドルストーン・ゴルフリンクス、第三はパイフォードにあった――からすべてを運び出し、ホーセル・コモンの最初の穴へ移したらしい。その上方、広く続く黒焦げのヒースと崩れた建物の向こうには、一体が番兵として立ち、ほかは巨大な戦闘機械を下りて穴へ入った。彼らは夜更けまで熱心に働いていた。そこからそびえる濃い緑の煙柱は、メロウ周辺の丘から見え、バンステッドやエプソム・ダウンズからさえ見えたという。

こうして背後では火星人が次の出撃を整え、前方では人類が戦いに集まるあいだ、私は燃えるウィブリッジの火と煙を逃れ、途方もない苦痛と労苦を重ねて、ロンドンへ向かった。

遠くに、ごく小さな無人の舟が、下流へ漂うのを見つけた。私は濡れた服の大半を脱ぎ捨て、追って泳ぎ、舟にたどり着き、その破壊の場から逃れた。オールはなかったが、半ばゆでられた手の許すかぎり水をかき、ハリフォードとウォルトンへ川を下った。進みはひどく遅く、ご想像のとおり、絶えず後ろを振り返った。川をたどったのは、巨人が戻ってきても、水がいちばん逃げる見込みを与えてくれると思ったからだ。

火星人が倒れたときの熱湯も、私とともに下流へ流れたので、一マイル近く、両岸はほとんど見えなかった。それでも一度、黒い人影の列が、ウィブリッジの方から牧草地を急いで横切るのを見た。ハリフォードは無人らしく、川に面した家が何軒か燃えていた。暑い青空の下、町はすっかり静まり、荒涼としていた。煙と細い炎が午後の熱気へまっすぐ昇るのは、奇妙な光景だった。邪魔な野次馬もなしに家が燃えるのを、私は初めて見た。少し先では、岸の乾いた葦が煙を上げて赤く燃え、内陸では一本の火の線が、刈り取りの遅れた牧草地を着実に進んでいた。

長いあいだ、私は流れに任せた。経験した激しい出来事で、痛みと疲れがひどく、水上の暑さも激しかったからだ。やがて恐怖がまた勝り、再び水をかき始めた。太陽が裸の背を焼いた。ついに川の曲がり角の向こうにウォルトンの橋が見えてきたとき、熱と目まいが恐怖を上回った。私はミドルセックス側へ上がり、ひどい吐き気に苦しみながら、長い草のなかに横たわった。四時か五時ごろだったと思う。ほどなく起き上がり、誰にも会わず半マイルほど歩き、また生け垣の陰に寝た。最後のひと歩きのあいだ、取りとめのない独り言を言っていた気がする。喉もひどく渇き、もっと水を飲んでおかなかったことを痛切に悔やんだ。不思議なことに、妻への怒りを感じていた。説明はつかないが、レザヘッドへ行きたいのに行けない、その無力な願いが、たまらなく私を苦しめていた。

司祭が来たときのことは、はっきり覚えていない。おそらく居眠りしたのだろう。気づくと、煤で汚れたシャツ姿の男が座り、髭を剃った顔を上げ、空をかすかに踊る明滅を見つめていた。空はいわゆる鯖雲だった。淡い羽毛のような雲が幾列も並び、真夏の夕日に、ほんのり染まっていた。

私が身を起こすと、衣擦れの音に、男はさっとこちらを見た。

「水を持っていませんか?」

私はいきなり尋ねた。

男は首を振った。

「この一時間、ずっと水を欲しがっていましたよ」と言った。

しばらく黙って、互いを見定めた。濡れたズボンと靴下だけで、ほとんど裸になり、火傷を負い、顔と肩を煙で黒くした私は、さぞ異様に見えただろう。男の顔は色白で弱々しく、顎は引っ込み、低い額には、亜麻色に近い細かな巻き毛がかかっていた。目はやや大きく、淡い青色で、うつろに見開かれていた。私からぼんやり視線を外し、唐突に話した。

「どういう意味なのでしょう」と言った。「これはいったい、何を意味するのです?」

私は見つめ、答えなかった。

男は細い白い手を伸ばし、ほとんど愚痴のような調子で言った。

「なぜ、こんなことが許されるのです? 私たちが何の罪を犯したのでしょう? 朝の礼拝を終え、午後に備えて頭をすっきりさせようと、道を歩いていたのです。それが突然――火、地震、死! まるでソドムとゴモラ[訳注:旧約聖書で、罪のため神に滅ぼされた町]ではありませんか! 私たちの仕事が全部無に帰した、すべての仕事が――火星人とは何者なのです?」

「では、われわれは何者です?」

私は喉を払い、答えた。

男は膝をつかみ、また私へ顔を向けた。三十秒ほどだろうか、黙って見つめた。

「頭をすっきりさせようと、道を歩いていたのです」と言った。「すると突然――火、地震、死!」

また黙り込み、今度は顎がほとんど膝につくほど、うなだれた。

やがて手を振り始めた。

「すべての仕事が――日曜学校もみんな――私たちが何をしたというのです、ウィブリッジが何をしたと? 全部なくなった――全部破壊された。教会も! わずか三年前に建て直したばかりなのに。なくなった! 跡形もなく消された! なぜです?」

また間があり、気のふれた人のように叫び出した。

「その焼かれる煙は、世々限りなく立ち昇る!」[訳注:『ヨハネの黙示録』の言葉]

目を燃やし、痩せた指をウィブリッジへ向けた。

このころには、相手の状態がわかり始めた。巻き込まれたすさまじい悲劇――ウィブリッジから逃げてきたのは明らかだった――が、理性を崩壊寸前まで追い詰めたのだ。

「サンベリーまでは遠いですか?」

私は努めて平静に尋ねた。

「どうすればよいのでしょう?」と男は聞いた。「あの生き物は、いたるところにいるのですか? 地球は彼らに渡されたのですか?」

「サンベリーまでは遠いですか?」

「今朝、つい今朝、早朝の聖餐式を執り行ったばかりなのです――」

「状況は変わったんです」と私は静かに言った。「気をしっかり持たなくては。まだ希望はあります。」

「希望!」

「ええ。これほど壊されても、希望は十分あります!」

私は、現状についての自分の考えを説明し始めた。男は初めは聞いていたが、話が進むにつれ、目に芽生えた関心は以前の虚ろさへ戻り、視線は私からそれていった。

「これは終わりの始まりに違いない」と、私を遮った。「終末です! 大いなる、恐るべき主の日です! 人々が山や岩に、われわれの上に倒れ、われわれを隠せ、と呼ばわる日――御座におられる方の御顔から、われわれを隠せ、と!」

私は事情を理解し始めた。骨の折れる説明をやめ、苦労して立ち上がると、男の前に立ち、肩へ手を置いた。

「しっかりしなさい!」と私は言った。「恐怖で分別を失っているんです! 災難に遭って崩れるなら、信仰に何の役があります? これまで地震や洪水、戦争や火山が、人間に何をしてきたか考えてください! 神はウィブリッジだけ免除してくださるとでも? 神は保険屋ではありません。」

男はしばらく、茫然と黙って座っていた。

「でも、どうして逃げられるのです?」と突然尋ねた。「彼らは不死身で、無慈悲です。」

「不死身ではありませんし、無慈悲かどうかも、まだわからない」と私は答えた。「強大な相手ほど、こちらは冷静で慎重であるべきです。三時間も前ではないころ、あちらで一体が殺されました。」

「殺された!」と男はあたりを見回した。「神の使者が、どうして殺されるのです?」

「この目で見ました。」

私は話し始めた。「われわれは、たまたまいちばん激しい場所に居合わせただけなんです。それだけのことです。」

「空で明滅している、あれは何です?」と男は不意に尋ねた。

私は日光信号機の合図だと教えた。あれは、人間の助けと努力が空に示されているのだと。

「こんなに静かでも、われわれは渦中にいます」と私は言った。「あの明滅は、嵐が集まりつつあることを知らせています。火星人はあちらでしょう。そしてロンドン寄り、リッチモンドやキングストンのあたりの丘では、木々に隠れて土塁が築かれ、大砲が据えられています。火星人はまもなく、またこちらへ来るでしょう。」

そう話している最中、男は跳び起き、手ぶりで私を制した。

「聞いてください!」

川向こうの低い丘の彼方から、遠い砲声の鈍い響きと、不気味な叫びが伝わってきた。それからすべてが静まった。コガネムシが一匹、生け垣を越えて羽音を立て、私たちのそばを過ぎた。西の高みに、淡く青白い三日月がかかっていた。ウィブリッジとシェッパートンの煙と、暑く静かに燃える夕映えの上に。

「この道を行きましょう」と私は言った。「北へ。」

第十四章 ロンドンにて

火星人がウォーキングに降り立ったとき、弟はロンドンにいた。医学生だった弟は目前に迫った試験の勉強に追われ、その到来を土曜の朝まで知らずにいた。土曜日の朝刊には、火星や惑星上の生命などについての長い特集記事とともに、短く曖昧な文面の電報記事が載っていた。その短さが、かえって目を引いた。

記事によれば、群衆が近づいてきたことに驚いた火星人が、速射砲で多数の人間を殺したという。電報は次の言葉で結ばれていた。「恐るべき相手と思われるものの、火星人は落下地点の穴から一歩も出ておらず、実際、出ることができないようである。これはおそらく、地球の重力が比較的強いことによるものだろう。」

論説記者はこの最後の一節を敷衍し、読者を大いに安心させる記事を書いていた。

もちろん、その日弟が通った受験予備校の生物学の授業では、学生たちはみな強い関心を示していた。だが街頭には、普段と違う興奮の兆しはなかった。夕刊各紙は、わずかな報道の切れ端を大見出しで飾り立てた。八時になるまでは、コモン付近の部隊の移動と、ウォーキングとウィブリッジのあいだの松林が燃えているという以上のことは伝えられなかった。そこでセント・ジェームズ・ガゼットが特別号外を出し、電信が途絶したという事実だけを報じた。燃えた松が倒れ、電線にかかったためだろうと考えられていた。その晩、つまり私がレザヘッドまで馬車で往復した晩には、戦闘についてそれ以上のことは何もわからなかった。

弟は新聞の記述から、円筒が私の家からたっぷり二マイルは離れた場所にあると知っていたので、私たちを心配してはいなかった。本人の言葉を借りれば、あの連中が殺されてしまう前に見物しようと、その晩私のところへ出かけることにした。四時ごろ電報を打ったが、それは私には届かなかった。それから夕方はミュージックホールで過ごした。

土曜の夜はロンドンでも雷雨になり、弟は辻馬車でウォータールー駅に着いた。いつも深夜の列車が出るホームでしばらく待った末、事故のため、その晩は列車がウォーキングまで行けないと知った。どんな事故なのかはわからなかった。実際、その時点では鉄道当局にもはっきりとはわかっていなかったのである。駅に大した騒ぎはなかった。係員たちは、バイフリートとウォーキング分岐点のあいだで単なる不通が起きたとしか考えておらず、通常ウォーキングを通る観劇帰りの客向けの列車を、ヴァージニア・ウォーターかギルフォード経由で走らせていた。サウサンプトンとポーツマスへ向かう日曜協会の行楽列車の経路変更にも忙殺されていた。夜回りの新聞記者が、弟を少し顔の似ている運行責任者と取り違え、呼び止めて取材しようとした。鉄道職員を除けば、この不通を火星人と結びつけて考える者はほとんどいなかった。

この一連の出来事についての別の記録には、日曜の朝、「ロンドン全市がウォーキングからの報に衝撃を受けた」とあるのを読んだことがある。

実のところ、その大げさな表現に見合う事実は何もなかった。月曜の朝の大恐慌まで火星人のことを知らなかったロンドン市民は大勢いた。知っていた人々も、日曜紙に載った急ごしらえの電報記事の意味をすっかり理解するまでには、しばらく時間がかかった。そもそもロンドンの住民の大半は、日曜紙を読まない。

そのうえ、自分の身は安全だという思い込みがロンドン市民には深く染みついており、新聞に驚くべき報道が載るのも日常茶飯事だったから、次のような記事を読んでも、自分自身のこととして震え上がることはなかった。「昨夜七時ごろ、火星人は円筒から出現し、金属製の防楯で身を覆って移動、ウォーキング駅と付近の家屋を完全に破壊し、カーディガン連隊の一個大隊を皆殺しにした。詳報は不明。マキシム機関銃は敵の装甲にまったく効果がなく、野砲は使用不能にされた。敗走した軽騎兵がチャートシーへ続々と駆け込んでいる。火星人はチャートシー、もしくはウィンザーへ向けて、ゆっくり移動している模様。サリー西部は強い不安に包まれ、ロンドンへの進撃を阻むため土塁の構築が進められている。」

これがサンデー・サンの伝え方だった。また、レフェリーには、驚くほど手早くまとめられた気の利いた「手引き」記事が載り、今回の事件を、村で突然猛獣の檻が開いてしまったようなものにたとえていた。

ロンドンでは、この装甲に身を包んだ火星人の正体を確実に知る者は一人もいなかった。しかも、あの怪物どもは動きが鈍いはずだという固定観念が、まだ根強く残っていた。「這いまわる」「苦しげに這い進む」――初期の報道には、ほとんど例外なくこうした表現が見られた。どの電報も、その進撃を実際に目撃した者が書いたとは思えない。日曜紙は新しい報が入るたびに版を重ね、中には新報がなくても出す新聞さえあった。だが夕方近く、当局が手元の情報を通信社に渡すまでは、事実上、読者に伝えるべき新しいことはなかった。ウォルトン、ウィブリッジ、そして周辺一帯の住民が、街道をロンドンへ向かって押し寄せている。それだけだった。

弟は前夜の出来事をまだ知らず、午前中はファウンドリング孤児院の礼拝堂へ行った。そこで侵略についての言及と、平和を祈る特別の祈祷を耳にした。外へ出てレフェリーを買い、その記事に不安を覚えて、交通が復旧したか確かめようと再びウォータールー駅へ向かった。乗合馬車も、自家用の馬車も、自転車の人々も、晴れ着で歩く無数の人々も、新聞売りが広めている異様な報道には、ほとんど影響されていないように見えた。人々は関心を示してはいたが、心配するとしても、それは現地の住民を気遣ってのことにすぎなかった。駅で弟は、ウィンザー線とチャートシー線も不通になったと初めて知った。ポーターたちの話では、朝のうちバイフリート駅とチャートシー駅から異常な内容の電報が何通か届いたが、その後ぱたりと途絶えたという。弟は彼らから、確かな詳しい話をほとんど聞き出せなかった。

「ウィブリッジのあたりで戦闘が起きているらしい」――彼らの知識はその程度だった。

列車の運行は、もはやひどく乱れていた。南西鉄道沿線から来る友人を待ち受けていた人々が、かなりの数、駅構内で立ち尽くしていた。白髪の老紳士が一人やって来て、弟に向かい南西鉄道会社を口を極めてののしった。「こういうことは世間に公表してやらねば」と、その紳士は言った。

リッチモンド、パトニー、キングストン方面から列車が一、二本入ってきた。日帰りの舟遊びに出かけたものの、閘門が閉ざされ、不穏な空気に出くわした人々が乗っていた。青と白のブレザーを着た男が弟に話しかけ、奇妙な知らせを次々にまくしたてた。

「キングストンには大勢の人が、小型馬車や荷車やらで押し寄せているんですよ。貴重品を詰めた箱なんかを積んでね。モールジーやウィブリッジやウォルトンから来た連中で、チャートシーでは激しい砲撃が聞こえたとか、騎兵に、火星人が来るからすぐ逃げろと言われたとか。私たちもハンプトン・コート駅で砲声を聞きましたが、雷だと思っていました。いったい何がどうなっているんです? 火星人は穴から出られないんでしょう?」

弟には答えられなかった。

その後弟は、この漠然とした不安が地下鉄の乗客にも広がり、日曜の行楽客が、バーンズ、ウィンブルドン、リッチモンド・パーク、キューなど、南西部の「肺」にあたる緑地のあちこちから、不自然なほど早く帰り始めていると知った。だが、誰一人として曖昧な伝聞以上のことは語れなかった。ターミナル駅に関わる者は、誰もが苛立っているようだった。

五時ごろ、南東鉄道と南西鉄道の駅を結ぶ、普段はまず使われない連絡線が開かれ、巨大な大砲を載せた貨車と、兵士を満載した客車が通過すると、駅に集まっていた群衆はひどく沸き立った。これはキングストンを防衛するため、ウーリッジとチャタムから運ばれてきた大砲だった。「食われちまうぞ!」「俺たちは猛獣使いだ!」などと冗談が飛び交った。少しして一隊の警官が構内に入り、一般人をホームから追い出し始めたので、弟はまた通りへ出た。

夕べの礼拝を知らせる教会の鐘が鳴り、救世軍の若い女性たちが一団となって歌いながらウォータールー通りをやって来た。橋の上では、何人かの暇人が、川を斑になって流れ下る奇妙な褐色の泡かすを眺めていた。日はちょうど沈もうとしていた。赤紫の雲が長く幾筋も横たわる金色の空――想像しうるかぎり穏やかなその空を背景に、時計塔と国会議事堂がそびえていた。死体が浮いていたという話も出た。その場にいた男の一人は予備役兵だと名乗り、西の方で日光信号器がきらめくのを見たと弟に話した。

ウェリントン通りで弟は、まだインクの乾かない新聞と派手な見出し札を持ち、フリート街から大急ぎで送り出されてきた、屈強でがらの悪い男二人に出会った。「恐るべき大惨事!」二人はウェリントン通りの両側で、互いに応じるように怒鳴っていた。「ウィブリッジで戦闘! 詳細記事! 火星人撃退! ロンドン危うし!」

弟はその新聞一部に、三ペンス払わねばならなかった。

そのときになって、ようやく弟は、あの怪物どもの力と恐ろしさの全貌をいくらか理解した。相手はただの小さく鈍重な生き物の一団ではなく、巨大な機械の身体を操る知性なのだと知った。しかも素早く動き、最強の大砲すら太刀打ちできない力で襲いかかってくるのだ。

新聞には、「高さほぼ百フィートの巨大な蜘蛛のような機械で、急行列車並みの速度で移動し、強烈な熱の光線を放射できる」と記されていた。

ホーセル・コモン周辺、とりわけウォーキング地区とロンドンのあいだの田園地帯には、主に野砲からなる砲兵陣地が隠されていた。五機の機械がテムズ川へ向かうのが目撃され、その一機は幸運にも破壊された。他の場合は砲弾がそれ、砲兵陣地はただちに熱線で全滅させられた。兵士の損害は甚大とあったが、報告全体の調子は楽観的だった。

火星人は撃退された。決して不死身ではない。敵はウォーキング周辺で三角形をなす円筒の地点へ、再び後退した。日光信号器を携えた通信兵が四方から前進中である。ウィンザー、ポーツマス、オルダーショット、ウーリッジ、さらには北部からも、大砲が急送されている。中にはウーリッジからの九十五トンの長大な鋼線砲[訳注:砲身に鋼線を巻いて補強した大砲]もある。総数百十六門が、主にロンドンを守るため、すでに据えつけられたか、急ぎ配備されつつある。これほど大量の軍需物資がこれほど迅速に集結した例は、イングランドではかつてなかった。

今後落ちてくる円筒は、急速に製造・配給されている高性能爆薬によって、ただちに破壊できるものと期待されていた。報道は、状況がきわめて異常かつ重大であることは疑いないと認めつつも、恐慌に陥らず、それを広めぬよう市民に求めた。火星人がこのうえなく異様で恐ろしいのは確かだが、数百万のわれわれに対し、敵は多く見積もっても二十体を超えまいというのである。

当局は円筒の大きさから、一つに乗れるのは多くても五体、合計十五体以下と推定する根拠があるとしていた。しかも少なくとも一体は片づけた。さらに何体か倒した可能性もある。危険が迫れば、市民には十分な警告が与えられる。脅威にさらされている南西郊外の住民を保護するため、周到な措置が講じられている。そして、ロンドンは安全であり、当局にはこの難局に対処する能力があると繰り返し保証して、この布告めいた記事は結ばれていた。

これが、刷りたてでまだ湿っている紙に、巨大な活字で印刷されていた。論評を一言添える暇もなかったのだ。この紙面を空けるために、いつもの記事が容赦なく切り刻まれ、取り払われているさまは奇妙なものだったと、弟は言っていた。

ウェリントン通りのいたるところで、人々が桃色の紙面をぱっと広げて読んでいた。ストランドは、先発の二人に続く新聞売りの大群の声で、突然騒がしくなった。男たちが新聞を手に入れようと、乗合馬車から争うように降りてきた。それまでどれほど無関心だったにせよ、この知らせが人々を激しく興奮させたことは間違いない。弟によると、ストランドの地図屋では鎧戸が外され、ショーウィンドーの内側に、日曜の晴れ着をまとい、レモン色の手袋までした男が、サリーの地図を大急ぎでガラスに貼りつけているのが見えたという。

新聞を手にストランドをトラファルガー広場へ向かう途中、弟はサリー西部から来た避難民を何組か見かけた。八百屋が使うような荷車に、妻と二人の息子、それに家具をいくつか積んだ男がいた。ウェストミンスター橋の方角から来たのである。そのすぐ後ろには、身なりのきちんとした五、六人と、箱や包みを載せた干し草運搬車が続いていた。人々の顔はやつれ、その姿全体が、乗合馬車の乗客たちの日曜の晴れ着姿とは際立った対照をなしていた。流行の服を着た人々が、辻馬車から彼らをのぞき込んでいた。避難民たちは広場で、どちらへ行けばよいか迷うように立ち止まり、やがてストランドを東へ向かった。少し遅れて、普段着の男が、前輪の小さい旧式の三輪自転車に乗ってやって来た。汚れた身なりで、顔は真っ青だった。

弟はヴィクトリアの方へ折れ、同じような人々を何人も見た。ひょっとしたら私の姿も見つかるのではないかと、漠然と考えていた。交通整理にあたる警官が、いつになく多いことにも気づいた。避難民の中には、乗合馬車の人々と知らせを交換している者もいた。一人は火星人を見たと言い張っていた。「竹馬に載ったボイラーですよ。そいつが人間みたいに大股で歩くんだ。」

彼らの多くは、異様な体験に興奮し、妙に生き生きしていた。

ヴィクトリアの先では、酒場が避難民を相手に繁盛していた。どの街角にも、人々が集まって新聞を読んだり、興奮して話したり、この日曜の珍客を見つめたりしていた。夜が深まるにつれて避難民は増え続け、ついには、ダービー当日のエプソムの目抜き通り[訳注:競馬のダービーで大勢の見物客が集まる]のようになった、と弟は言う。弟は何人かに話しかけたが、大半からは満足な答えを得られなかった。

ウォーキングの消息を語れる者は、一人しかいなかった。その男は、ウォーキングは前の晩に完全に破壊されたのだと断言した。

「私はバイフリートから来たんです。朝早く、自転車の男が村を通りましてね。一軒一軒駆けまわって、逃げろと知らせてくれた。それから兵隊が来ました。外へ見に出ると、南には煙の雲があった。煙ばかりで、そっちから来る人間は一人もいない。そのうちチャートシーで大砲が鳴り、ウィブリッジから人が逃げて来た。それで家に鍵をかけて、こっちへ来たんです。」

そのころ街頭では、これほどの迷惑をかけずに侵略者を始末できない当局の無能ぶりを、強く非難する空気があった。

八時ごろ、ロンドン南部一帯で、激しい砲撃の音がはっきり聞こえた。大通りの往来の騒音に紛れて弟には聞こえなかったが、静かな裏通りを抜けて川辺へ出ると、明瞭に聞き分けることができた。

弟は二時ごろ、ウェストミンスターからリージェンツ・パーク近くの下宿まで歩いた。そのときには私の身をひどく案じ、災厄の規模が明らかに大きいことに動揺していた。土曜日の私と同じく、弟の考えも軍事上の細部へと向かった。沈黙のうちに待ち構える無数の大砲、突如として放浪を強いられた田舎の人々を思い、高さ百フィートの「竹馬に載ったボイラー」を思い描こうとした。

オックスフォード通りには避難民を載せた荷車が一、二台、メリルボーン通りにも数台通っていた。だが知らせの広まり方はあまりに遅く、リージェント通りやポートランド・プレイスには、日曜の夜の散歩客がいつもどおりあふれていた。ただし、みな集まって話していた。リージェンツ・パークの縁では、点々とともるガス灯の下を、無言で連れ立って「逢い引き」をする男女が、いつもと同じくらい歩いていた。夜は暖かく静かで、少し息苦しかった。砲声は断続的に続き、真夜中を過ぎると、南の空に幕状の稲光らしきものが見えた。

弟は、私に最悪のことが起きたのではないかと恐れ、新聞を何度も読み返した。落ち着かず、夕食後また当てもなく外を歩きまわった。戻ってから試験用のノートに気を向けようとしたが、無駄だった。真夜中を少し過ぎて床につき、月曜未明、不気味な夢から目を覚まさせられた。戸を叩く音、通りを走る足音、遠くの太鼓、けたたましい鐘の響き。赤い反射光が天井で踊っていた。弟はしばらく呆然と横たわり、朝になったのか、それとも世界がおかしくなったのかと考えた。それから寝床を飛び出し、窓へ駆け寄った。

弟の部屋は屋根裏にあった。顔を突き出すと、窓を上げる音に応じるように、通りのあちらこちらで十数もの窓が開き、さまざまに寝乱れた頭が現れた。何事かと問い合う声が飛んだ。「来るぞ!」戸を叩きながら警官が叫んだ。「火星人が来るぞ!」そして急いで隣の戸へ向かった。

アルバニー通りの兵営から太鼓とラッパの音が聞こえ、耳の届く範囲にある教会という教会が、激しく乱調の警鐘を鳴らし、人々の眠りを打ち破っていた。戸が開く音がし、向かいの家々では窓が次々に闇から黄色い明かりへと変わった。

通りを箱馬車が一台、疾走してきた。角を曲がると不意にその音が湧き起こり、窓の下で轟音の頂点に達し、遠ざかるにつれて徐々に消えた。そのすぐ後ろに辻馬車が二台続いた。避難する車の長い列の先頭だった。その多くは、北西鉄道の臨時列車が乗客を乗せているチョーク・ファーム駅へ向かっていた。列車はそこから勾配を下ってユーストンへ入ることをやめていたのである。

弟は長いあいだ窓から、警官たちが一軒また一軒と戸を叩き、理解しがたい知らせを告げていくのを、ただ呆然と眺めていた。やがて背後の戸が開き、踊り場の向こうの部屋に住む男が入ってきた。シャツとズボンにスリッパだけの姿で、吊りズボンの紐は腰に垂れ、髪は枕の跡で乱れていた。

「いったい何だ?」と男は尋ねた。「火事か? ひどい騒ぎじゃないか!」

二人は窓から首を伸ばし、警官の叫ぶ言葉を聞き取ろうとした。横道から人々が出てきて、街角に集まって話していた。

「いったい何が起きたんだ?」と同宿の男が言った。

弟は曖昧に答え、身支度を始めた。衣服を一枚身につけるたびに窓へ走り、ますます激しくなる騒ぎを見逃すまいとした。やがて、異様に早い新聞を売る男たちが、通りへ叫びながら入ってきた。

「ロンドン、窒息の危機! キングストン、リッチモンド両防衛線突破さる! テムズ流域で恐るべき大虐殺!」

そのころ弟の周囲では――下の部屋でも、両隣や向かいの家々でも、裏手のパーク・テラスでも、メリルボーンのその一帯の幾百もの通りでも、ウェストボーン・パーク地区でもセント・パンクラスでも、西や北のキルバーン、セント・ジョンズ・ウッド、ハンプステッドでも、東のショーディッチ、ハイベリー、ハガーストン、ホクストンでも、実際、イーリングからイースト・ハムまで広がる巨大なロンドンの全域で――人々は目をこすり、窓を開けて外を見つめ、要領を得ない問いを投げ、慌てて服を着ていた。迫り来る恐怖の嵐が、その最初の一吹きを街路へ送り込んだのである。大恐慌の夜明けだった。日曜の夜には何も知らず、無気力に床についたロンドンが、月曜未明、鮮烈な危機感の中でたたき起こされたのだ。

窓からでは何が起きているかわからず、弟は階段を下りて通りへ出た。ちょうど家々の胸壁のあいだの空が、曙の桃色に染まり始めていた。徒歩や車で逃げる人々は、刻一刻と増えていった。「黒い煙だ!」という叫びが聞こえた。そしてまた、「黒い煙だ!」

これほど一様な恐怖の中にいれば、それが伝わらないはずはない。弟が玄関の段でためらっていると、別の新聞売りが近づいてきたので、すぐ一部買った。男はほかの人々とともに逃げながら、一部一シリングで新聞を売っていた。恐慌と金儲けが奇怪に入り混じった姿だった。

その新聞で弟は、総司令官の破滅的な急報を読んだ。

「火星人はロケットを用いて、黒い
有毒な蒸気を大量に放出する能力を有する。敵はわが砲兵陣地を窒息させ、
リッチモンド、キングストン、ウィンブルドンを破壊し、ゆっくりと
ロンドンへ進撃中であり、途上のすべてを破壊している。これを阻止することは不可能である。
黒い煙から身を守るには、ただちに逃れるほかない。」

それだけだった。だが、それで十分だった。人口六百万の大都市の住民全体が、動き出し、抜け出し、駆け出していた。やがてそのすべてが一団となって北へ流れ出すのだ。

「黒い煙だ!」と声が叫んだ。「火事だ!」

近くの教会の鐘が耳をつんざくように鳴り響き、通りの先では、乱暴に走る荷車が、悲鳴とののしりの中、馬の水飲み桶に激突した。家々では病んだような黄色い明かりが行き来し、通り過ぎる辻馬車の中には、まだ灯を消さず、明々と照らしているものもあった。その頭上では、澄みきって揺るぎなく穏やかな夜明けが、ますます明るさを増していた。

背後の部屋や階段を、人々が走りまわる足音が聞こえた。下宿の女主人が、寝間着とショールをだらしなくまとって戸口へ来た。夫も何事か叫びながら続いた。

こうしたことの意味がようやく胸に落ちると、弟は慌てて自分の部屋へ戻り、手持ちの金をありったけ――全部で十ポンドほど――ポケットに詰め、再び通りへ出た。

第十五章 サリーで起きたこと

火星人が攻勢を再開したのは、ハリフォード近くの平らな牧草地で、司祭が生垣の下に座り、私にあの取り乱した話をしていたころだった。同じころ弟は、ウェストミンスター橋を流れていく避難民を見ていた。発表された食い違う報告から確かめられるかぎりでは、火星人の大半はその夜九時までホーセルの穴で準備に忙殺され、大量の緑色の煙を発生させる何らかの作業を急いでいた。

だが、三体が八時ごろ出てきたのは確かである。ゆっくり慎重に進み、バイフリートとパイフォードを通ってリプリーとウィブリッジへ向かい、沈む太陽を背に、待ち構える砲兵陣地の前へ姿を現した。この火星人たちは固まって進むのではなく、互いに一マイル半ほどの間隔をあけて横に並んでいた。音階を上り下りするサイレンのような咆哮を交わし、連絡を取っていた。

アッパー・ハリフォードで私たちが聞いたのは、この咆哮と、リプリーおよびセント・ジョージズ・ヒルの砲声だった。リプリーの砲兵は、経験のない志願兵で、本来あのような場所へ配置すべきではなかった。早まって見当違いの一斉射撃を一度放ち、何の効果もあげぬまま、馬に乗る者も走る者も、無人の村を抜けて逃げ去った。一方、火星人は熱線を使いもせず、悠然と砲列をまたぎ、砲のあいだに用心深く足を下ろし、その前面を通り抜け、思いがけずペインシェル・パークの大砲に行き当たって、これを破壊した。

しかし、セント・ジョージズ・ヒルの兵士たちは、指揮がよかったのか、気概が勝っていたのか、様子が違った。松林に隠れていたため、最も近い火星人にも、まったく気づかれていなかったらしい。演習さながらに落ち着いて照準を定め、およそ千ヤードの距離から発砲した。

砲弾がその周囲で閃光を放ち、火星人は数歩進み、よろめいて倒れた。全員が一斉に歓声をあげ、夢中で砲に次弾を込めた。倒れた火星人は長い遠吠えを発し、ただちに南の木立の上に、これに応じる第二のきらめく巨人が現れた。砲弾の一発がトライポッドの脚を一本砕いたらしかった。第二斉射はすべて、地上に倒れた火星人を大きくそれた。同時に、その二体の仲間が砲兵陣地へ熱線を向けた。弾薬が爆発し、砲の周囲の松が一斉に燃え上がった。すでに丘の頂を越えて逃げていた兵士のうち、一、二人が助かっただけだった。

その後三体は相談を交わして停止したらしく、監視していた斥候の報告では、続く三十分、まったく動かなかったという。倒された火星人は、覆いの中から苦労して這い出した。小さな褐色の姿は、その距離から見ると奇妙にも植物の病斑のようで、脚の修理をしていたらしい。九時ごろには終えたと見え、覆いが再び木立の上に現れた。

その夜九時を数分過ぎたころ、この三体の見張りに、それぞれ太い黒い筒を携えた四体の火星人が合流した。三体にも同じ筒が一本ずつ渡された。七体は、セント・ジョージズ・ヒル、ウィブリッジ、そしてリプリーの南西にあるセンド村を結ぶ弧に沿って、等間隔に散開した。

動き始めるや、その前方の丘々から十数発のロケットが打ち上がり、ディトンとエッシャー付近で待機する砲兵陣地に警告を送った。同時に、同じく筒を装備した四機の戦闘機械が川を渡った。そのうち二機が、西の空を背に黒く浮かび上がり、私と司祭の目に入った。私たちはハリフォードから北へ延びる道を、疲れと痛みに耐えながら急いでいた。乳白色の霧が野を覆い、機械の高さの三分の一まで立ちのぼっていたので、雲に乗って移動しているように見えた。

それを見ると司祭は喉の奥でかすかに叫び、走り出した。だが私は、火星人から走って逃げても無駄だと知っていたので、道をそれ、露に濡れたイラクサと茨をくぐって、道端の広い溝へ這い込んだ。司祭は振り返って私のしていることを見て、引き返してきた。

二機は止まった。近い方はサンベリーに向き合って立ち、遠い方は、ステインズ方面、宵の明星の下あたりに、灰色のぼんやりした姿を見せていた。

ときおり響いていた火星人の咆哮はやんだ。円筒を取り巻く巨大な三日月形の配置につくあいだ、まったくの沈黙が保たれた。その三日月の両端は十二マイルも離れていた。火薬が発明されて以来、これほど静かな戦いの始まりはなかった。私たちにも、リプリー付近の観察者にも、その印象はまったく同じだったろう。細い月と星々、日の名残、そしてセント・ジョージズ・ヒルとペインシェルの森の赤い炎に照らされる、暮れゆく夜を、火星人だけが独占しているように見えたのだ。

だが、その三日月に向かい合ういたるところ――ステインズ、ハウンズロウ、ディトン、エッシャー、オッカム、川の南の丘や森の陰、北岸の平らな草原、木立や村の家々が十分な遮蔽物になる場所すべてに――大砲が待っていた。信号用ロケットが夜空で炸裂し、火花を降らせて消えた。見守るすべての砲兵陣地に、張り詰めた期待が満ちた。火星人が射線に踏み込みさえすれば、微動だにしない兵士たちの黒い影も、夜の始まりに暗く光る砲も、たちまち戦いの雷鳴となって爆発するはずだった。

警戒する千もの頭に、私と同じく最も強く浮かんでいたのは、あの連中はわれわれのことをどれほど理解しているのか、という謎だったに違いない。われわれ数百万が組織され、規律をもち、協力しているとわかっているのだろうか。それとも、われわれの噴き出す火、砲弾の突然の刺すような痛み、彼らの陣地を着実に包囲する動きを、巣を荒らされた蜂が一斉に猛襲してくるのを見るのと同じように受け止めているのだろうか。われわれを絶滅させられると考えているのか。(当時、彼らが何を食物とするのかは誰も知らなかった。)あの巨大な歩哨の姿を見つめながら、百もの疑問が頭の中でせめぎ合っていた。そして意識の奥には、ロンドンの方に潜む、未知の巨大な力という感覚があった。落とし穴は用意したのだろうか。ハウンズロウの火薬工場は罠として準備されているのか。ロンドン市民には、この壮大な家々の国を、モスクワをしのぐ焼け跡に変える覚悟と勇気があるだろうか[訳注:一八一二年、ナポレオン軍占領時のモスクワ大火を指す]。

それから、生垣越しにしゃがんでのぞいていた私たちには果てしなく思える時間が過ぎ、遠い砲声の衝撃に似た音が聞こえた。もう一発、今度は近かった。それからさらに一発。そしてそばの火星人が筒を高く掲げ、砲のように発射した。地面を揺さぶる重い轟音だった。ステインズの方の一機もこれに応じた。閃光も煙もなく、ただ腹にこたえる爆音だけがあった。

間を置いて続く重い砲声に興奮した私は、自分の安全も、熱傷を負った手も忘れ、生垣によじ登ってサンベリーの方を見つめた。そのとき第二の轟音が響き、巨大な飛翔体が頭上をハウンズロウへ飛んでいった。少なくとも煙か火か、何かその効果を示すものが見えると思った。だが見えたのは、星が一つだけ輝く濃青の空と、その下に低く広がる白い霧だけだった。激突音も、それに続く爆発もなかった。静けさが戻り、一分が三分へと延びた。

「何が起きたのです?」と、私のそばに立ち上がった司祭が言った。

「さあ、わからない」と私は答えた。

蝙蝠が一羽、ひらりと横切って消えた。遠くで叫び声の騒ぎが起こり、やんだ。再び火星人を見ると、今は川岸に沿って東へ、素早く体を揺すりながら移動していた。

隠された砲兵陣地のどこかが、今にも火を噴くものと期待した。だが夕暮れの静寂は破られなかった。火星人の姿は遠ざかるにつれて小さくなり、やがて霧と深まる夜に呑まれた。私たちは同じ衝動に駆られ、さらに高くよじ登った。サンベリーの方には黒いものが見えた。突然そこに円錐形の丘が出現し、その向こうの景色を遮ったかのようだった。そしてさらに遠く、川を隔てたウォルトンの上にも、同じような峰が見えた。見つめるうちにも、その丘のようなものは低く、幅広くなっていった。

ふと思いついて北を向くと、そこにも三つ目の、雲でできた黒い小丘が立ち上がっていた。

何もかもが急にひっそりした。はるか南東で火星人が互いに呼び交わす声が聞こえ、かえって静けさを際立たせた。それから、遠い砲撃の鈍い音に空気がまた震えた。だが地球側の砲兵からの応答はなかった。

そのときの私たちには理解できなかったが、のちに私は、薄闇に立ち上がったあの不吉な小丘の意味を知った。先に述べた大きな三日月形に並ぶ火星人は、それぞれ携えた砲のような筒で、正面にある丘、雑木林、家並みなど、砲を隠せそうな場所へ、巨大な缶を放ったのである。一発だけ撃ったものも、私たちの見た一機のように二発撃ったものもいた。リプリーの一機は、このとき実に五発を放ったという。缶は地面に当たると砕けた――爆発はしなかった――そして即座に、重い墨色の蒸気を大量に放出した。それは渦巻きながら噴き上がり、黒々とした巨大な積雲となり、気体の丘をつくってから、沈みつつ周囲の土地へゆっくり広がった。この蒸気に触れること、その刺激臭のある一筋を吸い込むことは、呼吸するすべてのものに死を意味した。

この蒸気は重く、どれほど濃い煙よりも重かった。衝突直後の激しい噴き上がりと流出が収まると、空気の中を沈み、気体というより液体のように地面を流れた。丘から離れ、谷や溝や水路へと流れ込む。そのさまは、火山の割れ目から噴き出す炭酸ガスがたどるという動きそのものだった。水に触れると何らかの化学反応が起こり、水面はたちまち粉状のかすで覆われた。それはゆっくり沈み、あとから来るかすに場所を譲った。このかすはまったく水に溶けず、気体の即効性を思えば不思議なことに、それを濾し取った水は飲んでも害がなかった。蒸気は本当の気体のようには拡散しなかった。塊を保ち、地面の傾斜に沿ってのろのろ流れ、風にも容易には動かされず、ごくゆっくりと空気中の霧や水分と結びついて、塵となって地上へ沈んだ。スペクトルの青い部分に四本一組の線を示す未知の元素が関与していることを除けば、この物質の性質は今なおまったくわかっていない。

放出時の激しい噴き上がりが収まると、黒い煙は沈殿する前から地面にぴったりまとわりついた。そのため、地上五十フィート、高い家の屋根や上階、大木の上なら、毒を完全に免れる見込みがあった。その晩のうちに、ストリート・コバムとディトンで、それが実証された。

前者で助かった男は、その渦巻く流れの異様さと、教会の尖塔から見下ろすと、墨色の虚無から村の家々が幽霊のように浮かび上がっていたことを、驚くべき物語として語っている。男は一日半そこにとどまり、疲労と飢えと焼けつく日に苦しんだ。青空の下、遠い丘を背景に、大地はビロードのような黒い一面となり、赤い屋根、緑の木々、そしてのちには黒い薄衣をかぶった低木や門、納屋、物置、塀が、ところどころで日光の中へ突き出していた。

ただしこれはストリート・コバムでのことだ。そこでは黒い蒸気が、自然に地面へ沈むまで放置されていた。通常、火星人は蒸気が役目を果たすと、その中へ踏み込み、蒸気の噴流を浴びせて空気を再び澄ませた。

私たちの近くにあった蒸気の塊にも、同じことが行われた。アッパー・ハリフォードへ戻った私たちは、無人の家の窓から、星明かりの中でそれを見た。そこからはリッチモンド・ヒルとキングストン・ヒルの探照灯が行き来するのも見えた。十一時ごろ、窓が震え、そこに据えられた巨大な攻城砲の音が聞こえた。砲撃は十五分ほど断続的に続き、ハンプトンとディトンにいる、姿の見えない火星人へ向けて当てずっぽうに砲弾を送っていた。やがて電灯の青白い光条が消え、代わって鮮やかな赤い光が立ち上がった。

それから第四の円筒が、まばゆい緑色の流星となって落ちた。のちに知ったところでは、ブッシー・パークだった。リッチモンドとキングストンの丘陵線の砲が鳴り始める前、はるか南西で断続的な砲撃があった。おそらく砲兵たちが黒い蒸気に呑まれる前に、むやみに砲を放ったのだろう。

こうして火星人は、人間が蜂の巣をいぶり出すように整然と作業を進め、この奇怪な窒息性の蒸気をロンドン方面の土地へ広げていった。三日月の両端はゆっくり開き、ついにはハンウェルからクーム、モールデンへ至る一線となった。一晩じゅう、その破壊の筒は前進し続けた。セント・ジョージズ・ヒルで一機が倒されて以来、火星人はただの一度も、砲兵にわずかな勝機すら与えなかった。見えないところから砲が狙いを定めていそうな場所へは、黒い蒸気の缶を新たに放ち、砲がむき出しに見えていれば熱線を向けた。

真夜中には、リッチモンド・パークの斜面で燃える木々とキングストン・ヒルの火光が、網の目のように広がる黒い煙を照らしていた。煙はテムズ川の谷全体を覆い隠し、見渡すかぎりに広がっていた。その中を二体の火星人がゆっくり歩き、しゅうしゅうと音を立てる蒸気の噴流を、あちらこちらへ向けていた。

その夜、火星人は熱線をあまり使わなかった。発生に必要な物資が限られていたのか、それとも土地を破壊せず、自分たちが呼び起こした抵抗だけを打ち砕き、威圧しようとしたのか。後者が狙いなら、確かに成功した。日曜の夜を最後に、火星人の行動に対する組織的抵抗は終わった。その後は、いかなる集団も敵に立ち向かおうとはしなかった。あまりにも望みがなかったのである。速射砲を積んでテムズ川をさかのぼっていた水雷艇や駆逐艦の乗組員までも、踏みとどまることを拒み、命令に背いて再び下流へ去った。その晩以後、人間があえて行った攻撃の準備は、地雷と落とし穴を仕掛けることだけだった。それさえ、必死で散発的な努力にすぎなかった。

夕闇の中、あれほど張り詰めて待っていたエッシャー方面の砲兵陣地の運命は、想像するほかない。生存者は一人もいない。整然とした待機、鋭く警戒する将校たち、いつでも撃てる砲兵たち、手近に積まれた弾薬、馬と砲車を控えさせる前車の兵、許されるかぎり近くに集まった民間の見物人、夕べの静けさ、ウィブリッジから来た火傷患者や負傷者のいる救急馬車と野戦病院の天幕。そして火星人の発射する砲弾の鈍い響き、木々や家々の上を回転しながら飛び、近くの畑で砕ける無骨な飛翔体。

さらに想像できるだろう。突然そちらへ向けられる注意。急速に広がる黒い渦と膨らみが、まっしぐらに迫り、空高くそびえ、薄闇を手で触れられるほどの暗黒へ変えていく。蒸気でできた異様で恐るべき敵が、犠牲者たちの上へ大股で迫る。近くの人馬はかすかにしか見えず、走り、悲鳴をあげ、前のめりに倒れる。狼狽の叫び、突然捨てられる大砲、地面で窒息し、身をよじる男たち。光を通さぬ煙の円錐が、急速に広がってゆく。そして夜と死――死者を覆い隠す、見通せない蒸気の静かな塊だけが残る。

夜明け前、黒い蒸気はリッチモンドの街路を流れていた。崩壊しかけた政府機構は、息絶える直前の最後の力を振り絞り、ロンドン市民を起こして、逃げねばならないと告げていた。

第十六章 ロンドンからの大脱出

これで、月曜の夜明けとともに世界最大の都市を襲った、あの轟く恐怖の波が理解できるだろう。避難の流れはたちまち奔流となり、駅の周囲で泡立って荒れ狂い、テムズ川の船々のまわりでは堰き止められて恐ろしい争いとなり、通れる道という道を北へ東へと急いだ。十時には警察機構が、正午には鉄道機構さえも、まとまりを失い、形と機能を失っていた。社会という身体が急激に液状化する中で、それらも崩れ、軟らかくなり、ついには流れ去っていった。

テムズ川以北の全鉄道路線と、キャノン・ストリートの南東鉄道には、日曜の真夜中までに警告が届いており、列車は乗客で埋まりつつあった。二時の時点ですでに、人々は車内の立つ場所を求めて凶暴に争っていた。三時には、リバプール・ストリート駅から二百ヤード以上離れたビショップスゲート通りでさえ、人が踏みつけられ、押し潰されていた。拳銃が発砲され、刃物で刺される者が出た。交通整理に派遣された警官たちは、疲労と激怒のあまり、本来守るために出動したはずの人々の頭を殴り割っていた。

日が進み、機関士と機関助士がロンドンへ戻るのを拒むようになると、逃避の圧力は、ますます厚みを増す群衆を駅から押し出し、北へ向かう街道へと流した。正午までにはバーンズで火星人が目撃され、ゆっくり沈む黒い蒸気の雲がテムズ川に沿い、ランベスの平地を横切って流れ、その鈍い前進で橋を渡る逃げ道をことごとく断った。別の塊はイーリングを覆い、キャッスル・ヒルに残った小島のような生存者の集まりを取り囲んだ。彼らは生きていたが、逃げられなかった。

弟はチョーク・ファームで北西鉄道の列車に乗ろうとむなしく奮闘した。貨物ヤードで乗客を満載した列車の機関車は、悲鳴をあげる人々をかき分けるように進み、十数人の屈強な男が、群衆に押された機関士が火室へ押し潰されないよう食い止めていた。弟はようやくチョーク・ファーム通りへ出て、急ぐ車の群れをかわしながら横切り、運よく自転車店の略奪で先頭に立つことができた。手に入れた自転車は、窓から引きずり出すとき前輪がパンクした。それでもまたがって走り出し、手首を切ったほかには怪我もなかった。ハヴァーストック・ヒルの急坂の下は、何頭もの馬が倒れていて通れず、弟はベルサイズ通りへ入った。

こうして恐慌の激流から抜け出し、エッジウェア通りの脇をたどって、七時ごろエッジウェアに着いた。何も食べず、疲れ果てていたが、群衆よりはずっと先に出ていた。沿道では人々が道に立ち、好奇心と当惑を浮かべて眺めていた。何人もの自転車乗り、数人の騎馬の男、二台の自動車が弟を追い越した。エッジウェアの一マイル手前で車輪のリムが壊れ、自転車は使えなくなった。弟は道端に置き、村までとぼとぼ歩いた。目抜き通りでは店が半ば開き、歩道にも戸口にも窓辺にも人が群がって、始まったばかりの異様な避難民の行列を驚いて見ていた。弟は宿屋でどうにか食べ物を手に入れた。

次にどうすべきかわからず、弟はしばらくエッジウェアにとどまった。逃げる人々は増え続けた。弟と同じく、この場所で足を休めたそうな人が多かった。火星からの侵略者について、新しい知らせは何もなかった。

そのころ道は混んでいたが、まだ渋滞というほどではなかった。この時間帯の避難民は大半が自転車に乗っていた。だが間もなく自動車や二輪辻馬車、自家用馬車が急ぎ始め、セント・オールバンズへ通じる街道には、厚い土埃の雲が垂れ込めた。

弟がついに東へ延びる静かな小道へ入ったのは、友人のいるチェルムスフォードへ行こうという、漠然とした考えがあったからだろう。やがて柵越えの踏み段を見つけ、それを越えて北東への歩道をたどった。いくつかの農家や、名前も知らない小さな集落のそばを通った。避難民はほとんど見なかったが、ハイ・バーネットへ向かう草の生えた小道で、その後旅をともにする二人の女性と出会った。まさに、二人を救うのに間に合う瞬間だった。

悲鳴を聞いて角を駆け曲がると、二人の男が、小型のポニー馬車から女性たちを引きずり下ろそうともみ合い、三人目の男が、おびえるポニーの頭をどうにか押さえていた。一人の女性は白い服を着た小柄な人で、ただ叫び続けていた。もう一人は髪の黒い細身の女性で、片腕をつかむ男に、自由な方の手で鞭を振りつけていた。

弟はすぐに状況を察し、声をあげて争いの場へ駆け寄った。男の一人が手を離して弟に向き直った。弟は相手の顔から、殴り合いは避けられないと悟った。ボクシングの心得は十分にあったので、即座に踏み込み、男を馬車の車輪へ殴り倒した。

拳闘の礼儀を守る場合ではなかった。弟は蹴りを入れて男を動けなくし、細身の女性の腕を引いている男の襟をつかんだ。蹄の音が響き、鞭が顔を鋭く打った。三人目の相手が弟の眉間を殴り、つかまえていた男は身をねじって逃れ、来た方角へ小道を走り去った。

半ば目がくらむ中、弟は馬の頭を押さえていた男と向き合っていた。そして馬車が左右に揺れながら小道を遠ざかり、二人の女性がこちらを振り返っているのに気づいた。目の前の大柄なごろつきが組みつこうとしたので、顔を殴って阻んだ。それから自分が取り残されたと悟り、身をかわして馬車のあとを追った。屈強な男がすぐ後ろを追い、逃げた男も引き返して、少し離れて続いてきた。

突然、弟はつまずいて転んだ。すぐ後ろの追手も前のめりに倒れた。弟が立ち上がると、また二人を相手にしていた。細身の女性が勇敢にも馬車を止め、助けに戻らなければ、まず勝ち目はなかったろう。女性は初めから拳銃を持っていたのだが、襲われたときは座席の下にあったらしい。六ヤードの距離から撃ち、弾は危うく弟をそれた。強盗のうち気の弱い方が逃げ、仲間もその臆病さをののしりながら続いた。二人はまだ見えるところで立ち止まった。三人目が気を失って倒れている場所だった。

「これを!」と細身の女性は言い、弟に拳銃を渡した。

「馬車へ戻ってください」と弟は言い、切れた唇の血を拭った。

女性は無言で向き直った。二人とも息を切らしていた。そして白い服の女性が、おびえたポニーを懸命に引き止めているところへ戻った。

強盗どもは、もうこりごりだったらしい。弟がもう一度見ると、退散していた。

「ここへ座ってもいいですか」と弟は言い、空いている前の座席へ乗った。女性が肩越しに振り返った。

「手綱をください」と言って、ポニーの脇へ鞭を当てた。次の瞬間には道の曲がり角が、三人の男を弟の視界から隠していた。

こうして思いがけず、弟は息を切らし、口を切り、顎を打ち、拳を血に染めたまま、二人の女性と見知らぬ小道を馬車で進むことになった。

二人はスタンモアに住む外科医の妻と妹だとわかった。医師はピナーで重病患者を診て未明に帰る途中、どこかの駅で火星人の進撃を聞いた。急いで帰宅し、二人を起こした――使用人は二日前に辞めていた――それから食料を詰め、幸いにも弟の役に立つことになる拳銃を座席の下に置き、エッジウェアまで馬車で行き、そこで列車に乗るよう言いつけた。自分は近所へ知らせるため残った。朝四時半ごろには追いつくと言っていたのに、もう九時近く、まだ姿が見えなかった。エッジウェアは通行量が増す一方でとどまれず、この脇道へ入ったというのだった。

それが、しばらくしてニュー・バーネットに近い場所でまた止まったとき、二人が切れ切れに弟へ語った話だった。弟は、少なくとも今後どうするか決まるか、行方のわからない医師が来るまでは一緒にいると約束した。そして安心させるため、実は使い慣れていない拳銃を、得意なのだと請け合った。

三人は道端に仮の休み場をつくり、ポニーは生垣の草を食べて機嫌をよくした。弟は自分のロンドン脱出と、火星人やその行動について知っていることをすべて話した。太陽が高くなるにつれ、やがて会話は途切れ、不安な待ち時間になった。小道を何人かの旅人が通り、弟はできるだけ知らせを集めた。切れ切れの返答を聞くたびに、人類を襲った大災厄の大きさがいっそう身に迫り、ただちに逃げ続けねばならないという確信が深まった。弟は二人にそう勧めた。

「お金はあるんです」と細身の女性が言い、ためらった。

弟と目が合うと、そのためらいは消えた。

「私にもあります」と弟は言った。

女性は、五ポンド紙幣のほかに金貨で三十ポンドもあると説明し、それでセント・オールバンズかニュー・バーネットから列車に乗れないだろうかと言った。弟は、ロンドン市民があれほど狂ったように列車へ殺到していたのを見ているので、望みはないと考えた。そして、エセックスを横切ってハロウィッチへ向かい、そこからいっそ国外へ逃れようという、自分の案を切り出した。

エルフィンストーン夫人――白い服の女性の名だった――は、どんな理屈にも耳を貸さず、「ジョージ」と呼び続けていた。だが義妹は驚くほど冷静で思慮深く、ついに弟の提案に同意した。そこでグレート・ノース・ロードを横切るつもりで、バーネットへ向かった。弟はできるだけポニーを休ませようと、手綱を引いて歩いた。太陽が昇るにつれて暑さは猛烈になり、足元に厚く積もる白っぽい砂は、焼けつくように熱く、目もくらむほどになった。そのため進みはひどく遅かった。生垣は埃で灰色になっていた。バーネットへ近づくにつれ、騒然としたどよめきが大きくなった。

行き会う人も増えてきた。その多くは正面を見つめ、聞き取れない問いをつぶやき、疲れ果て、やつれ、汚れていた。夜会服姿の男が一人、地面を見ながら歩いて通り過ぎた。声がしたので振り返ると、片手で髪をつかみ、もう片方で見えない何かを殴っていた。怒りの発作が収まると、男は一度も振り返らずに歩き続けた。

弟たちがバーネット南の交差点へ向かっていくと、左手の畑を横切って、子供を抱え、さらに二人連れた女性が道へ近づいてきた。次に、汚れた黒服の男とすれ違った。片手に太い棒、もう片方に小さな旅行鞄を持っていた。それから、街道との合流点を挟む住宅のあいだから、小道の角を曲がって小さな荷車が来た。汗まみれの黒いポニーが引き、山高帽をかぶった血色の悪い若者が御していた。若者は埃で灰色になっていた。荷車にはイースト・エンドの工場娘が三人と、小さな子供が二人、窮屈そうに乗っていた。

「こっちならエッジウェアを回れるんかい?」と御者が尋ねた。目は血走り、顔は真っ白だった。弟が、左へ曲がれば行けると教えると、礼も言わず、すぐ鞭を入れた。

弟は、前方の家々のあいだに薄い灰色の煙か靄が立ち、街道の向こう、住宅の裏手のすきまに見える長屋の白い正面を覆っているのに気づいた。突然エルフィンストーン夫人が叫んだ。前方の家々の上、熱く青い空を背に、煙を帯びた赤い炎が何本も舌を伸ばしていた。騒然とした音は今や、無数の声の乱れた混ざり合い、車輪のきしり、荷車の軋み、短く刻む蹄の音へと聞き分けられた。小道は交差点から五十ヤードもないところで、鋭く曲がっていた。

「まあ、何てこと!」とエルフィンストーン夫人が叫んだ。「あなた、私たちをどこへ連れていくの?」

弟は足を止めた。

街道は煮え立つような人の流れだった。互いに押し合いながら北へ突き進む、人間の奔流だった。強い日差しに白く輝く巨大な土埃の層が、地上二十フィート以内のすべてを灰色にぼかしていた。密集した馬と、歩く男女のせわしない足、ありとあらゆる車の車輪が、絶えず新しい埃を巻き上げていた。

「どけ!」という叫びが弟に聞こえた。「道をあけろ!」

小道と街道の合流点へ近づくのは、火事の煙へ乗り込むようだった。群衆は火のように轟き、土埃は熱く、鼻や喉を刺した。実際、街道を少し行ったところで一軒の住宅が燃え、黒煙を渦巻かせて道を横切らせ、混乱をいっそう深めていた。

男が二人、通り過ぎた。それから重い包みを抱え、泣いている汚れた女が来た。迷い犬のレトリーバーが、舌を垂れ、おびえた惨めな様子で三人のまわりをためらいがちに回り、弟が追い払うと逃げた。

右手の家々のあいだから見えるロンドン方面の街道は、両側の住宅に挟まれ、汚れた人々が急ぐ騒々しい流れで埋まっていた。黒い頭々と密集した身体は、角へ押し寄せるにつれて一人一人の姿になり、急いで通り過ぎると、また個々の輪郭を失って遠ざかる群衆へ溶け、最後には土埃の雲に呑まれた。

「進め! 進め!」と声が叫んだ。「どけ! どけ!」

一人の手が前の男の背を押していた。弟はポニーの頭のそばに立っていた。抗しがたい力に引かれ、ゆっくり一歩ずつ小道を進んだ。

エッジウェアは混乱し、チョーク・ファームは暴動さながらだった。だがここでは、住民全体が動いていた。この大群は想像しがたい。それ自体の顔というものがなかった。人影が角を越えて流れ出し、小道の三人に背を向けて去っていく。道の端では、徒歩の者が車輪に脅かされ、溝につまずき、互いにぶつかりながら進んでいた。

荷車や馬車は隙間なく続き、ときおり機を見て飛び出す、もっと速くせっかちな車に、ほとんど道を譲らなかった。そのたびに人々は住宅の柵や門へ押し散らされた。

「先へ行け!」と声がした。「先へ! 奴らが来るぞ!」

一台の荷車には、救世軍の制服を着た盲目の男が立ち、曲がった指を振りまわしながら、「永遠だ! 永遠だ!」と叫んでいた。

その声はしわがれてひどく大きく、土埃で姿が見えなくなっても、長いあいだ弟の耳に届いた。荷車に詰め込まれた人々の中には、無闇に馬を鞭打ち、ほかの御者と言い争う者もいた。動かず座り、惨めな目で何もないところを見つめる者もいた。渇きのあまり手を噛む者や、車の底に横たわる者もいた。馬の銜はみは泡に覆われ、目は血走っていた。

辻馬車、自家用馬車、商店の荷車、大型荷車が、数えきれないほど続いた。郵便馬車、「セント・パンクラス教区委員会」と書かれた清掃用の荷車、ごろつきを満載した巨大な木材運搬車。ビール運搬車が轟音とともに通り過ぎ、その左側の二つの車輪には鮮血が飛び散っていた。

「道をあけろ!」と声が叫んだ。「道をあけろ!」

「えいえんだ! えいえんだ!」という声が街道に響いた。

身なりはよくても悲しげにやつれた女たちが、泣いてつまずく子供を連れて歩いていた。上等な服は埃まみれで、疲れた顔は涙に汚れていた。その多くには男が付き添い、ある者は助け、ある者は陰気で荒々しかった。その横で、色あせた黒いぼろをまとった、疲れた浮浪者が押し進んだ。目を見開き、大声で悪態をついていた。屈強な労働者が力ずくで進み、事務員や店員のような服の、惨めで身なりの乱れた男たちが、突発的にもがいていた。弟は負傷した兵士を見た。鉄道ポーターの服を着た男たちもいた。寝間着の上に上着を引っかけただけの、哀れな者もいた。

だが、どれほどさまざまな人間が混じっていても、この大群には共通するものがあった。顔には恐怖と苦痛があり、背後にも恐怖があった。街道の先で騒ぎが起きたり、荷車の席をめぐって争いが起きたりすると、群衆全体の足が速まった。恐怖と疲労で膝が折れそうな男さえ、一瞬、電気を流されたように勢いを取り戻した。暑さと埃は、すでにこの大群を蝕んでいた。肌は乾き、唇は黒くひび割れていた。誰もが渇き、疲れ、足を痛めていた。さまざまな叫びに混じって、口論、非難、疲労と消耗の呻きが聞こえた。大半の声はかすれ、弱っていた。そのすべてを貫いて、同じ言葉が繰り返された。

「どけ! どけ! 火星人が来るぞ!」

その流れから立ち止まって脇へそれる者は、ほとんどいなかった。小道は街道へ斜めに狭く口を開け、ロンドン方面から来る道のように見えた。それでも、その入口へ人々の小さな渦が流れ込んだ。奔流から肘で押し出された弱い者たちで、大半はほんの少し休むと、また流れへ飛び込んだ。小道を少し入ったところに、片脚をむき出しにし、血まみれの布を巻いた男が横たわり、二人の友人が身をかがめていた。友人がいるだけ、その男は幸運だった。

灰色の軍人風の口髭を生やし、汚い黒のフロックコートを着た小柄な老人が、足を引きずって流れから出てきた。馬車のそばに腰を下ろし、長靴を脱ぐと――靴下は血に染まっていた――小石を振り落とし、またよろよろ歩き去った。そのあと八つか九つの少女が、たった一人で、弟のすぐそばの生垣の下へ身を投げ出し、泣いた。

「もう歩けない! もう歩けない!」

弟は驚きに麻痺していた心を取り戻し、優しく声をかけながら少女を抱き上げ、エルフィンストーン嬢のところへ運んだ。少女は弟に触れられるや、おびえたようにぴたりと静まった。

「エレン!」と群衆の中で女が、涙を含んだ声で叫んだ。「エレン!」

すると少女は突然、弟の腕から飛び出し、「お母さん!」と叫んだ。

「奴らが来る」と、小道を馬で通り過ぎる男が言った。

「そこ、どけ!」と、高い御者台から男が怒鳴った。弟は箱馬車が小道へ入ってくるのを見た。

人々は馬を避けようと、互いに押し合って後ずさった。弟はポニーと馬車を生垣へ押しつけた。箱馬車は通り過ぎ、道の曲がり角で止まった。二頭立て用の長柄があるのに、つながれている馬は一頭だけだった。埃越しに弟は、男二人が白い担架に載せた何かを下ろし、イボタノキの生垣の下の草へそっと置くのを、ぼんやり見た。

そのうち一人が弟のところへ走ってきた。

「水はどこにあります?」と男は言った。「今にも亡くなりそうで、ひどく喉が渇いているんです。ガリック卿です。」

「ガリック卿ですって?」と弟は言った。「首席判事の?」

「水は?」

「どこかの家なら、蛇口があるかもしれません」と弟は言った。「私たちには水はありません。連れを残しては行けないんです。」

男は群衆を押し分け、角の家の門へ向かった。

「進め!」と人々が男を押した。「奴らが来るぞ! 進め!」

そのとき弟の注意は、髭を生やした、鷲のような顔つきの男にそれた。男は小さな手提げ鞄を引きずっていたが、弟が見ているその前で鞄が裂け、ソヴリン金貨[訳注:一ポンド金貨]の塊がこぼれ落ちた。地面にぶつかった途端、一枚一枚に砕けたように見えた。金貨は、もみ合う人と馬の足元をあちらこちらへ転がった。男は立ち止まり、呆けたようにその山を見た。そこへ辻馬車の轅が肩に当たり、よろめかせた。男は悲鳴をあげて身を引き、荷車の車輪がすれすれをかすめた。

「どけ!」と周囲の男たちが叫んだ。「道をあけろ!」

辻馬車が通り過ぎるや、男は両手を広げて金貨の山に飛びつき、つかんではポケットへ押し込み始めた。すぐそばで馬が立ち上がった。次の瞬間、半ば身を起こした男は、その蹄の下へ押し倒されていた。

「止まれ!」と弟は叫び、女を一人押しのけ、馬の銜をつかもうとした。

届く前に車輪の下から悲鳴が聞こえ、埃を透かして、車輪の縁が哀れな男の背を越えていくのが見えた。御者が弟へ鞭を振るい、弟は荷車の後ろへ走りまわった。無数の叫びが耳を混乱させた。男は散らばった金のあいだ、埃の中で身をよじっていたが、起き上がれなかった。車輪で背骨を折られ、下半身は力なく、死んだように横たわっていた。弟は身を起こし、次の御者へ怒鳴った。黒馬に乗った男が助けに来た。

「道から出せ」とその男は言った。弟は空いている手で襟をつかみ、男を横へ引きずった。だが男はなおも金をつかもうとし、弟を凶暴な目でにらみ、金貨を握った拳で腕を叩いた。「進め! 進め!」と背後で怒った声がした。「どけ! どけ!」

騎馬の男が止めた荷車に、後ろの馬車の長柄が衝突し、激しい音がした。弟が顔を上げると、金貨の男は首をねじり、自分の襟をつかむ手首に噛みついた。衝撃が起こり、黒馬が横によろめき、荷車の馬がその脇へ押し寄せた。蹄が弟の足を紙一重でそれた。弟は倒れた男から手を放し、飛び退いた。地面の哀れな顔で、怒りが恐怖に変わるのを見た。次の瞬間には男は見えなくなり、弟は後ろへ押し流され、小道の入口を通り過ぎた。戻るためには、激流の中で必死にもがかねばならなかった。

エルフィンストーン嬢が両目を覆っていた。小さな子供は、子供らしい、他人の苦痛を思い描く力の欠如をむき出しに、転がる車輪に踏み砕かれ、埃をかぶって黒く静止した何かを、大きく目を見開いて見ていた。「戻りましょう!」と弟は叫び、ポニーの向きを変え始めた。「こんな――地獄は渡れない」三人は来た道を百ヤード戻り、争う群衆が見えなくなるところまで下がった。曲がり角を通るとき、弟はイボタノキの下の溝に横たわる瀕死の男の顔を見た。死人のように白く、引きつり、汗で光っていた。二人の女性は座席で身を縮め、黙って震えていた。

角を曲がった先で、弟はまた止まった。エルフィンストーン嬢は血の気を失い、義姉は「ジョージ」と呼ぶ気力すらなく、ただ泣いていた。

弟は恐怖と困惑に襲われていた。だが引き返すや、あそこを横切らねばならず、しかも一刻を争うのだと悟った。突然決意を固め、エルフィンストーン嬢に向き直った。

「あちらへ行くしかありません」と言い、再びポニーの向きを変えた。

この日二度目に、若い女性は気丈さを示した。人の奔流へ割り込むため、弟は往来へ飛び込み、辻馬車の馬を押しとどめた。その鼻先を、彼女がポニーを走らせて横切った。荷車と一瞬車輪が噛み合い、馬車の側面から長い木片が裂けた。次の瞬間、三人は流れに捕まり、前へ押し流されていた。弟は御者の鞭で顔と手に赤い筋をつけられながら、馬車へよじ登り、彼女から手綱を受け取った。

「後ろの男が無理に押してきたら、拳銃を向けてください」と言って渡した。「いや、男じゃない。馬に向けるんです。」

それから弟は、道を右へ横切る機会をうかがい始めた。だが一度流れに入ると、意志を失い、埃にまみれた敗走の一部になったようだった。三人は奔流とともにチッピング・バーネットを通り抜けた。ようやく反対側へ出たときには、町の中心から一マイル近く先まで運ばれていた。騒音と混乱は言葉では尽くせなかった。ただ、町の中でもその先でも道は何度も分かれ、それで圧力はいくらか和らいだ。

三人はハドリーを通って東へ向かった。そこでは道の両側で、さらに先の別の場所でも、多くの人が流れの水を飲み、ありつくために争っている者もいた。もっと先、イースト・バーネット近くの小高いところから、二本の列車が信号も秩序もなく、ゆっくり続いて走るのが見えた。車両には人がびっしり群がり、機関車の後ろの石炭のあいだにまで人が乗っていた。グレート・ノーザン鉄道を北へ向かっていた。弟は、ロンドンの外で乗客を乗せたに違いないと考えている。そのころ中心部のターミナルは、人々の凄まじい恐慌で使いものにならなくなっていたからだ。

この近くで三人は、その日の午後を休むことにした。一日の激しい出来事に、もうすっかり疲れ果てていた。空腹も感じ始めた。夜は寒く、誰も眠る勇気がなかった。そして夕方には、三人の休み場に近い道を、多くの人が急いで通った。前方の未知の危険から逃れ、弟の来た方角へ向かっていた。

第十七章 「サンダーチャイルド。」

火星人が破壊だけを目指していたなら、月曜日、ロンドン周辺の諸州へゆっくり拡散する全市民を、ことごとく絶滅させることもできただろう。バーネットを通る街道ばかりでなく、エッジウェアやウォルサム・アビーを通る道にも、東のサウスエンドやシューベリネスへ向かう道にも、テムズ川の南をディールやブロードステアーズへ向かう道にも、同じ狂乱の敗走があふれていた。あの六月の朝、ロンドン上空の焼けつく青空に気球を浮かべられたなら、入り組んだ街路の迷路から北と東へ延びるすべての道が、流れる避難民の黒い点で埋まって見えただろう。一つ一つの点が、恐怖と身体の苦痛に責めさいなまれる人間だった。前章で、チッピング・バーネットを通る道について弟の話を長々と記したのは、その黒点の群れが、当事者の一人にはどう見えたのか、読者に知ってもらうためである。これほど多数の人間がともに移動し、ともに苦しんだことは、世界史にかつてなかった。伝説的なゴート族やフン族の大群も、アジア史上最大の軍勢も、この流れの中では一滴にすぎなかっただろう。しかも、これは規律ある行軍ではなかった。暴走だった――巨大で恐ろしい暴走だった。秩序も目的地もなく、武器も食料もない六百万の人間が、ただ前へ突き進んでいた。文明の敗走、人類の虐殺の始まりだった。

気球から真下を見れば、どこまでも広がる街路の網、家々、教会、広場、三日月形の街並み、庭園――すでに捨てられたそれらが――巨大な地図のように見え、その南側は塗り潰されていただろう。イーリング、リッチモンド、ウィンブルドンの上では、巨大なペンがその地図にインクをぶちまけたように見えたはずだ。一つ一つの黒いしみが、休みなく着実に広がり、あちらこちらへ枝を伸ばし、あるところでは高地にせき止められ、あるところでは尾根を越えて新しい谷へ急速に注ぎ込んだ。まさに、吸取紙に落ちたインクが染み広がるようだった。

さらに向こう、川の南に連なる青い丘々の上を、きらめく火星人が行き来していた。冷静に、手順よく、こちらの土地、次はこちらの土地へと毒の雲を広げ、役目が済むと蒸気の噴流で沈め、征服地を占領した。絶滅そのものよりも、戦意を完全にくじき、いっさいの抵抗を破壊することを目指していたらしい。見つけた火薬庫は爆破し、電信線はすべて切り、鉄道はあちこちで壊した。人類の脚の腱を断っていたのだ。作戦地域を広げるのを急いでいる様子はなく、その日一日、ロンドンの中心部より先へは出なかった。月曜の朝じゅう、かなり多くの人が家にとどまっていた可能性がある。多くの人が自宅で黒い煙に窒息して死んだことは確かだ。

正午ごろまで、ロンドン港のプール水域は驚くべき光景を呈していた。避難民の差し出す莫大な金に引かれ、汽船やあらゆる種類の船がそこに停泊していた。泳いでたどり着こうとした多くの人が、鉤竿かぎざおで突き放され、溺れたという。午後一時ごろ、ブラックフライアーズ橋のアーチのあいだに、薄れかけた黒い蒸気の雲の残りが現れた。たちまち港は狂気じみた混乱と争いと衝突の場となり、一時はタワー橋の北側のアーチに、多数の小舟とはしけが詰まった。船員とはしけの船頭は、河岸から群がってくる人々と必死に戦わねばならなかった。橋の上から橋脚を伝って下りてくる者さえいた。

一時間後、時計塔の向こうに火星人が現れ、川を歩いて下ってきたときには、ライムハウスより上流に浮かぶものは残骸だけだった。

第五の円筒の落下については、やがて述べねばならない。第六の星はウィンブルドンに落ちた。弟は牧草地で、馬車の女性たちのそばに見張りながら、その緑色の閃光をはるかな丘の向こうに見た。火曜日、三人はなおも海を渡る決心を変えず、人のあふれる田園をコルチェスターへ向かった。火星人がロンドン全域を占領したという知らせは確かなものとなった。ハイゲートで目撃され、ニー ズデンにさえ現れたという。だが弟がその姿を見るのは、翌日まで待たねばならなかった。

その日、各地へ散った群衆は、食料の切迫した必要を悟り始めた。空腹が募るにつれて、所有権は顧みられなくなった。農民は武器を手に、牛舎、穀倉、育ちつつある根菜の畑を守りに出た。弟のように東へ向かう者は多かったが、食べ物を求め、必死の思いでロンドンへ引き返す者さえいた。その多くは北の郊外から来た人々で、黒い煙については伝聞でしか知らなかった。弟は、政府の閣僚の半数ほどがバーミンガムに集まり、ミッドランドの諸州に仕掛ける自動地雷用に、大量の高性能爆薬が用意されつつあると聞いた。

また、ミッドランド鉄道会社は初日の恐慌で逃げた職員の穴を埋め、運行を再開し、周辺諸州の混雑を緩和するため、セント・オールバンズから北行き列車を走らせているとも聞いた。チッピング・オンガーには、北部の町々に大量の小麦粉の備蓄があり、二十四時間以内に近隣の飢えた人々へパンを配給するという掲示もあった。だが、その知らせで弟の脱出計画は変わらなかった。三人は一日じゅう東へ進み、パンの配給については、その約束以上のことを何も聞かなかった。実際、ほかの誰も聞かなかった。その夜、第七の星が落ちた。プライムローズ・ヒルだった。弟と交代で見張っていたエルフィンストーン嬢の番で、彼女がそれを見た。

水曜日、三人の避難民は――前夜はまだ青い麦の畑で過ごした――チェルムスフォードに着いた。そこで「公共物資供給委員会」と称する住民の一団が、ポニーを食料として没収した。代償として与えられたのは、翌日その肉の分け前を渡すという約束だけだった。ここでは、エッピングに火星人が現れたという噂と、侵略者の一体を爆破しようとして失敗し、ウォルサム・アビーの火薬工場が破壊されたという報があった。

ここでは人々が教会の塔から火星人を見張っていた。三人ともひどく空腹だったが、弟は食料を待つより、ただちに海岸へ進むことにした。結果的には、それが非常な幸運となった。正午までにティリンガムを通過した。奇妙なことに、食料を探してこそこそ動く略奪者が数人いるほかは、まったく静まり返り、無人のようだった。ティリンガムの近くで、突然海が見えた。そして、想像できるかぎり驚くべき、ありとあらゆる船の大群が現れた。

船乗りたちはテムズ川へ入れなくなると、避難民を救うため、エセックス海岸のハロウィッチ、ウォルトン、クラクトンへ、さらにファウルネスやシューベリーへと向かったのである。船は巨大な鎌形の弧を描いて並び、その端はザ・ネイズの方の霞に消えていた。岸近くには、イングランド、スコットランド、フランス、オランダ、スウェーデンの漁船が無数にいた。テムズ川から来た蒸気艇、ヨット、電動艇もあった。その沖には、より大型の船がいた。汚れた石炭船が多数、すっきりした商船、家畜運搬船、客船、石油タンカー、不定期の外洋貨物船、古い白塗りの輸送船まであり、サウサンプトンやハンブルクから来た白や灰色の整った定期船もあった。ブラックウォーター川の向こう、青い海岸沿いでは、小舟の密集が浜の人々と交渉しているのを、弟はかすかに見分けられた。その群れはブラックウォーター川を、ほとんどモールドンまでさかのぼっていた。

二マイルほど沖には、一隻の装甲艦が浮かんでいた。舷がひどく低く、弟には、浸水した船のようにさえ見えた。衝角艦サンダーチャイルドだった。見える範囲では唯一の軍艦だったが、はるか右手、滑らかな海面の上に――その日はまったくの凪だった――黒煙の蛇が横たわり、英海峡艦隊のほかの装甲艦の位置を示していた。火星人の征服が進むあいだ、艦隊はテムズ河口に長く展開し、蒸気を上げ、戦闘準備を整えていた。警戒はしていても、侵略を止める力はなかった。

海を見ると、エルフィンストーン夫人は、義妹がいくら安心させても恐慌に陥った。イングランドの外へ出たことなど一度もない、知る人もない外国へ身を任せるくらいなら死んだ方がましだ、といったことを言った。気の毒な夫人には、フランス人と火星人が、似たようなものになると思えたらしい。二日間の旅のあいだ、ますます取り乱し、怯え、ふさぎ込んでいた。何より望んでいたのはスタンモアへ戻ることだった。スタンモアなら、いつも何もかも順調で安全だった。スタンモアへ帰れば、ジョージがいるはずだった……。

夫人を浜へ連れて下りるのは、大変な苦労だった。そこで弟は、やがてテムズ川から来た外輪汽船の男たちの注意を引くことができた。小舟が出され、三人で三十六ポンドという話がまとまった。男たちの話では、汽船はオステンドへ向かうという。

二時ごろ、弟は舷門で船賃を払い、二人の女性とともに、無事汽船の上にいた。船内には食べ物があった。法外な値段だったが、三人は船首側の座席で、どうにか食事にありついた。

すでに四十人ほどの乗客がおり、中には船賃で最後の金を使い果たした者もいた。だが船長は午後五時までブラックウォーター川沖にとどまり、甲板の座席が危険なほど混み合うまで客を拾い続けた。その時刻に南で砲声が鳴り始めなければ、もっと長くとどまっただろう。それに応じるように、沖の装甲艦が小砲を一発放ち、信号旗を連ねて掲げた。煙突から煙が噴き上がった。

乗客の中には、その砲声はシューベリネスからだろうと言う者もいた。だが次第に音が大きくなっていることがわかった。同時に、はるか南東では、黒煙の雲の下から三隻の装甲艦のマストと上部構造が、一隻また一隻と水平線上に現れた。だが弟の注意はすぐ、南の遠い砲声へ戻った。遠方の灰色の霞から煙の柱が立つのが、見えたように思った。

小さな汽船はすでに外輪をばたつかせ、船団の大きな三日月の東へ進んでいた。低いエセックス海岸は青く霞み始めていた。そのとき、はるか遠くに、小さくかすかな火星人が現れた。ファウルネスの方から、泥の海岸沿いに進んでいた。船橋の船長は、恐怖と、自分がぐずぐずしたことへの怒りから、声を限りに悪態をついた。その恐怖が外輪にも感染したかのようだった。船上の全員が舷側に立ち、あるいは座席に上がり、遠い姿を見つめた。内陸の木々や教会の塔よりも高く、人間の歩みをゆっくりまねるように進んでいた。

弟が火星人を見たのは、それが初めてだった。恐怖よりも驚きが勝り、その巨人が落ち着き払って船団へ向かい、岸が遠のくにつれて、ますます深い水へ入ってくるのを見つめた。それから、はるかクラウチ川の向こうにもう一体が現れ、背の低い木々をまたいで来た。さらに遠くにはもう一体、海と空の中ほどに浮かぶように見える、光った干潟を深く踏み進んでいた。どれも海へ向かっていた。ファウルネスとザ・ネイズのあいだに群がる無数の船の逃げ道を、遮るかのようだった。小さな外輪船の機関は懸命に鼓動し、外輪は泡を後方へ吐き出していたが、その不吉な前進から遠ざかる速度は、恐ろしく遅かった。

北西へ目をやると、船団の大きな三日月はすでに、迫る恐怖に身をよじっていた。一隻が別の船の後ろを横切り、別の一隻は横腹から船首をこちらへ向けるように旋回し、汽船は汽笛を鳴らして大量の蒸気を吐き、帆は広げられ、小艇があちらこちらへ走っていた。弟はその光景と、左手から忍び寄る危険に心を奪われ、沖の方へ目を向ける余裕がなかった。そのとき汽船が急に動き――衝突されるのを避けて急旋回したのだ――弟は立っていた座席から前のめりに投げ出された。周囲で叫びと足音が起こり、歓声が上がった。遠くからかすかに応じる歓声も聞こえたようだった。汽船が傾き、弟は転がって両手をついた。

飛び起きると右舷に、揺れ、縦にあおられる汽船から百ヤードも離れていないところに、犂の刃のような巨大な鉄の塊が、水を切り裂いていた。両側へはね上げた巨大な泡の波が汽船へ押し寄せ、外輪をむなしく空中へ投げ上げ、次いで甲板をほとんど水面まで引き下ろした。

飛沫を浴び、弟は一瞬目が見えなくなった。視界が戻ると、巨体はすでに通り過ぎ、陸へ突進していた。疾走する船体の上には大きな鉄の上部構造が立ち、そこから二本の煙突が突き出して、火の混じる煙を吐いていた。魚雷衝角艦、サンダーチャイルドだった。脅かされた船団を救うため、全速で突進していたのだ。

弟は舷側をつかんで揺れる甲板に踏みとどまり、突進する巨艦の向こうに、もう一度火星人を見た。三体は今や互いに近づき、トライポッドの脚がほとんど水没するほど沖に立っていた。そこまで沈み、しかも遠方に見えると、その威容は、汽船を航跡で翻弄する巨大な鉄の船体より、はるかに小さく思えた。火星人たちは、この新しい敵を驚いて見ていたらしい。彼らの知性には、この巨体も自分たちと同じものに見えたのかもしれない。サンダーチャイルドは一発も砲を撃たず、ただ全速で向かっていった。あれほど近づけたのは、おそらく発砲しなかったためだろう。敵はその正体を決めかねていた。一発でも撃てば、ただちに熱線で海底へ沈められたはずだ。

艦の速度はすさまじく、一分後には汽船と火星人の中間まで達したように見えた。遠ざかるエセックス海岸の水平な広がりを背景に、黒い塊が小さくなっていった。

突然、先頭の火星人が筒を下ろし、黒い気体の缶を装甲艦へ撃った。缶は左舷に当たってはね、墨色の噴流となって沖へ転がっていった。黒い煙の奔流が広がったが、装甲艦はそれを突き抜けた。水面に近い汽船から、太陽に目を射られながら見守る人々には、艦はもう火星人のあいだへ入ったように見えた。

痩せた巨体が散り、岸へ退きながら水中から高く浮き上がるのが見えた。一体が、カメラのような熱線発生器を掲げた。斜め下へ向けると、触れた水面から蒸気の壁が立ち上がった。艦側の鉄板など、白熱した鉄棒が紙を貫くように通り抜けたに違いない。

立ちのぼる蒸気の中で炎がひらめき、それから火星人がぐらりとよろめいた。次の瞬間、打ち倒され、大量の水と蒸気が空高く噴き上がった。その靄の中でサンダーチャイルドの砲が次々に轟いた。一発は汽船のすぐそばの水を高くはね上げ、北へ逃げる船々の方へ跳弾し、一隻の漁船を薪のように粉砕した。

だが、それを気にする者はほとんどいなかった。火星人が倒れるのを見て、船橋の船長は言葉にならない叫びをあげ、汽船の船尾に群がる乗客全員が一斉に叫んだ。そして、また歓声をあげた。白い混沌の向こうから、長く黒いものが勢いよく突き出してきたからだ。中央部から炎をなびかせ、通風筒と煙突から火を噴いていた。

まだ生きていた。操舵装置は無事で、機関も動いていたらしい。第二の火星人へまっすぐ向かい、百ヤード以内に迫ったところで熱線を浴びた。激しい衝撃音と、目もくらむ閃光。甲板と煙突が跳ね上がった。火星人は爆発の勢いによろめき、次の瞬間、なお前進の勢いを残した燃える残骸が衝突し、その巨体を厚紙細工のようにひしゃげさせた。弟は思わず叫んだ。煮え立つような蒸気の混沌が、またすべてを隠した。

「二体だ!」と船長が叫んだ。

誰もが叫んでいた。汽船は端から端まで狂喜の歓声に満たされ、それは沖へ逃れる無数の船や小舟に、一隻からまた一隻へ、ついにはすべてへと伝わった。

蒸気は何分ものあいだ水上に漂い、第三の火星人も海岸もすっかり隠していた。そのあいだも汽船は着実に外輪を回し、戦場から離れ、沖へ向かった。ようやく混沌が晴れたときには、漂う黒い蒸気の塊が間に入り、サンダーチャイルドの姿はまったく見分けられず、第三の火星人も見えなかった。だが沖の装甲艦は今やかなり近づき、汽船の脇を過ぎて岸へ向かっていた。

小さな汽船は沖への航行を続け、装甲艦はゆっくり海岸の方へ遠ざかった。海岸はなお、蒸気と黒い気体が異様に渦巻いて混じる、大理石模様のような雲に隠されていた。避難民の船団は北東へ散り、何隻かの漁船が装甲艦と汽船のあいだを帆走していた。しばらくして軍艦は、沈みつつある雲の壁に達する前に北へ針路を変え、さらに不意に転じて南へ向かい、濃くなる夕靄へ入っていった。海岸はかすみ、やがて沈む太陽のまわりに集まる低い雲の中で、見分けがつかなくなった。

そのとき突然、夕日の金色の霞から砲声の震動が伝わり、黒い影が動くのが見えた。誰もが汽船の手すりへ押し寄せ、まばゆい炉のような西をのぞいたが、はっきりしたものは何も見えなかった。煙の塊が斜めに立ちのぼり、太陽の面を遮った。汽船は、果てしない気がかりを乗せ、鼓動しながら進んだ。

太陽は灰色の雲に沈み、空は赤く染まってから暗くなり、宵の明星が震える光を現した。黄昏がすっかり深まったとき、船長が叫んで指さした。弟は目を凝らした。灰色の中から何かが空へ駆け上がった――斜めに、非常な速さで、西空の雲の上の明るく澄んだ場所へ駆け上がった。平たく幅広く、ひどく大きな何かが、巨大な弧を描いて旋回し、小さくなり、ゆっくり下がって、また夜の灰色の謎の中へ消えた。そして飛ぶにつれ、大地へ闇を降らせた。

第二部 火星人支配下の地球

第一章 足下にて

第一部では、弟の体験を語るために私自身の冒険からずいぶん離れてしまった。そのため最後の二章を通して、私と司祭は、黒い煙を逃れて飛び込んだハリフォードの空き家に、ずっと潜んだままだった。そこから話を再開しよう。私たちは日曜の夜から翌日いっぱい――あの大恐慌の日じゅう――そこにとどまっていた。黒い煙で世界のほかの部分から切り離された、小さな日の当たる島だった。疲れ果てるような二日間、何もできず、つらい無為の中で待つしかなかった。

私の心を占めていたのは、妻への不安だった。レザヘッドで怯え、危険にさらされ、もう私を死んだものと思って嘆いている妻を想像した。妻と隔てられていること、私のいないあいだに起こりうるあらゆることを考えると、部屋を歩きまわり、声をあげて叫んだ。従兄には、どんな非常事態にも耐える勇気があるとわかっていた。だが危険を素早く察知し、すぐ行動に移る人間ではなかった。今必要なのは勇気ではなく、用心深さだった。唯一の慰めは、火星人がロンドンへ向かい、妻からは遠ざかっていると信じることだった。こうした漠然とした不安は、神経をいつまでもむき出しにして痛ませる。司祭の絶え間ない叫びには、ひどく疲れ、苛立った。その身勝手な絶望を見るのにも飽き果てた。何度か諭しても無駄だったので、私は彼を避け、地球儀や長椅子、習字帳のある部屋――明らかに子供の勉強部屋だった――にこもった。そこまでついて来ると、家の最上階の物置へ行き、痛む苦悩と二人きりになるため、内側から鍵をかけた。

その日いっぱいと翌朝、私たちは黒い煙に、絶望的に囲まれていた。日曜の夕方、隣家には人の気配があった。窓に顔が見え、明かりが動き、のちには戸を閉める音がした。だがそれが誰で、どうなったのか、私は知らない。翌日には何も見えなかった。月曜の午前じゅう、黒い煙はゆっくり川へ流れ、少しずつこちらへ近づき、ついには私たちの隠れる家の前の道を這っていった。

正午ごろ、火星人が野を横切って来て、過熱蒸気の噴流でそれを沈めた。蒸気は壁にしゅうしゅうと当たり、触れた窓をすべて砕き、表の部屋から逃げ出す司祭の手を焼いた。ようやく水浸しの部屋を這い、再び外を見ると、北の土地は黒い吹雪が通り過ぎたようだった。川の方を見ると、焼けた牧草地の黒さに、わけのわからない赤い色が混じっているのが見え、驚いた。

しばらくは、黒い煙への恐れがなくなったこと以外に、この変化が私たちの境遇へ何をもたらすのかわからなかった。だがやがて、もう閉じ込められていない、今なら逃げられると気づいた。逃げ道が開けたと悟るや、行動への思いが戻ってきた。だが司祭は無気力で、話が通じなかった。

「ここなら安全です」と繰り返した。「ここなら安全です。」

私は置いていくと決めた――ああ、本当にそうしていれば! 砲兵の教えで少し賢くなっていた私は、食べ物と飲み物を探した。火傷に使う油と布切れはすでに見つけていた。さらに寝室の一つで見つけた帽子とフランネルのシャツも持った。私が一人で行くつもりであり――一人で行く覚悟を固めたのだと――はっきりわかると、司祭は突然気を取り直し、ついて来ることにした。午後じゅう静かだったので、おそらく五時ごろ、私たちは黒くなった道をサンベリーへ向かって出発した。

サンベリーにも、道の途中のところどころにも、人や馬の死体がねじれた姿勢で横たわり、横転した荷車や荷物とともに、厚く黒い粉をかぶっていた。その灰のような粉の覆いを見て、私はポンペイの滅亡について読んだことを思い出した。奇怪で見慣れない光景で頭をいっぱいにしながらも、無事ハンプトン・コートへ着いた。そこでは、窒息をもたらす漂流物を免れた緑の一角が、目を慰めてくれた。ブッシー・パークを通ると、栗の木の下を鹿が行き来し、遠くで何人かの男女がハンプトンへ急いでいた。そしてトウィッケナムに着いた。この人々が、私たちの見た最初の人間だった。

道の向こう遠く、ハムとピーターシャムの先の森は、まだ燃えていた。トウィッケナムは熱線にも黒い煙にも傷つけられておらず、人の姿も多かったが、知らせを持つ者はいなかった。大半は私たちと同じく、小康状態を利用して居場所を移していた。ここでは多くの家に、怖さのあまり逃げることさえできない住民が、まだとどまっていたように思う。ここでも道沿いには、慌ただしい敗走の跡が豊富にあった。とりわけ鮮明に覚えているのは、三台の自転車が一山になって砕け、あとから来た荷車の車輪で路面へ叩き込まれていたことだ。八時半ごろ、リッチモンド橋を渡った。もちろん、身を隠せない橋は急いで渡ったが、そのとき赤い塊がいくつも流れていくのに気づいた。幅が何フィートもあるものもあった。何なのかわからず――よく見る暇もなかった――私は実際より恐ろしいものだと解釈した。サリー側には、ここにも、かつて煙だった黒い粉と死体があった。駅への入口近くには、死体が山になっていた。だが火星人を見かけたのは、バーンズへかなり進んでからだった。

黒くなった遠景に、三人の人間が脇道を川へ走っていくのが見えた。ほかには誰もいないようだった。丘の上ではリッチモンドの町が盛んに燃えていた。リッチモンドの町の外には、黒い煙の痕跡はなかった。

キューへ近づいたとき、突然、何人もの人が走ってきた。火星人の戦闘機械の上部が屋根々々の上に現れた。百ヤードも離れていなかった。私たちは危険に愕然として立ちすくんだ。火星人が下を見れば、その場で死んでいたはずだ。あまりの恐怖に進めず、道をそれて庭の小屋に隠れた。そこで司祭はうずくまり、声もなく泣いて、二度と動こうとしなかった。

だがレザヘッドへ行くという執念は、私を休ませなかった。薄暮の中、もう一度外へ出た。低木の茂みを抜け、広い敷地に立つ大きな家の脇の通路を通り、キューへ向かう道へ出た。司祭は小屋に残したが、急いで追ってきた。

この二度目の出発は、私のしたことの中で最も無謀だった。周囲に火星人がいるのは明らかだったからだ。司祭が追いつくや、牧草地のはるか向こう、キュー・ロッジの方に、先ほどの戦闘機械か、別の一機が見えた。その前方、灰緑色の野を、四つか五つの小さな黒い人影が急いでいた。すぐに、火星人がそれを追っているのだとわかった。三歩で人々の中へ入り、彼らは脚の下から放射状に逃げ散った。火星人は熱線で殺さず、一人ずつ拾い上げた。そして、職人が肩にかける籠のように背後へ張り出した大きな金属製の収容器へ、放り込んでいるらしかった。

そのとき初めて私は、火星人が敗れた人類に対し、破壊以外の目的を持っているかもしれないと悟った。私たちは一瞬、石のように立ち尽くし、それから振り返って、背後の門から塀に囲まれた庭へ逃げ込んだ。幸いな溝を見つけたというより、そこへ転がり落ち、星が出るまで、ささやき合うことすらためらいながら横たわった。

再び出発する勇気が出たのは、十一時近くだったと思う。もう道には出ず、生垣に沿い、植林を抜けて忍び歩いた。司祭は右、私は左の闇に目を凝らし、周囲のどこにでもいるような火星人を警戒した。ある場所で、焼け焦げて黒くなり、今は冷えて灰に覆われた一帯へ踏み込んだ。頭と胴は恐ろしく焼けているのに、脚と長靴はほとんど無傷の人間の死体がいくつも散らばり、馬の死骸もあった。裂けた四門の砲と壊れた砲架の列から、おそらく五十フィートほど後方だった。

シーンは破壊を免れたらしかったが、ひっそりして無人だった。ここでは死者には行き当たらなかった。ただ、夜が暗すぎて横道までは見通せなかった。シーンで連れが突然、気が遠くなる、喉が渇くと言い出したので、どこかの家を探ることにした。

窓に少し手こずって入った最初の家は、小さな二戸一棟の住宅だった。食べられるものは、黴の生えたチーズしか残っていなかった。ただし飲み水はあった。私はまた、次に家へ入るとき役立ちそうな手斧を持ち出した。

それから道がモートレイクへ曲がる場所へ渡った。塀で囲まれた庭の中に白い家があり、その食料庫で食べ物を見つけた。鍋に入ったパンが二本、生のステーキ肉、ハム半個。これほど正確に列挙するのは、思いがけず、この蓄えで次の二週間を生きねばならなくなったからだ。棚の下には瓶ビールが並び、白インゲン豆が二袋と、しおれたレタスもあった。食料庫は洗い場のような台所へ通じ、そこには薪があった。戸棚もあり、ブルゴーニュ酒がほぼ一ダース、スープと鮭の缶詰、ビスケットの缶が二つ入っていた。

私たちは隣の台所で、暗闇のまま――明かりをつける勇気はなかった――パンとハムを食べ、一本の瓶から交代にビールを飲んだ。司祭は相変わらず怯え、落ち着かなかったが、奇妙にも今度は先を急ごうと言った。私は、食べて体力を保てと勧めていた。そのとき、私たちを閉じ込める出来事が起きた。

「まだ真夜中にはなっていないはずだ」と私が言うと、鮮やかな緑色の光が目をくらませた。台所のすべてが、緑と黒にはっきり浮かび上がり、また消えた。それから、前にもあとにも聞いたことのないような衝撃音が響いた。ほとんど同時と思えるほどすぐに、背後で鈍い音がし、ガラスが砕け、周囲で石や煉瓦が崩れ落ちて轟き、天井の漆喰が降り注ぎ、私たちの頭で無数の破片に砕けた。私は床を頭から滑るように飛ばされ、オーブンの取っ手にぶつかって意識を失った。司祭によると、長いあいだ気を失っていたという。気づくとまた暗闇で、司祭が私に水をつけていた。その顔は濡れていたが、のちにわかったところでは、額の傷から流れた血だった。

しばらく何があったのか思い出せなかった。やがて少しずつ記憶が戻った。こめかみの打撲が痛みを主張し始めた。

「少しよくなりましたか?」と司祭がささやいた。

ようやく私は答え、身を起こした。

「動かないで」と司祭は言った。「食器棚から落ちた皿で床がいっぱいです。音を立てずには動けません。それに、奴らが外にいるようです。」

二人はまったく黙って座り、互いの息さえほとんど聞こえなかった。何もかも死んだように静かだったが、一度近くで、漆喰か崩れた煉瓦か、何かがごろごろと滑り落ちた。外のごく近いところでは、金属のがたつく音が断続的にしていた。

「ほら!」と、しばらくしてまた音がすると、司祭が言った。

「ああ」と私は言った。「だが何だろう?」

「火星人です!」と司祭は言った。

私はまた耳を澄ました。

「熱線とは違った」と私は言った。そしてしばらく、あの巨大な戦闘機械が、シェッパートン教会の塔にぶつかったときのように、この家につまずいたのではないかと考えた。

境遇があまりに異様で理解できず、夜明けまでの三、四時間、私たちはほとんど動かなかった。やがて光が差し込んだ。黒いままの窓からではなく、背後の壁で、梁と崩れた煉瓦の山のあいだにできた、三角形の穴からだった。私たちは初めて、灰色に浮かぶ台所の内部を見た。

庭の土が塊となって窓を破り、私たちの腰かけていたテーブルを越えて流れ、足元に積もっていた。外では土が家に高く寄せられていた。窓枠の上部には、掘り起こされた排水管が見えた。床には壊れた金物が散乱していた。台所の母屋側の端は破れ、そこから日が差すので、家の大半が崩れたのは明らかだった。この破壊と鮮やかな対照をなしていたのは、流行の淡緑色に塗られた整った食器棚、その下の銅や錫の器、青白いタイルを模した壁紙、そして台所レンジの上の壁でひらひらする二枚の色刷り付録だった。

夜明けが明るくなるにつれ、壁の裂け目から、まだ赤熱する円筒を見張っているらしい火星人の機体が見えた。それを見ると、私たちはできるだけ慎重に、薄明るい台所から暗い洗い場へ這っていった。

突然、正しい説明が頭にひらめいた。

「第五の円筒だ」と私はささやいた。「火星からの第五弾がこの家に落ちて、私たちを瓦礫の下に埋めたんだ!」

司祭はしばらく黙っていた。それからささやいた。

「神よ、われらをお憐れみください!」

やがて、すすり泣くのが聞こえた。

その音以外、私たちは洗い場でじっとしていた。私は息をするのも怖く、台所の戸口の薄明かりを見つめて座っていた。司祭の顔は、ぼんやりした楕円として、襟と袖口とともにかろうじて見えた。外で金属を打つ音が始まり、激しい咆哮が続き、しばらく静まったあと、機関のようなしゅうしゅうという音がした。何の音かわからないものが大半だったが、それらは断続的に続き、時間がたつほど種類が増すようだった。やがて一定の拍子の打撃音と振動が始まり、あたりのすべてを震わせ、食料庫の器を鳴らし、動かし続けた。一度光が遮られ、幽霊のような台所の戸口が完全に暗くなった。何時間もそこにしゃがみ、黙って震え、ついには疲れた注意力が途切れたのだろう……。

やがて目を覚ますと、ひどく空腹だった。そこまでに一日の大半が過ぎていたのではないかと思う。空腹はいきなり強烈になり、私を動かした。食べ物を探すと司祭に告げ、食料庫へ手探りで進んだ。返事はなかった。だが食べ始めると、そのかすかな音に刺激され、司祭があとから這ってくるのが聞こえた。

第二章 崩れた家から見たもの

食べ終えると洗い場へ戻った。そこで私はまた居眠りしたらしい。やがて見まわすと、一人だったからだ。打撃と振動は、うんざりするほど執拗に続いていた。何度かささやき声で司祭を呼び、ついには台所の戸口へ手探りで進んだ。まだ昼で、向こう側に、火星人を見渡せる三角形の穴に伏せる司祭が見えた。肩をすぼめていたので、頭は見えなかった。

機関車庫にいるような、いくつもの音が聞こえ、その場所は打撃のたびに揺れた。壁の穴からは、金色の光を受けた木の梢と、穏やかな夕空の暖かい青が見えた。一分ほど司祭を眺めてから、腰をかがめ、床に散った食器の破片のあいだを、細心の注意を払って進んだ。

司祭の脚に触れると、ひどく驚いて身を動かしたため、外で漆喰の塊が滑り、大きな音を立てて落ちた。叫びはしないかと恐れ、私はその腕をつかんだ。二人は長いあいだ動かずにしゃがんだ。それから私は、どれだけ遮蔽物が残っているか確かめるため振り向いた。漆喰が落ちたことで、瓦礫に縦の隙間ができていた。梁越しに慎重に身を起こすと、昨夜までは静かな郊外の道だった場所が、その隙間から見えた。目にした変化は、実に凄まじかった。

第五の円筒は、私たちが最初に入った家の真ん中へ落ちたに違いなかった。建物は消え失せていた。衝撃で完全に砕かれ、粉になり、吹き散らされていた。円筒は今、もとの基礎よりはるか下に横たわっていた。深い穴で、すでにウォーキングでのぞいた穴よりずっと大きかった。周囲の土は、そのすさまじい衝撃で飛び散り――「飛び散った」としか言いようがない――山積みになって近隣の家々を隠していた。金槌で強打された泥と、まったく同じ挙動を示したのだ。私たちの家は後ろへ倒れていた。前の部分は一階まですっかり破壊され、たまたま台所と洗い場だけが助かり、土と瓦礫の下に埋まっていた。円筒に向いた側を除く四方を、何トンもの土が塞いでいた。その開いた側で、私たちは火星人の掘り広げる大きな円形の穴の、まさに縁にかかっていた。重い打撃音は明らかにすぐ背後からし、ときおり鮮やかな緑色の蒸気が、薄衣のようにのぞき穴の前を吹き上がった。

円筒は穴の中央ですでに開いていた。向こうの縁では、砕かれて砂利をかぶった低木のあいだに、巨大な戦闘機械が一機、乗員に離れられ、夕空を背に高く硬直して立っていた。説明の都合で穴と円筒を先に記したが、最初の私は、そのどちらにもほとんど注意を払わなかった。穴の中で忙しく働く異様にきらめく機械と、その近くの積まれた土の上を、ゆっくり苦しげに這う奇怪な生き物に目を奪われたからだ。

最初に注意を引かれたのは、確かに機械の方だった。それはのちに作業機械と呼ばれるようになった、あの複雑な構造物の一つだった。その研究はすでに地球の発明に、計り知れない刺激を与えている。初めて姿を認めたときには、五本の関節のある敏捷な脚を持つ金属の蜘蛛のようで、胴のまわりには、関節付きの梃子や棒、伸びてつかむ触手が、異様なほど多数ついていた。腕の大半は引っ込んでいたが、三本の長い触手で、円筒の外皮の内側に並び、壁を補強しているらしい竿や板や棒を、次々と取り出していた。それらは抜き取られると持ち上げられ、背後の平らな土の上へ置かれた。

その動きはあまりに速く、複雑で完璧だったので、金属の輝きにもかかわらず、最初は機械と思わなかった。戦闘機械も驚くほど統一の取れた、生き物めいた動きをしたが、これとは比較にならなかった。この構造物を見たことがなく、画家の貧しい想像による絵や、私のような目撃者の不完全な記述しか知らない人には、その生きているような性質は、ほとんどわからないだろう。

戦争の経過を初めて一続きに記した冊子の一つに載っていた挿絵を、とりわけ覚えている。画家は明らかに戦闘機械を一機、急いで観察しただけで、それ以上の知識がなかった。描かれたものは、斜めに傾いた硬い三脚で、柔軟さも精妙さもなく、ひどく誤解を招く単調さだった。その絵を載せた冊子はかなり流行した。ここで触れるのは、読者がそこから受けたかもしれない印象に警告するためにすぎない。あの絵が、私の見た活動中の火星人に似ている程度は、木の関節人形が人間に似ている程度でしかなかった。私には、挿絵がない方が、あの冊子はずっとよかったと思える。

繰り返すが、初め作業機械は機械ではなく、光る外皮を持つ蟹のような生物に見えた。繊細な触手で動きを操る火星人は、ただ蟹の脳にあたる部分のように思えた。だがやがて、その灰褐色の光る革のような皮が、向こうに這いつくばるほかの身体と似ているのに気づき、この器用な働き手の正体がわかった。すると関心は、ほかの生き物、本当の火星人へ移った。以前、一瞬その姿を見たことがあったので、初見の吐き気に観察を妨げられることは、もうなかった。しかも私は隠れて静止し、急いで行動する必要もなかった。

今やはっきりわかった。彼らは想像しうるかぎり、地上のものとはかけ離れた生き物だった。直径四フィートほどの、巨大な丸い胴――いや、むしろ頭――で、それぞれ前面に顔があった。鼻孔はなく、実際、嗅覚そのものがなかったらしい。だが暗い色の非常に大きな目が一対あり、そのすぐ下に肉質の嘴めいたものがあった。この頭とも胴とも呼びかねるものの背面には、一枚の張った鼓膜状の面があり、のちに解剖学的に耳だとわかった。もっとも地球の濃い空気の中では、ほとんど役に立たなかったはずだ。口のまわりには細い、ほとんど鞭のような触手が十六本あり、八本ずつ二束に分かれていた。この束はのちに、著名な解剖学者ハウス教授によって、まことに適切にも手と名づけられた。初めて火星人を見たときにも、この手で身を起こそうとしていたようだった。だが地球では体重が増すため、もちろん無理だった。火星ではそれを使い、かなり楽に移動していたと考える理由がある。

ここで付け加えると、のちの解剖で明らかになった内部構造も、ほぼ同じくらい単純だった。身体の大半は脳で、そこから目、耳、触覚を持つ触手へ、太い神経が伸びていた。そのほかには、口から直接通じる大きな肺と、心臓および血管があった。濃い大気と強い重力による呼吸の苦しさは、外皮の痙攣する動きに、あまりにも明らかだった。

火星人の器官は、それで全部だった。人間には奇妙に思えるだろうが、われわれの身体の大半を占める、複雑な消化の仕組みが、火星人にはなかった。頭だった――ただの頭だった。はらわたはなかった。食べることも、まして消化することもなかった。代わりに、ほかの生き物の新鮮な生き血を取り、自分の血管へ注入した。その行為を私は実際に見ている。いずれその場面で述べよう。だが気が弱いと思われようとも、見続けることすら耐えられなかったものを、詳しく描写する気にはなれない。まだ生きた動物――大半は人間――から得た血を、小さなピペットで、受け手の管へ直接流し込んだ、と言うだけで十分だろう……。

その考えだけでも、われわれには恐ろしく忌まわしい。だが同時に、知性ある兎の目に、われわれの肉食の習慣がどれほど忌まわしく映るか、思い起こすべきだとも思う。

食事と消化に人間が費やす、膨大な時間と精力の浪費を考えれば、注入という方法の生理的な利点は否定できない。われわれの身体は半分までが、さまざまな食物を血へ変える腺や管や臓器でできている。消化の過程と、それが神経系へ及ぼす作用は、力を奪い、心を色づける。肝臓や胃腺が健やかか否かによって、人は幸福にも不幸にもなる。だが火星人は、こうした身体に由来する気分や感情の変動を、すべて超えていた。

栄養源として人間を明らかに好んだことは、火星から食料として連れて来た犠牲者の遺骸の性質によって、ある程度説明できる。人間の手に渡った干からびた遺骸から判断すると、それらは二足歩行の生物で、薄く脆い珪質の骨格――珪質海綿の骨格に近いもの――と弱い筋肉を持っていた。身長は約六フィートで、丸い頭がまっすぐ立ち、石英質の眼窩に大きな目があった。円筒ごとに二体か三体連れて来られたらしく、地球に着く前にすべて殺されていた。それはむしろ幸いだった。地球で立とうとするだけで、全身の骨が折れたはずだからだ。

この説明をしているついでに、いくつか細部を加えておこう。そのすべてが当時私たちに明らかだったわけではないが、知らない読者には、この忌まわしい生き物を、もっとはっきり思い描く助けになるだろう。

彼らの生理は、さらに三つの点で、われわれと奇妙なほど違っていた。人間の心臓が眠らないように、彼らの身体も眠らなかった。回復を要する大きな筋肉組織がないため、定期的に意識を消すことを知らなかった。疲労感も、ほとんど、あるいはまったくなかったらしい。地球では動くたびに骨が折れたはずなのに、最後まで活動し続けた。二十四時間のうち二十四時間働いた。地球でも、おそらく蟻がそうであるように。

次に、性のある世界では驚くべきことだが、火星人には性別がまったくなかった。したがって人間のあいだで性差から生じる、あの激しい感情もなかった。戦争中、地球で火星人の子が一体生まれたことは、今や疑いようがない。親に付着し、ユリの若い球根や淡水ポリプの子と同じく、部分的に出芽した状態で発見されたのである。

人間や地球のすべての高等動物では、この増殖方法は失われている。だがこの地球でも、それが原始的な方法だったことは確かだ。下等動物から、脊椎動物の近縁にあたる被嚢類に至るまで、二つの方法は併存している。だが最後には、有性生殖が競争相手を完全に押しのけた。火星では、どうやらまったく逆のことが起きたらしい。

火星人の侵略よりはるか以前、科学者に準ずる評判を持つ、ある空想的な著述家が、人間の最終的な構造として、実際の火星人にかなり近い姿を予言していたのは、注目に値する。覚えているかぎり、その予言は一八九三年の十一月か十二月、とうに廃刊となったポール・モール・バジェットに掲載された。侵略前のパンチ誌に、その戯画が載ったことも覚えている。彼は――くだらない冗談めいた調子で――機械装置の完成がついには手足に取って代わり、化学装置の完成が消化に取って代わると論じた。毛髪、外鼻、歯、耳、顎などの器官は、もはや人間に不可欠ではなく、自然選択は、来たる時代を通じて、それらを着実に縮小する方向へ進むという。絶対に必要なものとして残るのは脳だけだった。ほかに生存を強く主張できる身体の部分は、ただ一つ、手だった。「脳の教師にして実行者」である手だ。

身体のほかの部分が縮むにつれ、手は大きくなるだろう、と。

冗談の中には真実が多い。そして火星人には、知性が生体の動物的な側面を抑圧した、その実現を疑いなく見ることができる。火星人は、われわれとさほど違わない生物から、身体のほかの部分を犠牲に、脳と手を徐々に発達させてきたのかもしれない。手は最後には、繊細な触手の二束になった。私には十分信じられることだ。身体がなければ、脳はもちろん、人間の感情的な土台を持たぬ、ただ利己的な知性になるだろう。

彼らの身体の仕組みとわれわれとの、最後の顕著な違いは、一見ごく些細に思える点にあった。地球にあれほど多くの病と苦痛をもたらす微生物は、火星には初めから存在しなかったのか、あるいははるか昔、火星の衛生科学が根絶したのか、そのどちらかだった。無数の病、あらゆる熱病や伝染病、肺結核、癌、腫瘍、そのほか人間の病苦は、彼らの生活にまったく入り込まない。そして火星の生命と地球の生命の違いを語るなら、赤い草が示す奇妙な事実にも、ここで触れておこう。

火星の植物界は、緑ではなく、鮮烈な血の赤を基調としているらしい。少なくとも、火星人が意図的に、あるいは偶然持ってきた種子は、どれも赤い植物を生じた。ただ、地球の植物との競争で足場を得たのは、俗に赤い草と呼ばれるものだけだった。赤い蔓草はごく一時的なもので、生えているのを見た人は少ない。だが赤い草は、一時は驚くほど旺盛に繁茂した。閉じ込められて三日目か四日目には、穴の斜面を覆い始め、サボテンのような枝が、私たちの三角形の窓に深紅の縁取りをつくった。のちに私は、それが国じゅう、とくに水の流れのあるところならどこにでも、広がっているのを見た。

火星人には、頭とも胴ともつかないものの後ろに、丸い一枚の鼓膜という聴覚器官らしきものがあり、目の可視範囲も、われわれと大きくは違わなかった。ただしフィリップスによれば、青と紫は彼らには黒く見えたという。一般には、声と触手の身振りで意思を伝えたと考えられている。たとえば、先に触れた、よくできてはいるが急いで編まれた冊子も、そう断定している。火星人の行動を目撃していない人物が書いたのは明らかだが、これまでのところ、彼らについての主要な情報源となっている。さて、生き残った人間の中で、私ほど火星人の行動を見た者はいない。偶然を自分の手柄にするつもりはないが、事実はそうだ。そして私は断言する。何度も注意深く観察したが、四体、五体、そして一度は六体が、声も身振りもなく、ひどく複雑な作業をゆっくり協同して行うのを見た。特有の咆哮は、必ず摂食に先立っていた。抑揚がなく、私には、いかなる意味でも信号ではなく、吸引に備えて空気を吐き出すだけのものと思われる。私は心理学について、少なくとも基礎的知識を持つと言ってよい立場にある。そしてこの点では、火星人が物理的な仲介なしに思考を交換していたと、どんなことについてもこれ以上ないほど固く確信している。しかもこれは、強い先入観に逆らって得た確信だ。覚えている読者もあるかもしれないが、侵略前の私は、テレパシー説にかなり激しく反対する文章を書いていた。

火星人は衣服を着なかった。装飾や礼節についての考え方は、当然われわれと違っていた。気温の変化への感覚も、明らかにわれわれよりはるかに鈍く、気圧の変化も、健康に深刻な影響を与えなかったらしい。だが衣服こそ着なかったものの、身体の力を補う別の人工物にこそ、人間に対する圧倒的な優位があった。自転車や路上スケート、リリエンタール式滑空機、銃や杖などを使うわれわれは、火星人が完成させた進化の、まだ入口にいるにすぎない。彼らは事実上、脳だけとなり、必要に応じて違う身体をまとっていた。人間が服を着替え、急ぐときは自転車に乗り、雨なら傘を差すように。そして彼らの装置について、人間にとって最も驚くべき事実は、ほぼあらゆる人間の機械に支配的に見られるものが、そこにないことかもしれない。車輪がないのだ。地球へ持ち込んだすべてのものに、車輪を用いた形跡も、その気配すらもない。少なくとも移動には使いそうなものだ。これに関連して興味深いのは、この地球でも、自然は車輪を思いつかなかったか、あるいはその発達より別の方法を選んだということだ。しかも火星人は、車輪を知らなかったか――それは信じがたい――使わなかったばかりでなく、固定された、または比較的固定された軸を中心に、一平面内で回転する仕組みも、ほとんど使っていない。機械の関節の大半は、小さいが美しく湾曲した滑り軸受の上を動く、複雑な摺動部品の組合せだった。さらに細部を言えば、機械の長い梃子の大半が、弾性の鞘に収めた円盤からなる、一種の人工筋肉で動くことも注目に値する。その円盤は電流を通すと分極し、強く密着して引き寄せ合う。こうして、人間の観察者にあれほど鮮烈で不気味な印象を与えた、動物の動きとの奇妙な類似が生まれた。最初に隙間からのぞいたとき、円筒の荷を下ろしていた蟹のような作業機械には、そうした擬似筋肉が無数にあった。その向こう、夕日の中に横たわり、息をあえがせ、役に立たない触手を動かし、宇宙を越える大旅行のあとで弱々しく身じろぐ本物の火星人より、はるかに生き生きして見えた。

日光の中の鈍い動きを見つめ、奇怪な形の細部を一つ一つ確かめていると、司祭が腕を強く引き、自分の存在を思い出させた。振り返ると、不機嫌な顔と、無言ながら雄弁な唇があった。一人しかのぞけない隙間を欲しがっていた。そこで私は、しばらく観察をやめ、その特権を譲らねばならなかった。

次に見ると、忙しく働く作業機械は、円筒から取り出した装置の部品をいくつも組み、まぎれもなく自分に似た形をすでにつくり上げていた。左下には、小さな掘削機械が現れ、緑の蒸気を噴きながら、穴の周囲を忙しく動き、秩序正しく場所を選んで土を掘り、盛り上げていた。一定の打撃音と、崩れた隠れ家を震わせ続けた周期的な衝撃は、これが原因だった。働くあいだ、笛や口笛のような音を出していた。見えるかぎりでは、操縦する火星人はまったくいなかった。

第三章 幽閉の日々

二機目の戦闘機械が来ると、私たちはのぞき穴を離れ、洗い場へ逃げた。その高さから、遮蔽物の背後を見下ろされるのを恐れたのだ。のちには視線をそれほど恐れなくなった。外のまばゆい日光に慣れた目には、隠れ家はただ真っ黒に見えたはずだからだ。だが初めは、わずかな接近の兆しでも、胸を激しく鳴らして洗い場へ退いた。それでも、のぞくことの魅力は、どれほど恐ろしい危険を冒していても、二人とも抗えなかった。今思えば不思議なのは、飢餓とそれ以上に恐ろしい死のあいだで、測り知れない危険に置かれながら、その恐ろしい見物の権利をめぐって、なお激しく争えたことだ。私たちは見たさと音を立てる恐れのあいだで、奇怪な競争をしながら台所を渡り、姿をさらすまでほんの数インチのところで、互いを殴り、押し、蹴った。

実際、私たちは気質も、考え方も、行動の習慣も、まったく相容れなかった。危険と孤立は、その不一致を強めるばかりだった。ハリフォードですでに私は、司祭の無力な叫びの癖と、愚かな頑迷さを嫌悪するようになっていた。果てしなくぶつぶつ続く独り言は、行動方針を考えようとする私の努力をことごとく台なしにした。閉じ込められ、苛立ちを増幅された私は、ときにはほとんど気が狂いそうになった。司祭には、愚かな女ほどの自制心もなかった。何時間も泣き続けた。この人生に甘やかされた子供は、最後まで、自分の弱い涙に何か効き目があると信じていたのだと、私は本気で思う。私は暗闇に座り、絶え間ない訴えのため、司祭を意識から追い払えなかった。食べる量も私より多かった。火星人が穴での用事を終えるまで家に潜むことが唯一の生存の機会であり、その長い忍耐の途中で、食料が切実になる時が来るかもしれないと説いても無駄だった。司祭は長い間隔を置き、衝動的に大量に食べ、飲んだ。眠りは少なかった。

日がたつにつれ、何事にもまったく配慮しない態度は、私たちの苦境と危険をますます増した。私は嫌でたまらなかったが、脅しに頼り、ついには殴らねばならなくなった。それでしばらくは理性を取り戻した。だが司祭は、誇りがなく、臆病で、血の気の薄い、憎むべき弱者だった。小ずるい策略に満ち、神にも人にも、さらには自分自身にも、正面から向き合わない人間だった。

こうしたことを思い出し、書くのは不愉快だ。だが私の物語に欠けるところがないよう、記しておく。人生の暗く恐ろしい面を免れてきた人々には、私の残忍さや、最後の悲劇で爆発した怒りを非難するのは、たやすいだろう。何が悪いかは人並みに知っていても、責めさいなまれた人間に何ができるのかは知らないのだから。だが暗い影の下に入り、ついには生の根源まで追い詰められた人々なら、もっと広い寛容を持つだろう。

そして内側で私たちが、暗く見通せない争いを、ささやき、食べ物や飲み物の奪い合い、つかみ合い、殴打で続けているあいだ、外では、あの恐ろしい六月の容赦ない日差しの中、穴にいる火星人の、奇怪な驚異ともいうべき、見慣れぬ日常が営まれていた。私の最初の新しい体験へ戻ろう。長い時間ののち、のぞき穴へ戻ると、到着した火星人たちには、実に三機もの戦闘機械の乗員が加わっていた。この後発の者たちは新しい装置をいくつか持ち込み、円筒のまわりへ整然と置いていた。二台目の作業機械は完成し、大きな機械が運んできた新装置の一つに、忙しく取りついていた。それは全体として牛乳缶に似た胴を持ち、その上で洋梨形の容器が揺れ、下の円い鉢へ白い粉が流れ出していた。

その揺れは、作業機械の触手の一本が与えていた。二本のへら状の手で粘土を掘り、上の洋梨形の容器へ投げ込み、別の腕は定期的に扉を開け、機械の中央部から錆色や黒色の焼けかすを取り出した。さらに鋼の触手が、鉢の粉を、筋のついた溝に沿って送り、青みがかった粉の山で私には見えない受け器へ導いていた。その隠れた受け器から、細い緑の煙が、静かな空気へまっすぐ昇っていた。見ていると、作業機械はかすかな音楽めいた金属音を立て、さっきまでは鈍い突起にすぎなかった触手を、望遠鏡のように伸ばし、その先端を粘土の山の向こうへ隠した。次の瞬間には、まだ曇りもなく白くまばゆいアルミニウムの棒を持ち上げ、穴の脇で増えつつある棒の山へ置いた。日没から星明かりになるまでに、この器用な機械は、生の粘土から百本以上の棒をつくったはずだ。青みがかった粉の山も着実に高まり、穴の縁を越えた。

装置の素早く複雑な動きと、主人たちの鈍重で、あえぐような不器用さの対照は、際立っていた。何日ものあいだ私は、生き物なのは後者なのだと、何度も自分に言い聞かせねばならなかった。

最初の人間たちが穴へ連れて来られたとき、隙間を占めていたのは司祭だった。私は下で身を縮め、全神経を耳に集めていた。司祭が突然後ろへ動き、私は見つかったのかと、恐怖に身をすくめた。司祭は瓦礫を滑り下り、暗闇の私のそばへ這ってきた。言葉にならない声を出し、身振りをしたので、私もしばらくその恐慌に巻き込まれた。仕草から、隙間を譲るつもりとわかった。少したつと好奇心が勇気を与え、私は立ち、司祭をまたいで、そこへよじ登った。初めは、なぜあれほど取り乱したのかわからなかった。黄昏となり、星は小さくかすかだったが、穴はアルミニウムをつくる揺らめく緑の火に照らされていた。景色全体が、緑の光と、動く錆びた黒い影のちらつく模様で、妙に目が疲れた。そのすべてを気にも留めず、蝙蝠が上を飛び、間を横切っていた。地面に這う火星人は見えなくなっていた。青緑の粉の山が高まり、隠していたのだ。戦闘機械が一機、脚を縮め、折りたたみ、低くなって、穴の一隅をまたいで立っていた。そのとき、機械の騒音の中に、人声らしきものが漂ってきた。初めはそう思い、すぐ打ち消した。

私はしゃがんだまま戦闘機械をじっと見つめ、覆いの中に本当に火星人がいるのだと、初めて確かめた。緑の炎が高まると、その外皮の油のような光沢と、目の輝きが見えた。突然叫びが聞こえ、長い触手が機械の肩越しに、背中にこぶのようについた小さな檻へ伸びた。それから何かが――激しくもがく何かが――空高く持ち上げられた。星明かりを背にした、黒く曖昧な謎だった。その黒いものが下ろされると、緑の光で人間だとわかった。一瞬、はっきり見えた。太って血色のよい、中年の男で、身なりもよかった。三日前なら、かなりの顔役として世を歩いていたはずだ。見開いた目と、シャツの飾りボタンや時計の鎖のきらめきが見えた。男は山の向こうへ消え、一瞬、静かになった。それから悲鳴が始まり、火星人の長く陽気な咆哮が響いた。

私は瓦礫を滑り下り、どうにか立ち、両手で耳を塞いで洗い場へ駆け込んだ。頭を腕で覆い、黙ってしゃがんでいた司祭は、私が通ると顔を上げ、置き去りにされると思ってかなり大きく叫び、あとを追ってきた。

その夜、洗い場に潜み、恐怖と、のぞくことの恐ろしい魅力のあいだで揺れながら、私は行動の切迫した必要を感じたが、脱出の策は何も思いつかなかった。だがその後、二日目には、自分たちの立場をきわめて明瞭に考えることができた。司祭には、話し合う能力がまったくなかった。この新たな、極限の残虐さが、理性も先を考える力も、残らず奪っていた。事実上、すでに動物の水準へ落ちていた。だが私は、いわば両手で自分をつかみ、踏みとどまった。事実に向き合えるようになると、恐ろしい境遇ではあっても、完全に絶望する理由はまだないと、次第に思えてきた。最大の望みは、火星人が穴を一時的な野営地にすぎないと考えている可能性だった。恒久的に使うとしても、警備の必要はないと判断し、逃げる機会が訪れるかもしれない。穴とは反対方向へ掘って脱出する可能性も、慎重に検討した。だが初めは、出たところが歩哨の戦闘機械の視界に入る危険が、大きすぎると思えた。しかも掘るのはすべて私一人だ。司祭は必ず役に立たないだろう。

記憶が正しければ、少年が殺されるのを見たのは三日目だった。火星人が食事をするところを、実際に見た唯一の機会だった。その体験のあと、ほぼ一日、壁の穴には近づかなかった。洗い場へ行き、扉を外し、数時間、できるだけ静かに手斧で土を掘った。だが二フィートほど掘ると、緩い土が音を立てて崩れ、続ける勇気がなくなった。気力を失い、洗い場の床に長いあいだ横たわり、動く元気すらなかった。それからは、掘って逃げる考えを完全に捨てた。

初め、火星人が人間の力で倒され、その結果私たちが助かるという望みを、ほとんど、あるいはまったく抱かなかった。このことだけでも、彼らが私に与えた印象の強さはわかるだろう。だが四日目か五日目の夜、重砲のような音を聞いた。

夜はずいぶん更け、月が明るく照っていた。火星人は掘削機械を運び去っていた。穴の向こう岸に立つ戦闘機械一機と、のぞき穴の真下の一隅に潜り、姿の見えない作業機械一台を除いて、誰もいなかった。作業機械の淡い光と、帯や斑になった白い月光のほかは暗く、作業機械の金属音のほかは静まり返っていた。美しく穏やかな夜だった。惑星が一つある以外、空は月だけのもののようだった。犬の遠吠えが聞こえ、その聞き慣れた音に、私は耳を澄ました。すると、まさに大砲のような轟きが、はっきり聞こえた。六発を明瞭に数え、長い間隔のあと、また六発。それきりだった。

第四章 司祭の死

閉じ込められて六日目、私はその日最後に外をのぞき、ふと一人になっているのに気づいた。司祭は私にぴったりつき、隙間から追いのけようとする代わりに、洗い場へ戻っていた。不意にある考えが浮かんだ。私は素早く静かに洗い場へ戻った。暗闇で、司祭が何かを飲む音がした。闇の中で手を伸ばして奪おうとすると、指がブルゴーニュ酒の瓶をつかんだ。

数分間、もみ合いになった。瓶が床に当たって割れ、私は手を引いて立った。二人はあえぎながら立ち、互いを脅した。最後に私は司祭と食料のあいだへ陣取り、これからは規則を守らせると宣言した。食料庫の食べ物を十日もつように配分した。その日はもう、それ以上食べさせなかった。午後、司祭は弱々しく食料へ近づこうとした。私はうとうとしていたが、一瞬で目が覚めた。一日じゅう、一晩じゅう、二人は向き合って座った。私は疲れていたが決意を変えず、司祭は泣き、今すぐの空腹を訴えた。一夜と一日だったとはわかっている。だが私には、果てしない時間に思えた――今もそう思える。

こうして広がった不一致は、ついにあからさまな衝突となった。途方もなく長い二日間、私たちは押し殺した声と言い争い、組み合いを続けた。狂ったように殴り、蹴ることもあれば、なだめ、説得することもあった。一度は最後のブルゴーニュ酒の瓶を餌に、言うことを聞かせようとした。雨水のポンプがあり、私は水を飲めたからだ。だが力も優しさも効かなかった。司祭は本当に、理屈の通じるところを越えていた。食料を狙うことも、騒がしい独り言もやめなかった。幽閉に耐えるための最低限の注意さえ守らなかった。私は徐々に、その知性が完全に崩れたことを悟った。この息苦しく不健康な暗闇で、唯一の連れは、正気を失った人間なのだと。

曖昧な記憶からすると、私自身の頭も、ときどきおかしくなっていたのだと思う。眠るたびに、奇怪で恐ろしい夢を見た。逆説めくが、司祭の弱さと狂気が私への警告となり、気を引き締めさせ、正気に保ったのではないかと思う。

八日目、司祭はささやく代わりに、声を出して話し始めた。何をしても、その声を抑えさせることはできなかった。

「正しいのです、ああ神よ!」と、何度も繰り返した。「正しいのです。罰は私と、私に属する者に下されるべきです。私たちは罪を犯し、御心に背きました。貧しさがあり、悲しみがあり、貧しい者が塵の中に踏みにじられていたのに、私は黙っていた。人の耳に心地よい愚かな説教をした――神よ、何という愚かさ! ――死ぬことになっても立ち上がり、悔い改めよと叫ぶべきだったのに。悔い改めよ! ……貧しい者、乏しい者を虐げる者ども! ……神の怒りの酒ぶね!」

それから突然、私が食料を与えないという話へ戻り、祈り、乞い、泣き、ついには脅した。声が大きくなり始めたので、私はやめてくれと頼んだ。司祭は私の弱みを見つけた。大声を出し、火星人を呼び寄せるぞと脅した。一時は怖かった。だが譲歩すれば、脱出の見込みはどれほど削られるかわからない。実行しないという保証はなかったが、私は屈しなかった。少なくともその日は、司祭は脅しを実行しなかった。八日目と九日目の大半、少しずつ声を高めながら話し続けた。脅しと嘆願に、自分の空虚で偽りの奉仕についての、半ば正気を失った、いつも泡のように実のない悔恨が、奔流となって混じった。それには私も哀れを覚えた。やがて少し眠り、力を取り戻してまた始めた。今度はあまりに大きく、何としても止めねばならなかった。

「静かにしてくれ!」

私は懇願した。

暗闇の中、銅の湯沸かし釜のそばに座っていた司祭は、膝立ちになった。

「私は長く黙りすぎた」と言った。その声は穴まで届いたはずだ。「今こそ証しを立てねばならぬ。この不実な都に災いあれ! 災いあれ! 災いあれ! 災いあれ! 災いあれ! 災いあれ! 地に住む者に、これから鳴るラッパの響きによって――」

「黙れ!」

私は立ち上がって言った。火星人に聞かれるのが恐ろしかった。「頼む、お願いだから――」

「否!」司祭も立ち、両腕を広げ、声の限りに叫んだ。「語れ! 主の言葉が私に臨んだのだ!」

三歩で、台所へ通じる戸口に達した。

「証しを立てねばならぬ! 私は行く! もう遅れすぎたのだ。」

私は手を伸ばし、壁に掛かった肉切り包丁をつかんだ。一瞬であとを追った。恐怖が私を凶暴にしていた。司祭が台所を半分渡る前に、追いついた。最後に残った人間らしさで刃を返し、背で殴った。司祭は前のめりに倒れ、床へ伸びた。私はその身体につまずき、立ち止まってあえいだ。司祭は動かなかった。

突然、外で音がした。漆喰が滑り落ち、砕ける音。そして壁の三角形の穴が暗くなった。見上げると、作業機械の下面が、穴の前をゆっくり横切っていた。物をつかむ肢の一本が瓦礫の中で曲がり、もう一本が現れて、倒れた梁を探った。私は石になったように立ち尽くし、見つめた。それから胴体の縁近くのガラス板らしいものの向こうに、顔と呼ぶべきものと、のぞき込む火星人の大きな黒い目が見えた。続いて、金属の長い蛇のような触手が、穴からゆっくり探り入ってきた。

私は力を振り絞って向き直り、司祭につまずき、洗い場の戸口で止まった。触手はもう二ヤード以上も室内へ入り、奇妙に突然の動きを交えながら、あちらこちらへねじれ、曲がった。しばらく私は、その遅く不規則な前進に魅入られて立っていた。やがてかすれた小さな叫びを漏らし、無理に身体を動かして洗い場を横切った。激しく震え、まっすぐ立つのも難しかった。石炭庫の戸を開け、その暗闇に立ち、台所へ通じる薄明るい戸口を見つめ、耳を澄ました。火星人は私を見たのか。今、何をしているのか。

何かが、そこでひどく静かに行き来していた。ときおり壁を軽く叩き、動き始めには、二重リングの鍵が動くような、かすかな金属音がした。それから重い身体が――何なのか、痛いほどわかっていた――台所の床を穴へ引きずられていった。抗しがたく引かれ、私は戸口へ這い、台所をのぞいた。外の明るい日光がつくる三角形の中で、百腕の巨人ブリアレオスのような作業機械に乗った火星人が、司祭の頭を調べていた。殴った跡から、私の存在を察するに違いないと、とっさに思った。

石炭庫へ這い戻り、戸を閉め、暗闇の中、できるだけ音を立てず、薪と石炭をかぶせて、可能なかぎり身を隠した。ときおり硬直して動きを止め、火星人がまた穴から触手を入れていないか、聞き耳を立てた。

やがて、かすかな金属の触れ合う音が戻った。台所をゆっくり探る動きが、音で追えた。そのうち近くなった。洗い場だと思った。ここまでは長さが足りないかもしれない、と考えた。私は何度も祈った。触手は石炭庫の戸をかすかにこすって通り過ぎた。耐えがたい緊張の中で、永遠にも思える時が過ぎた。それから、掛け金を探る音がした! 戸を見つけたのだ! 火星人は戸を理解していた! 

おそらく一分ほど掛け金をいじり、それから戸が開いた。

暗闇の中、何よりも象の鼻に似たそれが、こちらへ揺れながら伸び、壁、石炭、薪、天井に触れ、調べるのが、かろうじて見えた。盲目の頭を左右に振る黒い虫のようだった。

一度は長靴の踵にまで触れた。叫びそうになり、私は自分の手を噛んだ。しばらく触手は静かだった。引っ込んだのかと思うほどだった。やがて不意にかちりと鳴り、何かをつかんだ――私をつかんだと思った! ――そしてまた石炭庫から出ていくようだった。一分ほど確信が持てなかった。どうやら調べるために、石炭の塊を一つ持っていったらしい。

その機会に、痺れていた身体の位置を少し変え、それから耳を澄ました。助けてくれと、熱心な祈りをささやいた。

するとまた、ゆっくり慎重な音が、こちらへ忍び寄ってきた。ゆっくり、ゆっくり近づき、壁をこすり、家具を叩いた。

まだどうなるかわからないうちに、石炭庫の戸を鋭く叩き、閉めた。食料庫へ入っていく音がし、ビスケットの缶ががたつき、瓶が割れ、それから石炭庫の戸に重いものがぶつかった。続く沈黙は、果てしない緊張へ変わった。

行ったのか? 

ついに私は、行ったのだと判断した。

触手はもう洗い場へ来なかった。だが私は十日目をまる一日、息苦しい暗闇で、石炭と薪に埋もれたまま横たわった。渇望する水を飲みに這い出す勇気さえなかった。安全な隠れ場所から、そこまで離れてみる気になったのは、十一日目のことだった。

第五章 静寂

食料庫へ入る前に、私はまず台所と洗い場の間の戸をしっかり閉めた。だが、食料庫は空だった。食べ物は一かけらも残っていなかった。どうやら前の日、火星人がすべて持ち去ったらしい。それを知って、私は初めて絶望した。十一日目と十二日目は、何も食べず、水さえ飲まなかった。

初めのうちは口も喉もからからに渇き、体力が目に見えて衰えていった。私は洗い場の暗がりに座りこみ、惨めな失意に沈んでいた。頭に浮かぶのは食べ物のことばかりだった。耳が聞こえなくなったのかとも思った。穴の中から絶えず聞こえていた物音が、すっかり途絶えていたからだ。音を立てずに覗き穴まで這っていく力さえなかった。少しでも力が残っていれば、確かめに行っただろう。

十二日目には喉がひどく痛み、火星人に気づかれる危険を承知で、流しのそばにある、きしむ雨水ポンプに取りついた。そして黒ずんだ、悪臭のする雨水をコップ二杯ほど汲んだ。それで大いに生き返ったうえ、ポンプの音を探りに来る触手もなかったので、いくらか勇気が出た。

この数日のあいだ、私は司祭のこと、その死に方のことを、まとまりも結論もないまま、幾度となく考えていた。

十三日目にはまた水を飲み、うとうとしながら、食べ物のことや、ぼんやりとした実行不可能な脱出の算段を、とりとめもなく考えた。まどろむたびに、恐ろしい幻や司祭の死、あるいは豪勢な食事の夢を見た。だが、眠っていても目覚めていても、鋭い痛みが私を駆り立て、何度も水を飲まずにはいられなかった。洗い場へ差しこむ光は、もう灰色ではなく、赤かった。乱れた私の心には、それが血の色に見えた。

十四日目、私は台所へ行き、赤い草の葉が壁の穴をすっかり覆っているのに驚いた。そのため、もともと薄暗かった室内は、深紅の闇に染まっていた。

十五日目の早朝、台所で奇妙な、それでいて聞き覚えのある物音が続いた。耳を澄ますと、犬が鼻を鳴らし、引っかく音だとわかった。台所へ行ってみると、赤い葉の切れ目から犬の鼻先が覗いていた。私はひどく驚いた。犬は私の匂いを嗅ぎつけると、短く吠えた。

うまく静かに誘いこめれば、殺して食べられるかもしれない、と思った。いずれにせよ、犬の動きが火星人の注意を引かないよう、殺しておくほうがよかった。

私は「よしよし、いい子だ」とごく小声で呼びかけながら、そっと近づいた。だが犬は不意に頭を引っこめ、いなくなってしまった。

私は耳を澄ました。耳が聞こえなくなったわけではなかった。だが、穴の中は確かに静まり返っていた。鳥の羽ばたきのような音と、しわがれた鳴き声が聞こえたが、それだけだった。

私は長いこと覗き穴のそばに身を伏せていたが、そこを塞ぐ赤い草を払いのける勇気はなかった。はるか下の砂地を犬があちこち歩き回るような、かすかな足音が一、二度聞こえ、鳥らしい声もまたしたが、ほかには何もなかった。やがて私は静けさに励まされ、外を覗いた。

穴の片隅で、無数のカラスが跳ね回り、火星人に食われた人々の骸骨を奪い合っていた。そこを除けば、穴の中に生き物の姿はなかった。

私は自分の目を信じかね、あたりを見回した。機械はすべてなくなっていた。片隅にうず高く積まれた灰青色の粉、別の隅に残された何本かのアルミニウムの棒、それに黒い鳥と殺された人々の骸骨を除けば、そこはただ砂地に掘られた、空っぽの円い穴にすぎなかった。

私はゆっくり赤い草を押し分けて外へ出て、瓦礫の山に立った。背後に当たる北側以外は見渡せたが、火星人の姿も、それらしい気配もなかった。足もとから穴へは切り立った崖になっていたが、少し横へ行けば、瓦礫が斜面をつくり、廃墟の頂まで登れそうだった。逃げ出す機会が来たのだ。私は震え出した。

しばらくためらったのち、突如として捨て身の決意に駆られ、激しく打つ胸を抱えて、長いあいだ私を埋めていた瓦礫の山の頂へよじ登った。

私はもう一度あたりを見回した。北の方にも火星人はいなかった。

このシーンの一角を最後に日の光の下で見たときには、住み心地のよさそうな白や赤の家々が、豊かに木陰を落とす木立を間に挟んで、道沿いにまばらに並んでいた。いま私は、砕けた煉瓦と粘土と砂利の山に立っていた。その上には、膝ほどの高さの、サボテンに似た赤い植物が一面にはびこり、その足場を争う地球の草木は一本もなかった。近くの木々は褐色に枯れていたが、少し遠くでは、まだ生きている幹を、赤い糸の網が這い上がっていた。

近所の家はどれも壊されていたが、焼けたものはなかった。壁は残り、ときには二階の高さまで立っていたが、窓は砕け、扉は打ち破られていた。屋根を失った部屋の中には、赤い草が荒れ狂うように生い茂っていた。眼下には大穴が開き、カラスが残骸を奪い合っていた。廃墟のあいだでは、ほかの鳥も何羽も跳ね回っていた。遠くで痩せこけた猫が、身を低くして壁沿いを忍び歩くのが見えた。だが、人間の痕跡はなかった。

つい先ほどまで閉じこめられていたせいで、日の光は目もくらむほど明るく、空は青く輝いて見えた。空いた地面を余すところなく覆う赤い草が、そよ風にゆるやかに揺れていた。そして、ああ、空気のなんとすがすがしかったことか。

第六章 十五日間の変貌

私はしばらく、安全のことも忘れ、瓦礫の山の上にふらつきながら立っていた。抜け出してきたばかりの、あの悪臭のこもる穴蔵では、目先の身の安全だけに、狭く激しく思いを集中していた。世の中で何が起きていたのか気づかず、これほど異様な光景が待っていようとは思いもしなかった。シーンが廃墟になっているとは予想していた。だが、私を取り巻いていたのは、不気味で毒々しい、よその惑星の風景だった。

その瞬間、私は人間の通常の感情を超えたものに触れた。だが、それは私たちの支配する哀れな獣たちには、あまりにも馴染み深い感情だった。巣穴へ戻ってきたウサギが、家の基礎を掘るために忙しく働く十数人の土工に、いきなり出くわしたような心持ちだった。このとき初めて、ある感覚が胸をかすめた。それはやがてはっきりした形を取り、何日ものあいだ私を押しひしぐことになる。王座を追われたという感覚。自分はもう主人ではなく、火星人の足もとにある獣の一匹なのだという確信だった。私たちも獣と同じように、潜んで様子をうかがい、走って逃げ、身を隠すことになる。人間が及ぼしていた威圧も支配も、消え失せたのだ。

だが、その異様さを理解すると、感覚はたちまち薄れ、長く惨めな絶食の果ての飢えが、私を動かす何よりの力となった。穴と反対の方角を見ると、赤く覆われた塀の向こうに、まだ草に埋まっていない庭の一角が見えた。私は思いつくことがあり、赤い草に膝まで、ときには首まで埋まりながら、そちらへ進んだ。草の茂みは隠れ場所にもなり、安心を与えてくれた。塀は高さが六フィートほどあり、よじ登ろうとしたものの、足を上まで持ち上げられなかった。そこで塀沿いに歩くと、角のところに石組みがあり、それを使って上へ登り、目当ての庭へ転がり落ちることができた。そこで若いタマネギとグラジオラスの球根を二つ、まだ育ちきらないニンジンをいくらか見つけ、すべて手に入れた。さらに崩れた塀を乗り越え、朱色や深紅に染まった木々のあいだを、キューへ向かって進んだ。それは巨大な血のしずくの並木道を歩くようだった。頭にあるのは二つだけだった。もっと食べ物を手に入れること。そして、この大穴を取り巻く、呪われた異界のような土地から、足を引きずってでも、体力の許すかぎり早く、遠くへ離れること。

もう少し進むと、草地にキノコが群がって生えていたので、それもむさぼり食った。その先では、かつての牧草地を、茶色い浅い水が一面に流れていた。わずかばかりの食べ物は、かえって空腹を募らせるだけだった。暑く乾いた夏に洪水とは、と初めは驚いたが、のちにそれが、熱帯植物さながらに繁茂する赤い草のせいだとわかった。この異様な植物は、水に触れるや否や巨大化し、比べるものもないほどの繁殖力を発揮した。種子はウェイ川とテムズ川へ雨のように降り注ぎ、急速に伸びる巨大な水中葉が、たちまち両方の川を塞いでしまったのだ。

のちに見たところでは、パトニーの橋は、この草のもつれの中にほとんど埋もれていた。リッチモンドでも同じで、テムズ川の水は幅広く浅い流れとなり、ハンプトンとトウィッケナムの牧草地を越えて流れ出していた。水が広がると、草もそのあとを追った。こうしてテムズ河谷の壊された別荘は、一時、この赤い沼地の中へ姿を消した。私がたどっていたのは、その沼地の縁だった。火星人のもたらした荒廃の多くも、その下に隠されていた。

結局、赤い草は、広がったときとほとんど同じ速さで滅びていった。ある種の細菌の働きによると考えられる腐敗性の病が、やがて草を襲ったのだ。地球上のあらゆる植物は、自然淘汰の働きによって、細菌の引き起こす病への抵抗力を獲得している。激しく抵抗することなしに屈しはしない。だが、赤い草は、初めから死んでいたもののように腐った。葉は色が抜け、やがて縮れて、もろくなった。ほんの少し触れただけで折れ、かつてその成長を促した水が、最後の名残を海へと運び去った。

この水辺へ来て、私がまずしたことは、もちろん渇きを癒すことだった。たっぷりと水を飲み、ふと思いついて赤い草の葉をかじってみたが、水っぽく、吐き気を催すような金属の味がした。赤い草が多少足に絡んだものの、水は安心して歩いて渡れるほど浅かった。だが、川に近づくにつれて明らかに深くなっていたので、私はモートレイクの方へ引き返した。ところどころに残る別荘や塀や街灯の残骸を頼りに、どうにか道筋を見分け、やがてこの浸水地帯を抜け出した。そしてローハンプトンへ上る丘を目指し、パトニー・コモンへ出た。

ここでは景色が変わった。見知らぬ異様な世界から、見慣れた世界の残骸へと。ある一角は竜巻に襲われたように荒れ果てていたが、数十ヤードも行くと、まったく手つかずの場所に出た。家々はブラインドをきちんと下ろし、戸を閉ざしていて、持ち主が一日だけ留守にしたか、住人が中で眠っているかのようだった。赤い草は少なくなり、小道沿いの高い木々にも、赤い蔓草は絡んでいなかった。私は木々のあいだで食べ物を探したが、何も見つからなかった。静まり返った家にも二軒ほど入りこんでみたが、すでに誰かが押し入り、隅々まであさったあとだった。衰弱した身にはそれ以上進む元気もなく、日が暮れるまで、低木の茂みで休んだ。

この間ずっと、人の姿も火星人の気配もなかった。腹をすかせているらしい犬を二匹見かけたが、近づこうとすると、どちらも大きく迂回して逃げていった。ローハンプトンの近くでは、人間の骸骨を二体見た。死体ではなく、肉をきれいに食い尽くされた骸骨だった。また、そばの林では、砕かれて散らばった何匹かの猫とウサギの骨、それに羊の頭蓋骨を見つけた。だが、その一部を口に入れてかじってみても、何も得られなかった。

日が沈んでから、私はパトニーへ続く道を、どうにか進んだ。そこでは、何かの理由で熱線が使われたに違いないと思う。ローハンプトンを過ぎたところの庭で、まだ育ちきらないジャガイモをかなり手に入れ、ひとまず空腹を抑えることができた。その庭からはパトニーと川が見下ろせた。夕闇に沈むその眺めは、ひときわ荒涼としていた。黒焦げの木々、黒く焼けただれた無残な廃墟。そして丘の下には、赤い草に染められた氾濫の水面が広がっていた。そのすべてを包むのは、静寂。これほどの荒廃がどれほど短い間に起きたかを思うと、言いようのない恐怖に満たされた。

一時は、人類は地上から消し去られ、私だけが最後の生き残りとして、そこに立っているのだと思った。パトニー・ヒルの頂近くで、また一体の骸骨に出くわした。両腕が外れ、体のほかの部分から数ヤードも離れたところに転がっていた。進めば進むほど、この地方では、私のような取り残された者を除いて、人類の絶滅がすでに完了したのだという確信が強くなった。火星人はこの土地を荒れ果てるに任せ、よそへ食料を求めて移動したのだろう。もしかすると、いまごろはベルリンやパリを破壊しているのかもしれない。あるいは北へ向かったのかもしれなかった。

第七章 パトニー・ヒルの男

その夜はパトニー・ヒルの頂にある宿屋で過ごし、レザヘッドへ逃れて以来初めて、きちんと整えられたベッドで眠った。その家へ入りこむのにどれほど無駄な苦労をしたかは語るまい。あとになって、玄関には掛け金がかかっているだけだとわかった。また、食べ物を求めて部屋という部屋をあさり、絶望しかけたところで、使用人の寝室らしい一室から、ネズミにかじられたパンの皮とパイナップルの缶詰を二つ見つけた経緯も省こう。そこはすでに捜し回られ、食料を持ち去られたあとだった。その後、酒場で見落とされていたビスケットとサンドイッチを少し見つけた。サンドイッチは腐りすぎていて食べられなかったが、ビスケットは空腹を癒したうえ、ポケットを満たしてくれた。火星人が夜のうちにロンドンのこの一角へ、食料をあさりに来るのではないかと恐れ、明かりはつけなかった。寝る前にはしばらく落ち着かず、窓から窓へ歩き回って、怪物たちの気配がないかと外を覗いた。眠りは浅かった。横になっているうちに、自分が筋道を立てて考えていることに気づいた。司祭と最後に言い争ってから、そんなふうに考えた覚えはなかった。その間の精神状態は、漠然とした感情がめまぐるしく入れ替わるか、ただぼんやりと外のものを受け入れるだけだった。だが、その夜は、おそらく食べた物に力づけられたのだろう、頭が再び澄みわたり、私は考えた。

三つのことが、私の心を奪い合っていた。司祭を殺したこと、火星人の行方、そして妻の身に起きたかもしれないことだ。最初の件を思い出しても、恐怖や悔恨は感じなかった。ただ、すでに起きたこととして受け止めていた。限りなく不快な記憶ではあっても、悔恨という性質のものは、まるでなかった。当時もいまも、私自身の見方は変わらない。一連の偶然に翻弄され、一歩一歩、あの性急な一撃へと、否応なく追いこまれていったのだ。自分を責める気持ちはなかった。それでも、その記憶は動かず、先へ進まず、私につきまとった。夜の静寂の中、ときおり静けさと闇がもたらす、神がすぐ近くにいるという感覚に包まれて、私はあの怒りと恐怖の一瞬について、裁きを受けた。それが唯一の裁きだった。私のそばにうずくまり、こちらの渇きも意に介さず、ウィブリッジの廃墟から噴き上がる炎と煙を指していた司祭を見つけたあの瞬間から、二人の交わした言葉を、一つひとつたどり直した。私たちは力を合わせられる間柄ではなかった。過酷な偶然は、そんなことにはお構いなしだった。先が見えていたなら、ハリフォードに置き去りにしていただろう。だが、私には見えていなかった。罪とは、結果を見通しながら、それでも行うことだ。私はこの話のすべてを記してきたように、このことも、ありのままに記している。目撃者はいない。すべてを隠すこともできた。だが私は書く。判断は読者に委ねるほかない。

そして、倒れ伏した体の姿を、努力して頭から追い払うと、私は火星人の問題と妻の運命に向き合った。火星人については、何の手がかりもなかった。いくらでも想像できた。そして不幸なことに、妻についても同じだった。突然、その夜は恐ろしいものになった。気がつくと私はベッドに起き上がり、闇を見つめていた。そして妻が熱線に一瞬で、苦痛もなく命を奪われていてくれるよう、祈っていた。レザヘッドから戻ったあの夜以来、私は祈っていなかった。祈りの言葉は口にしていた。まじないのような祈りだ。窮地に陥ったとき、異教徒が呪文を唱えるように祈ってはいた。だが、いまは真に祈った。神の闇と向き合い、正気のまま、ひたすら願った。奇妙な夜だった。何より奇妙だったのは、夜が明けるとすぐ、神と語り合ったこの私が、隠れ穴を出るネズミのように、こそこそと家を抜け出したことだ。ネズミよりさして大きくもない、下等な獣。主人たちの気まぐれひとつで、追われ、殺されかねない生き物。そのネズミたちもまた、神を信じて祈るのかもしれない。ほかに何も学ばなかったとしても、この戦争は確かに私たちに憐れみを教えた。人間の支配に苦しむ、もの言わぬ命への憐れみを。

朝は明るく晴れ、東の空は桃色に輝き、金色の小さな雲がちりばめられていた。パトニー・ヒルの頂からウィンブルドンへ向かう道には、戦いが始まったあとの日曜の夜、ロンドンへ向かって押し寄せたに違いない恐慌の奔流の、哀れな名残がいくつもあった。「ニュー・モールデン、青果商トマス・ロブ」と書かれた小さな二輪荷車は、片方の車輪が壊れ、ブリキのトランクが置き去りにされていた。いまでは固く乾いた泥に、麦わら帽子が踏みこまれ、ウェスト・ヒルの頂では、倒れた馬の水飲み桶のまわりに、血に染まったガラスが散らばっていた。私の足取りは重く、行くあてもおぼつかなかった。レザヘッドへ行こうかと思っていたが、そこで妻を見つける見込みがほとんどないことは、わかっていた。突然死に襲われでもしなかったかぎり、妻もいとこたちも、とっくに逃げ出していたはずだ。それでも、そこへ行けば、サリーの人々がどこへ逃れたか、何か手がかりを見つけたり、聞き出したりできる気がした。妻を見つけたいこと、妻と人間の世界を恋い慕って胸が痛むことは、わかっていた。だが、どう探せばいいかは、まるで見当がつかなかった。いまは、自分の激しい孤独も痛いほど感じられた。私は角を曲がり、木々や低木の茂みを隠れ蓑にして、はるか先まで広がるウィンブルドン・コモンの縁へ出た。

黒々と広がるその野は、ところどころ、黄色いハリエニシダとエニシダに彩られていた。赤い草は見当たらなかった。私が開けた場所の縁をためらいながらうろついているうちに、太陽が昇り、あたり一面を光と活気で満たした。木々のあいだの湿地で、小さなカエルが群れをなしてせわしなく動いているのに出くわした。私は足を止め、そのたくましい生への意志に教えられる思いで、しばらく眺めた。やがて、誰かに見られているような妙な気配に急に振り返ると、茂みの中に、何かがうずくまっていた。私は立ったまま、それを見つめた。一歩近づくと、その影は立ち上がり、短い湾刀を持った男になった。私はゆっくり近づいた。男は黙って身動きもせず、こちらを見ていた。

近づくにつれ、男も私と同じように、埃と汚れにまみれた服を着ていることがわかった。実際、暗渠の中を引きずられてきたような姿だった。さらに近づくと、乾いた粘土のくすんだ薄茶色に、溝の緑のぬめりと、石炭のように黒く光る染みが交じっているのが見えた。黒髪が目にかかり、顔は黒く汚れてこけていたので、初めは誰だかわからなかった。顔の下半分を横切る、赤い切り傷があった。

「止まれ!」十ヤードほどまで近づいたところで男が叫び、私は足を止めた。声はしわがれていた。「どこから来た?」

私は男を見定めながら、少し考えた。

「モートレイクからだ」と私は言った。「火星人が円筒のまわりに掘った穴の近くで、埋められていた。どうにか抜け出して、逃げてきたんだ。」

「このへんには食い物はないぞ」と男は言った。「ここは俺の縄張りだ。この丘から川まで、後ろはクラパムまで、そっちはコモンの端までな。一人分の食い物しかない。どっちへ行くつもりだ?」

私はゆっくり答えた。

「わからない。十三日か十四日、家の瓦礫に埋まっていたんだ。何が起きたのか、知らない。」

男は疑わしそうに私を見ていたが、はっとして、表情を変えた。

「このへんに居つくつもりはない」と私は言った。「レザヘッドへ行こうと思う。妻がいたからね。」

男は指を突き出した。

「あんただ」と言った。「ウォーキングの人だろう。ウィブリッジで死ななかったのか?」

私も同時に、男が誰だかわかった。

「うちの庭へ来た砲兵だね。」

「こいつはいい!」と彼は言った。「俺たちは運がいいな! まさかあんたとは!」

彼が手を差し出し、私は握った。「俺は排水溝へ這いこんだんだ」と彼は言った。「だが、みんなが殺されたわけじゃない。やつらが行ってから、野原を突っ切ってウォルトンの方へ逃げた。だが――まだ全部で十六日もたってないってのに、あんた、髪が白くなったな。」

彼は不意に肩越しに振り返った。「ただのカラスか」と言った。「このごろじゃ、鳥にも影があるってことを思い知らされる。ここは少し開けすぎてる。あの茂みに潜って話そう。」

「火星人を見かけたかい?」

私は尋ねた。「這い出してから、私は――」

「ロンドンの向こうへ行っちまったよ」と彼は言った。「あっちにもっとでかい陣地があるんだろう。夜になると、あそこらじゅう、ハンプステッドの方の空が、やつらの光でぎらぎらする。大都会みたいだ。その明かりの中だと、動き回ってるのがかすかに見える。昼間は見えないがな。だが、この近くじゃ、もう――」彼は指を折って数えた。「五日見てない。最後に見たのはハマースミスの方で、二体が何か大きなものを運んでた。それから、おとといの晩だ」彼はいったん言葉を切り、重々しい口調で続けた。「光しか見えなかったが、何かが空に浮かんでたんだ。やつら、飛行機械をこしらえて、飛び方を覚えてるんだと思う。」

茂みまで来ていたので、私は四つん這いのまま動きを止めた。

「飛ぶだって!」

「そうさ」と彼は言った。「飛ぶんだ。」

私はそのまま、枝葉に囲まれた小さな隠れ場所へ入り、腰を下ろした。

「人類はもうおしまいだ」と私は言った。「そんなことができるなら、世界中を回れるじゃないか。」

彼はうなずいた。

「そうなるだろうな。だが――こっちは少し楽になる。それに――」彼は私を見た。「あんた、まだ人類がおしまいだと腹に落ちてないのか? 俺は落ちてる。俺たちはやられた。負けたんだ。」

私は見つめ返した。奇妙に思われるかもしれないが、私はまだその事実に行き着いていなかった。彼に言われれば、あまりにも明白な事実だった。漠然とした希望を、まだ抱いていたのだ。いや、長年しみついた考え癖を捨てきれずにいたのだろう。彼は繰り返した。「俺たちは負けたんだ。」

その言葉には、反論を許さぬ確かさがあった。

「もうおしまいだ」と彼は言った。「やつらが失ったのは一体だ。たった一体。それで足場を固め、世界一の強国を半身不随にしちまった。俺たちを踏み越えてきたんだ。ウィブリッジで一体死んだのは、まぐれさ。しかも、いまいるのは先遣隊にすぎない。あとからあとから来ていた。あの緑の星だ――ここ五、六日は見てないが、きっと毎晩どこかに落ちてる。打つ手はない。俺たちは踏みつけられた。負けたんだ!」

私は答えなかった。ただ前を見つめて座り、何か対抗できる考えはないかと、むなしく思いを巡らせた。

「こいつは戦争じゃない」と砲兵は言った。「初めから戦争なんかじゃなかった。人間とアリのあいだに戦争がないのと同じさ。」

私は突然、天文台で過ごしたあの夜を思い出した。

「十発目のあと、発射はなかった。少なくとも、最初の円筒が来るまでは。」

「どうしてわかる?」と砲兵は尋ねた。私は説明した。彼は考えこんだ。「大砲のどこかが壊れたんだな」と言った。「だが、それがどうした? また直すだろう。たとえ遅れたところで、結末が変わるか? 人間とアリ、それだけのことだ。アリは町を築き、暮らしを営み、戦争や革命をやる。だが人間が邪魔だと思えば、お払い箱だ。いまの俺たちはそれさ。ただのアリだ。ただし――」

「ああ」と私は言った。

「食えるアリだ。」

私たちは互いを見つめて座っていた。

「それで、やつらは私たちをどうするつもりだろう?」

私は言った。

「それを考えてたんだ」と彼は言った。「ずっとな。ウィブリッジのあと、俺は南へ行った。考えながらだ。何が起きてるかは、わかってた。たいていの連中は、わめいて取り乱すのに忙しかった。だが俺は、わめくのは好きじゃない。死ぬ目には一度や二度遭ってる。飾り物の兵隊じゃないんだ。どう転んだって、死は死にすぎん。それでも考えつづけるやつが、生き延びる。みんな南へ逃げるのを見て、俺は思った。『これじゃ食い物がもたんぞ』ってな。それで、くるりと引き返した。スズメが人間に近づくみたいに、火星人の方へ行ったんだ。あたり一帯じゃ」彼は地平を手で示した。「連中が山ほど飢え死にしてる。逃げ回り、互いを踏みつけてる……」

彼は私の顔を見て、気まずそうに口をつぐんだ。

「金のあるやつは、ずいぶんフランスへ渡ったはずだ」と彼は言った。謝ろうかと迷ったようだったが、私と目が合うと、先を続けた。「このへんには、食い物はいくらでもある。店には缶詰、ワイン、蒸留酒、ミネラルウォーター。水道の本管も下水道も空っぽだ。さて、何を考えてたかって話だったな。俺はこう考えた。『こいつらは頭のいい生き物で、俺たちを食料にするつもりらしい。まずは俺たちのものをぶち壊す。船、機械、大砲、都市、秩序も組織も、何もかもだ。全部なくなる。俺たちがアリぐらい小さければ、やり過ごせるかもしれん。だが、そうじゃない。何もかも大きすぎて、そのまま残してはおけない。まず、これは確かだ』。そうだろう?」

私は同意した。

「確かなんだ。考え抜いたんだからな。よし、じゃあ次だ。いまは、やつらが欲しくなるたびに捕まえてる。火星人は数マイルも行けば、逃げ回る人間の群れに出くわす。ある日、ワンズワースの外れで、一体が家をばらばらにして、瓦礫の中をあさってるのを見た。だが、いつまでもそんなことはしていまい。こっちの大砲や船を片づけ、鉄道をぶっ壊し、あっちでいまやってることを全部済ませたら、今度は組織立って俺たちを捕まえ始める。上等なのを選び出して、檻か何かに蓄えるんだ。もうじき、それを始める。まったく! やつらはまだ、俺たちに手をつけてもいないんだぞ。わからないか?」

「まだ始めていないだって!」

私は叫んだ。

「始めてないさ。ここまで起きたことは全部、俺たちにおとなしくしてる分別がなかったせいだ。大砲だの、くだらないもので、やつらを煩わせたからだ。しかも頭に血を上らせ、群れになって、元の場所より安全でもないところへ逃げていった。やつらは、まだ俺たちにかまうつもりはないんだ。自分たちの道具を作ってる。持ってこられなかったものを全部こしらえて、仲間を迎える支度をしてるのさ。円筒がしばらく来ないのも、たぶんそれだ。先に来てる仲間にぶつけたくないんだろう。だから俺たちは、わめきながらめくらめっぽうに走り回ったり、うまくいけば吹っ飛ばせるかとダイナマイトを持ち出したりする代わりに、新しい事態に合わせて、身の振り方を決めなきゃならん。俺はそう考えてる。人間として同族に望む姿とは違うが、事実が指してるのは、だいたいそっちだ。その考えに従って、俺は動いてきた。都市、国家、文明、進歩――全部おしまいだ。その勝負はついた。俺たちは負けた。」

「だが、そうなら、何のために生きるんだ?」

砲兵はしばらく私を見つめた。

「この先百万年くらいは、ありがたい音楽会もなけりゃ、王立美術院もない。レストランでうまい飯を食うこともな。楽しみが目当てなら、もうおしまいだろうよ。お上品な客間の作法だの、ナイフで豆を食べるのは嫌だの、Hを落としてしゃべるのは嫌だの[訳注:語頭のHを発音しない話し方は、当時のイギリスでは下層階級の言葉遣いとされた]、そんなものは捨てちまった方がいい。もう何の役にも立たん。」

「つまり――」

「つまり、俺みたいな人間は生きつづけるってことだ。種を残すためにな。いいか、俺は何が何でも生きるつもりだ。見込み違いでなきゃ、そのうちあんたも腹の据わったところを見せるだろう。俺たちは絶滅なんかしない。それに俺は、捕まって飼い慣らされ、太らされて、でかい牛みたいに子を取られるつもりもない。ぞっとする! あの茶色い這い虫どもにだぞ!」

「まさか、あんたは――」

「そうさ。やつらの足もとで、生き抜くんだ。計画はある。考え抜いた。俺たち人間は負けた。知識が足りない。勝ち目をつかむには、まず学ばなきゃならん。そのあいだは、生き延びて、自由を守る。いいか! やるべきことはそれだ。」

私は驚いて彼を見つめ、その決意に深く心を動かされた。

「なんということだ!」と私は叫んだ。「あんたこそ、本物の人間だ!」

そして、思わず彼の手を握った。

「だろう?」彼は目を輝かせた。「よく考えてあるだろう?」

「続きを聞かせてくれ」と私は言った。

「さて、やつらに捕まりたくない者は、準備をしなきゃならん。俺はしてる。いいか、誰もが野獣になれるわけじゃない。だが、そうなるしかないんだ。だから、あんたを見張ってた。少し怪しんでたんだ。痩せてるしな。あんただとは知らなかったし、どんなふうに埋まってたかも知らなかった。このへんの連中――こういう家に住んでたようなやつらや、あっちにいた、くだらない小役人ども――ああいうのは役に立たん。気骨がない。胸を張れる夢も、胸を張れる欲望もない。どっちもない人間なんて、まったく、何だ? 臆病と用心の塊じゃないか。やつらは、ただせかせか仕事へ駆けていった。何百人も見たよ。朝飯のかけらを手に、ぴかぴかに身なりを整えて、定期券で乗る列車を目がけて血相を変えて走ってた。乗り遅れれば首になると怯えてな。どんな仕事か、苦労して理解しようとすることさえ怖がりながら、働いてた。夕食に遅れるのが怖くて、またせかせか帰る。食ったあとは裏通りが怖くて家に閉じこもる。そして妻と寝る。その女が欲しくて結婚したんじゃない。いくらか金を持っていて、この世をこそこそ駆け抜ける、たった一度の惨めな旅の、足しになるからさ。万一が怖くて生命保険に入り、少しばかり投資もする。日曜には――あの世が怖い。まるで地獄はウサギのために造られたみたいだ! まあ、そういう連中には、火星人は天の恵みさ。広くて快適な檻、太れる食い物、行き届いた繁殖の世話、心配事は何もない。一週間も空きっ腹で野原を逃げ回れば、喜んで捕まりに来るだろう。しばらくすりゃ、すっかり満足する。世話をしてくれる火星人が来る前は、人間はどうやって暮らしていたんだろう、と首をかしげるのさ。それに、酒場のごろつきや、色男気取りや、歌い手ども――目に浮かぶよ。目に浮かぶ」彼は暗い満足をにじませて言った。「その中じゃ、感傷と信心が、際限なくはびこるだろう。これまで自分の目で見てきた何百ということが、この数日でようやく、はっきり見えてきた。太って鈍くなって、あるがままを受け入れる連中も大勢いるだろう。だが、こんなはずじゃない、何かしなきゃならないって気に、なんとなく悩まされるやつらも大勢いる。さて、世の中がこうなって、大勢が何かしなきゃならないと思うとき、弱いやつや、ごちゃごちゃ考えすぎて弱くなるやつは、決まって、何もしない信仰みたいなものに逃げこむ。ひどく信心深く、ご立派な顔で、迫害にも主の御心にも従うのさ。あんたも見たことがあるだろう。恐怖の嵐に吹きまくられた気力が、すっかり裏返しになったんだ。その檻は、詩篇と賛美歌と敬虔な心でいっぱいになる。もう少しひねくれた連中は、そこへ少しばかり――何て言ったかな――エロティシズムを混ぜるだろうな。」

彼は言葉を切った。

「火星人は、そのうち何人かを愛玩用にするかもしれん。芸を仕こむとか――わからんぞ――かわいがってた少年が育って、殺さなきゃならなくなったら、感傷に浸るとか。中には、俺たちを狩るよう仕こまれるやつもいるかもしれん。」

「いや」と私は叫んだ。「そんなことはありえない! 人間が――」

「そんな嘘を言いつづけて、何になる?」と砲兵は言った。「喜んでやるやつはいるさ。いないふりをするなんて、馬鹿げてる!」

私は彼の確信に屈した。

「もし俺を追ってきたら」と彼は言った。「畜生、俺を追ってきたら!」そう言って、険しい物思いに沈んだ。

私は座ったまま、これらのことを考えていた。この男の理屈に対して、持ち出せる反論は何も見つからなかった。侵略が始まる前なら、知性において私が彼に勝ることを、疑う者はいなかっただろう。私は哲学的な主題を扱い、世に認められた文筆家で、彼は一介の兵卒なのだから。それなのに、私がようやく気づきかけたばかりの事態を、彼はすでに明確な形にまとめ上げていた。

「あんたは何をしているんだ?」

やがて私は尋ねた。「どんな計画を立てた?」

彼はためらった。

「まあ、こういうことだ」と彼は言った。「俺たちは何をしなきゃならん? 人間が生き、子をもうけ、その子を育てられるだけの安全を保てる暮らし方を、考え出さなきゃならん。そうだな――ちょっと待て。何をすべきだと考えてるか、もっとはっきり言おう。飼い慣らされた連中は、どんな家畜もたどる道をたどる。数世代もすれば、大きく、美しく、血も豊かで、頭は空っぽになる。くずだ! 危ないのは、野生を守った俺たちが、野蛮になっちまうことだ。でかくて獰猛なネズミみたいなものに、退化するかもしれん……。いいか、俺が暮らそうと思ってるのは地下だ。下水道に目をつけたんだ。もちろん、下水道を知らないやつは、ひどいものを想像する。だが、このロンドンの下には、何マイルも何マイルも――何百マイルもある。ロンドンが無人なら、数日雨が降るだけで、臭いもなく、きれいになる。幹線下水道なら、誰が住むにも十分広いし、空気も通る。それに地下室、地下倉、貯蔵庫もある。そこから下水道へ逃げ道を掘ればいい。鉄道のトンネルや地下道だってある。どうだ? 見えてきたか? そして仲間をつくる。体が丈夫で、心根のまっすぐな男たちだ。流れてきたくずまで拾う気はない。弱いやつは追い返す。」

「私を追い返そうとしたように?」

「まあ――話はしたじゃないか。」

「そのことで争うのはよそう。続けてくれ。」

「残る者は命令に従う。丈夫で、心根のまっすぐな女も必要だ。母親に、教師になる女がな。気だるそうなお嬢様は御免だ。気取って流し目を送るようなのもな。弱いのや、馬鹿なのは置けない。生きることが、また真剣勝負になったんだ。役立たずや、足手まといや、害をなすやつは、死ななきゃならん。死ぬべきだ。進んで死ぬべきだ。そもそも、生き残って種を汚すのは、ある種の裏切りじゃないか。それに、そいつらだって幸せにはなれん。死ぬのは、そう恐ろしいことじゃない。怯えるから、ひどいものになる。そういう地下の場所に、俺たちは集まる。縄張りはロンドンだ。見張りを立てて、火星人が近くにいなけりゃ、地上を走り回れるかもしれん。クリケットだってできるかもな。そうやって種を救う。どうだ? できる話だろう? だが、種を残すだけじゃ、何にもならん。言ったとおり、それじゃただのネズミだ。知識を守り、増やしていくことが肝心なんだ。そこで、あんたみたいな人間の出番になる。本もあれば、模型もある。地下深くに、大きくて安全な場所をつくって、手に入る本はみんな運びこむ。小説だの、詩みたいな薄っぺらいものじゃない。思想や科学の本だ。そこに、あんたたちが必要なんだ。大英博物館へ行って、本を片端から選ばなきゃならん。とくに、科学を守る。もっと学ぶんだ。火星人を観察しなきゃならん。何人かは間者になって潜りこむ。すべてがうまく回りだしたら、俺がやってもいい。わざと捕まるってことだ。それから何より大事なのは、火星人にちょっかいを出さないことだ。盗みすら駄目だ。邪魔になるなら、こっちがどく。害をなす気はないと、わからせなきゃならん。ああ、わかってるさ。だが、やつらは頭がいい。欲しいものが全部手に入って、俺たちは無害な小動物にすぎないと思えば、わざわざ狩り立てたりしないだろう。」

砲兵は口をつぐみ、褐色の手を私の腕に置いた。

「結局、そうなるまでに学ぶことは、案外多くないかもしれん――想像してみろ。やつらの戦闘機械が四、五台、いきなり動きだす。右へ左へ熱線を放つ。だが、中に火星人は一体もいない。一体もだ。乗ってるのは人間さ。操り方を覚えた人間だ。俺が生きてるうちに、そういう人間が出るかもしれん。あのすばらしいやつを一台手に入れて、熱線を思うままにぶっ放すところを考えてみろ! 自分の手で操るんだぞ! それだけ暴れたあとなら、最後に粉々に砕けたって、かまうものか。火星人ども、ご自慢の目をひんむくだろうな! 目に浮かばないか? 大慌てで駆け回るやつらが見えないか? ぜえぜえ息を切らし、わめきながら、別の機械に飛びつこうとする。ところが、どいつもこいつも、どこかがうまく動かない。そこへ、ひゅうっ、どかん、がらがら、ひゅうっ! もたもたしてるところへ、ひゅうっと熱線だ。そして見ろ! 人間が、自分のものを取り戻したんだ。」

しばらくのあいだ、砲兵の大胆な想像力と、自信と勇気に満ちた口ぶりは、私の心をすっかり支配した。人類の運命についての予測も、驚くべき計画の実現性も、私は何のためらいもなく信じた。私を浅はかで、感化されやすいと思う読者は、落ち着いて読み、考えるべき事柄に意識を集中できる自分の立場と、恐る恐る茂みにうずくまり、不安に心を乱されながら耳を傾けていた私の立場を、比べてみてほしい。私たちは朝の早い時間を、そんな話に費やした。その後、茂みから這い出て、空に火星人の姿がないか確かめると、彼が隠れ家にしているパトニー・ヒルの家へ、一目散に駆けこんだ。彼の住みかは、その家の石炭貯蔵用の地下室だった。一週間かけたという仕事の跡を見て、私は初めて、彼の夢と実行力の隔たりに気づきかけた。それは十ヤードにも満たない穴で、パトニー・ヒルの幹線下水道まで延ばすつもりだという。そんな穴なら、私でも一日で掘れたはずだ。それでもまだ彼を十分に信じていたので、その朝は昼過ぎまで、いっしょに掘りつづけた。庭用の手押し車が一台あり、掘った土はそれで運び、台所のレンジの前へ積み上げた。隣の食料庫にあった、ウミガメ風スープの缶詰とワインで、力をつけた。この黙々とした労働は、苦痛を伴う世界の異様さから、奇妙な安らぎを与えてくれた。働きながら彼の計画を考え直すうちに、異論や疑問が浮かび始めた。それでも午前中ずっと働いた。再び目的を得たことが、それほど嬉しかったのだ。一時間も働くと、下水道まではどれほどあるのか、まったく見当違いの場所へ掘り進めるおそれはないのかと、考えるようになった。何より引っかかったのは、なぜこんな長いトンネルを掘る必要があるのか、ということだった。マンホールから下水道へ降り、そこから家へ向かって掘れば、すぐにでも取りかかれるではないか。それに、この家の選び方も不便で、無駄に長いトンネルを必要としているように思えた。そうしたことを正面から考え始めたちょうどそのとき、砲兵は掘るのをやめ、私を見た。

「よく働いたな」と彼は言った。シャベルを置いた。「少し休もう。そろそろ屋根から偵察した方がいいと思う。」

私は続けたかったので、彼も少しためらったのち、またシャベルを取った。そのとき、ふと一つの考えが浮かんだ。私が手を止めると、彼もすぐにやめた。

「どうしてここにいないで、コモンを歩き回っていたんだ?」と私は尋ねた。

「外の空気を吸いにな」と彼は言った。「戻るところだった。夜の方が安全なんだ。」

「だが、仕事は?」

「そりゃ、働きづめってわけにはいかんさ」と彼は言った。その一瞬に、私はこの男の正体を見た。彼はシャベルを持ったまま、ためらった。「いま偵察した方がいい。近くへ来てたら、シャベルの音を聞きつけて、不意に襲ってくるかもしれん。」

もう反対する気はしなかった。私たちはいっしょに屋根へ上がり、はしごに立って、屋根の出入口から外を覗いた。火星人は見えなかった。そこで思い切って瓦の上へ出て、低い縁壁の陰へ身を滑りこませた。

ここからは、低木の茂みがパトニーの大部分を隠していたが、眼下の川は見えた。赤い草が泡立つように盛り上がり、ランベスの低地も、水に浸かって赤く染まっていた。古い宮殿のまわりの木々には赤い蔓草がびっしり絡み、その塊の中から、枯れてやせ細り、縮れた葉をつけた枝が突き出していた。この二種類の植物が、どちらも繁殖を流れる水にすっかり依存していたのは、奇妙なことだった。私たちの周囲には、どちらも根を下ろしていなかった。キングサリ、桃色のサンザシ、オオデマリ、クロベの木々が、月桂樹やアジサイの茂みから伸び上がり、日を浴びて緑に輝いていた。ケンジントンの向こうでは濃い煙が上がり、それと青いもやとが、北の丘を隠していた。

砲兵は、まだロンドンに残っている連中の話を始めた。

「先週のある晩だ」と彼は言った。「馬鹿どもが電灯を復旧させて、リージェント・ストリートもサーカスも、まぶしいくらいに照らしやがった。けばけばしく化粧したのや、ぼろを着たのや、男も女も酔っぱらいでいっぱいになって、夜明けまで踊ったり叫んだりしてたそうだ。そこにいた男から聞いた。朝になると、ランガムのそばに戦闘機械が立って、見下ろしてるのに気づいたんだ。いつからいたのかは、神様だけがご存じさ。肝を潰したやつもいたろうな。そいつは道をこっちへ歩いてきて、酔いつぶれてたり、怖くて動けなかったりした連中を、百人近く拾っていったそうだ。」

どんな歴史書も、その全容を語り尽くすことはないだろう時代の、なんという異様な一瞬か。

そこから、私の質問に答えるうち、彼はまた壮大な計画へ話を戻した。しだいに熱がこもってきた。戦闘機械を奪う可能性について、あまりに雄弁に語るので、私はまた半ば以上、信じる気になった。だが、いまは彼の気質が少しわかってきたので、何事も早まってはいけないと強調する、その意味も察しがついた。それに、今度は彼自身が巨大な機械を奪い、戦うという話が、どこにも出てこないことにも気づいた。

しばらくして、私たちは地下室へ下りた。どちらも穴掘りを再開する気はなさそうで、彼が食事を持ち出すと、私に異存はなかった。彼は急に気前がよくなり、食べ終えると席を外し、上等な葉巻を何本か持って戻った。火をつけると、彼の楽観もいっそう赤々と燃え上がった。私が来たことを、大きな祝い事と考えたいらしかった。

「地下にはシャンパンもあるぞ」と彼は言った。

「このテムズ河畔のブルゴーニュワインの方が、穴掘りははかどりそうだ」と私は言った。

「いや」と彼は言った。「今日は俺が主人だ。シャンパンだ! まったく! これから背負う仕事は、十分重いじゃないか。休めるうちに休んで、力を蓄えよう。この水ぶくれだらけの手を見ろよ!」

こうして休日にするつもりになった彼は、食後、ぜひカードをやろうと言い張った。私にユーカー[訳注:切り札を使って勝ち札を取り合うカードゲーム]を教え、ロンドンを二人で分けて、私が北側、彼が南側を受け持ち、教区を点数代わりに賭けて遊んだ。冷静な読者には奇怪で愚かに思えるだろうが、まったくの事実だ。しかも驚くことに、私はこのゲームも、そのあとにやったいくつかの遊びも、ひどく面白いと思った。

人間の心とは、なんと奇妙なものか。同族は絶滅か、恐るべき堕落の瀬戸際にあり、目の前に確かな見通しといえば、惨死の可能性しかないというのに、私たちは座りこんで、絵のついた厚紙の運に一喜一憂し、「ジョーカー」を出しては、心から喜んでいたのだ。その後、彼はポーカーを教えてくれた。また、チェスでは三度の熱戦の末、私がすべて勝った。暗くなると、危険を承知でランプをつけることにした。

果てしないほどゲームを続けたあと、私たちは夕食をとり、砲兵はシャンパンを飲み干した。葉巻も吸いつづけた。彼はもう、朝に出会った、同族の再生に燃える精力的な男ではなかった。相変わらず楽観的ではあったが、それは動くためというより、思いにふけるための楽観だった。最後に彼は、私の健康を祝したのを覚えている。乾杯の口上は、同じことを繰り返し、やたらと途切れた。私は葉巻を一本取り、彼が話していた、ハイゲートの丘沿いに緑色に燃える光を見ようと、階上へ行った。

初めは、ぼんやりとロンドンの盆地を見渡していた。北の丘は闇に包まれていた。ケンジントン近くの火事が赤く輝き、ときおり橙がかった炎の舌が、濃紺の夜へ閃いては消えた。ロンドンのほかの場所は、すべて黒かった。そのとき、もっと近くに、奇妙な光があるのに気づいた。淡い青紫の蛍光が、夜風に震えていた。しばらくは何かわからなかったが、やがて、赤い草がこのかすかな光を放っているのだと悟った。それと同時に、眠っていた驚異の感覚、物事の大小軽重を測る感覚が、再び目覚めた。私はそこから、西の空高く、赤く澄んで輝く火星へ目を移した。そして、ハンプステッドとハイゲートの闇を、長いこと一心に見つめた。

私はいつまでも屋根にとどまり、その一日の異様な変転に思いを巡らせた。真夜中の祈りから、愚かなカード遊びまで、自分の心がたどった道を振り返った。激しい嫌悪がこみ上げた。葉巻を投げ捨てたのを覚えている。その無駄な行為には、一種の象徴的な意味があった。自分の愚かさが、まぶしいほど大きく見えた。妻を、同族を裏切ったような気がして、悔恨に満たされた。私は、この奇妙な、自制心のない、大きな夢ばかり見る男を、酒と食い意地に任せて、ロンドンへ進もうと決めた。そこへ行けば、火星人と人間たちがどうしているかを知る、いちばんの機会があるように思えた。遅い月が昇ったときも、私はまだ屋根の上にいた。

第八章 死せるロンドン

砲兵と別れると、私は丘を下り、ハイ・ストリートを通り、橋を渡ってフラムへ向かった。そのころ赤い草は猛り狂うように茂り、橋の車道をほとんど塞いでいた。だが、その葉は、すでに広がり始めた病に、ところどころ白くなっていた。その病が、まもなく草をたちまち消し去ることになる。

パトニー橋駅へ続く小道の角で、男が一人倒れているのを見つけた。黒い粉にまみれ、煙突掃除人のように真っ黒だった。生きてはいたが、泥酔して、動くことも口をきくこともできなかった。こちらが何をしても、悪態をつき、怒って私の頭へ殴りかかるだけだった。あの凶暴な顔つきさえなければ、私はそばにとどまっていただろう。

橋を渡った先から、道には黒い粉が積もり、フラムに入るとさらに厚くなった。通りは恐ろしいほど静かだった。私はここのパン屋で食べ物を手に入れた。酸っぱく、硬く、かびていたが、十分食べられた。ウォラム・グリーンへ向かって少し進むと、通りから粉がなくなり、燃えている白い長屋の前を通った。燃える音は、まさしく救いだった。ブロンプトンへ向かって進むと、通りはまた静かになった。

ここでは再び、道の黒い粉と、死体に出くわした。フラム通りを歩くあいだに、全部で十数体を見た。死んでから何日もたっていたので、私は足早に通り過ぎた。黒い粉が覆いかぶさり、その輪郭をぼかしていた。一、二体には、犬に荒らされた跡があった。

黒い粉のないところは、奇妙なほど、日曜日のシティに似ていた。店は閉まり、家には鍵がかかり、ブラインドが下り、人影がなく、静まり返っていた。ところどころ略奪の跡もあったが、食料品店と酒店以外が荒らされていることは、めったになかった。一か所、宝石店の窓が破られていたが、盗人は邪魔が入ったらしく、歩道に金の鎖が何本かと時計が散らばっていた。私は手に取ろうとも思わなかった。その先では、ぼろをまとった女が、玄関の段に崩れるように倒れていた。膝から垂れた手には深い傷があり、流れた血が、くすんだ褐色の服を染めていた。砕けたシャンパンのマグナム瓶の中身が、歩道いっぱいに水たまりをつくっていた。眠っているように見えたが、女は死んでいた。

ロンドンの奥へ入るほど、静けさは深まった。だが、それは死の静けさというより、何かを待ち受ける、張りつめた静けさだった。すでに大都市の北西の縁を焼き、イーリングとキルバーンを消し去った破壊は、いつこの家々のあいだへ襲いかかり、煙を上げる廃墟に変えてもおかしくなかった。そこは死を宣告され、見捨てられた都市だった……。

サウス・ケンジントンでは、通りに死体も黒い粉もなかった。あの遠吠えを初めて聞いたのは、サウス・ケンジントンの近くだった。ほとんど気づかぬうちに、その音は私の感覚へ忍びこんできた。「ウーラ、ウーラ、ウーラ、ウーラ」と、すすり泣くように二つの音を交互に繰り返し、いつまでも続いていた。北へ向かう通りを横切るたびに大きくなり、また家や建物に遮られ、弱まって途切れるようだった。エキシビション通りからは、満ち潮のように押し寄せてきた。私は足を止め、ケンジントン・ガーデンズの方を見つめ、この奇妙な、遠くの嘆き声に聞き入った。家々からなる巨大な荒野そのものが、恐怖と孤独を訴える声を得たかのようだった。

「ウーラ、ウーラ、ウーラ、ウーラ」と、人間ならぬ声が泣き叫んだ。音の大波が、両側に高い建物の並ぶ、日差しに満ちた広い道を押し寄せてきた。私は不思議に思いながら北へ折れ、ハイド・パークの鉄門を目指した。自然史博物館に忍びこみ、塔の頂まで登って、公園の向こうを見渡そうかとも思った。だが、すぐ身を隠せる地上を行く方がいいと決め、エキシビション通りを進んだ。両側の大邸宅は、どれも無人で静まり返り、私の足音が壁に反響した。通りの先、公園の門の近くで、奇妙なものに出くわした。乗合馬車が横倒しになり、そのそばに、肉をきれいに食われた馬の骨があった。しばらく首をかしげて眺めたのち、私はサーペンタイン池に架かる橋へ進んだ。声はますます大きくなったが、公園の北側の屋根越しには、北西にかかる煙のもや以外、何も見えなかった。

「ウーラ、ウーラ、ウーラ、ウーラ」と声がした。リージェンツ・パークのあたりから聞こえてくるように思えた。荒涼としたその叫びは、私の心に食いこんだ。それまで私を支えていた気持ちが消えた。嘆き声が私を支配した。自分がひどく疲れ、足が痛み、また空腹と渇きに襲われていることに気づいた。

すでに正午を過ぎていた。なぜ私は、この死者の都市を、独りさまよっているのだろう。ロンドン全体が黒い経帷子に包まれ、弔いを待って横たわっているというのに、なぜ私だけが独りなのか。耐えがたい孤独を感じた。何年も忘れていた昔の友人たちが、次々と頭に浮かんだ。薬局にある毒薬、酒店に蓄えられた酒を思った。そして、私の知るかぎり、この都市に私とともに残っていた、絶望に酔いしれたあの二人を思い出した……。

マーブル・アーチからオックスフォード・ストリートに入ると、また黒い粉と、いくつかの死体があった。何軒かの家では、地下室の格子から、忌まわしい、不吉な臭いが漂っていた。長く歩いた暑さで、ひどく喉が渇いた。大変な苦労の末、どうにか酒場へ入りこみ、食べ物と飲み物を手に入れた。食後は疲れがどっと出たので、カウンターの裏の居間へ入り、そこにあった黒い馬毛張りのソファで眠った。

目を覚ましても、あの陰鬱な遠吠えは、まだ耳に響いていた。「ウーラ、ウーラ、ウーラ、ウーラ。」

すでに夕暮れだった。私は酒場を探して、ビスケットとチーズを見つけた。肉を入れる戸棚もあったが、中にいたのはウジだけだった。それから、静かな住宅広場をいくつも抜けて、ベイカー・ストリートへ向かった。名前がわかるのはポートマン・スクエアだけだ。そうして、ついにリージェンツ・パークへ出た。ベイカー・ストリートの北端を出ると、澄んだ夕映えの中、はるか遠くの木々の上に、この遠吠えを発する火星人の巨体の、頭部の覆いが見えた。恐怖はなかった。ごく当たり前のものに出会ったような心持ちだった。しばらく見ていたが、動かなかった。ただ立ったまま、私にはわからない理由で、叫びつづけているようだった。

私は行動の方針を立てようとした。絶え間ない「ウーラ、ウーラ、ウーラ、ウーラ」の声が、頭をかき乱した。おそらく、ひどく怖がるには疲れすぎていたのだろう。確かに恐怖よりも、なぜこんな単調な叫びを続けるのか知りたいという気持ちの方が強かった。公園を回りこもうと、いったん引き返してパーク通りへ入り、連なる家並みを盾に進んだ。そして、セント・ジョンズ・ウッドの方角から、動かずに吠える火星人を眺めた。ベイカー・ストリートから二百ヤードほど来たところで、犬のけたたましい鳴き声が重なって聞こえた。まず一匹が、腐りかけた赤い肉片をくわえ、こちらへまっしぐらに駆けてきた。そのあとを、飢えた雑種犬の群れが追っていた。先頭の犬は、私まで新たな奪い手になると思ったのか、大きく弧を描いて避けた。鳴き声が静かな通りの奥へ遠ざかると、「ウーラ、ウーラ、ウーラ、ウーラ」という嘆き声が、再びあたりを満たした。

セント・ジョンズ・ウッド駅への道半ばで、壊れた作業機械に出くわした。初めは、家が崩れて道路を塞いでいるのだと思った。瓦礫の中をよじ登って初めて、私ははっと気づいた。この機械仕掛けのサムソン[訳注:旧約聖書の怪力の英雄。神殿の柱を倒し、敵とともに瓦礫に埋もれて死んだ]が、みずから生み出した残骸の中に、触手を折られ、砕かれ、ねじ曲げられて横たわっていたのだ。前部は大破していた。闇雲に家へまっすぐ突っこみ、崩れ落ちた建物に押し潰されたように見えた。そのときは、作業機械が火星人の操縦を離れて暴走したのかもしれないと思った。瓦礫の中をそこまで登って確かめることはできなかったし、すでに夕闇も深まり、座席に塗りつけられた血や、犬の食べ残した、かじりかけの火星人の軟骨は、私の目には見えなかった。

見たものすべてが、ますます不可解に思われたが、私はプライムローズ・ヒルを目指して進んだ。遠く、木々の切れ目から、公園の動物園寄りに、二体目の火星人が立っているのが見えた。最初の一体と同じく身動きせず、こちらは黙っていた。壊れた作業機械のまわりの廃墟を少し過ぎると、再び赤い草に出くわし、リージェンツ運河に行き当たった。そこは暗赤色の植物が、海綿のような塊になっていた。

橋を渡っていると、「ウーラ、ウーラ、ウーラ、ウーラ」の声がやんだ。まるで断ち切られたようだった。静寂は雷鳴のように訪れた。

夕闇に沈む家々が、周囲に高く、ぼんやりとかすんでいた。公園の方の木々は黒くなりつつあった。あたりでは赤い草が廃墟を這い上がり、薄闇の中、私の頭上へ伸びようと身をよじっていた。恐怖と神秘の母である夜が、私に迫っていた。だが、あの声が響いているあいだは、孤独も荒廃も耐えられた。その声のおかげで、ロンドンはまだ生きているように思え、まわりに命があるという感覚が、私を支えていたのだ。それが突然変わった。何かが去った――それが何かはわからなかった――そして、手で触れられそうな静寂が来た。ただ、痩せこけたような静けさだけが残った。

周囲のロンドンが、幽霊のように私を見つめていた。白い家々の窓は、頭蓋骨の目の穴に似ていた。想像の中では、無数の敵が、音もなく周囲を動き回った。恐怖が私を捕らえた。自分の無謀さへの戦慄だった。目の前の道は、タールを塗ったように真っ黒になり、ねじ曲がった何かが、歩道を横切って倒れているのが見えた。もう先へ進めなかった。私はセント・ジョンズ・ウッド通りへ折れ、この耐えがたい静けさから逃れようと、キルバーンへ向かって一目散に走った。ハーロウ通りの辻馬車御者の休憩所に潜み、真夜中をとうに過ぎるまで、夜と静寂から身を隠した。だが、夜明け前には勇気が戻り、まだ星の残る空の下、再びリージェンツ・パークへ向かった。通りのあいだで道を間違え、やがて長い並木道の先に、明け方の薄明かりを帯びたプライムローズ・ヒルの丸い姿が見えた。その頂に、消えかけた星へ届くかと思われるほど高く、三体目の火星人が立っていた。ほかの二体と同じく、直立したまま動かなかった。

狂気じみた決意が、私を支配した。死んで、終わりにしよう。自分の手で死ぬ手間さえ、省いてしまおう。私は無謀にも、その巨人を目指して歩き出した。だが、近づくにつれて、また空が明るくなるにつれて、頭部の覆いのまわりを、無数の黒い鳥が旋回し、群がっているのが見えた。胸が跳ね上がり、私は道を走り出した。

セント・エドマンズ・テラスを塞ぐ赤い草をかき分けて急いだ。水道施設からアルバート通りへ流れ下る奔流を、胸まで浸かって渡り、日の出前に芝地へ出た。丘の頂のまわりには、巨大な土の山が築かれ、全体が大きな堡塁になっていた。火星人が最後に築いた、最大の拠点だった。その土塁の向こうから、細い煙が空へ昇っていた。空を背に、一匹の犬がせかせか走り、姿を消した。頭に閃いた考えが現実味を増し、信じられるものになっていった。動かぬ怪物を目指して丘を駆け上がる私に、恐怖はなかった。ただ、身を震わせる激しい歓喜があった。頭部の覆いから、茶色い切れ端がだらりと垂れ下がり、飢えた鳥がつつき、引き裂いていた。

次の瞬間、私は土塁によじ登り、その頂に立っていた。眼下に、堡塁の内側が広がっていた。広大な場所だった。あちこちに巨大な機械があり、材料がうず高く積まれ、奇妙な覆い小屋が並んでいた。その中に散らばっていたのは、火星人だった。あるものは横倒しの戦闘機械の中に、あるものは動きを失った作業機械の中に、また十数体は硬直して静まり、一列に並べられていた。死んでいたのだ! その体に備えのなかった腐敗菌と病原菌に殺されていた。赤い草が滅ぼされつつあったのと同じように、滅ぼされた。人間のあらゆる手立てが失敗したあとで、神がその英知によってこの地上に置いた、最も取るに足りないものたちに、殺されたのだ。

実際、起きたのはそういうことだった。恐怖と災厄が理性を曇らせなければ、私も、多くの人々も、予見できたはずだった。これらの病原菌は、人類の始まりから犠牲を取り立ててきた。いや、この地上に生命が生まれて以来、人類以前の祖先から犠牲を取り立ててきた。だが、私たちの種は、この自然淘汰のおかげで抵抗力を育ててきた。どんな病原菌にも、抵抗せずに屈することはない。また、死んだものを腐らせる菌など、多くの菌に対して、生きた私たちの体は完全な免疫を持っている。だが、火星には細菌がいない。だから、この侵略者たちが到着し、水を飲み、食べ物を取ったとたんに、目に見えぬ味方たちは、その打倒に取りかかったのだ。私が彼らを見ていたときには、すでに取り返しのつかない運命が定まり、行き来しながらも、死に、腐りつつあった。それは避けられないことだった。人間は十億の死を代償に、地球に生きる生得の権利を買い取った。誰が来ようと、それは人間のものだ。火星人が十倍強くても、やはり人間のものだったろう。人間は、いたずらに生きるのでも、いたずらに死ぬのでもない。

火星人は、自分たちで掘った巨大な窪地のあちこちに、合わせて五十体近く散らばっていた。死というものの中でも、彼らにとって、これほど理解しがたい死はなかっただろう。当時の私にも、この死は理解できなかった。わかっていたのは、生きて、人間にあれほど恐れられていたものが、死んでいるということだけだった。一瞬、センナケリブの滅亡[訳注:旧約聖書では、アッシリア王センナケリブの軍勢が、夜のうちに神の使いに討たれたとされる]が繰り返されたのだと思った。神が思い直し、死の天使が夜のうちに彼らを打ち倒したのだと。

私は穴の中を見つめて立ち、心は輝くほど軽くなっていった。ちょうどそのとき、昇る太陽の光が、周囲の世界を燃え立たせた。穴の中はまだ暗かった。途方もない力と複雑さを備え、屈曲した形はこの世のものとも思えない巨大な機械が、影の中から光へ向かって、不気味に、ぼんやりと異様な姿を現していた。はるか足もとの暗い穴底では、横たわる死体を奪い合う、たくさんの犬の声がした。穴の向かい側の縁には、平たく、巨大で、奇妙な飛行機械が置かれていた。腐敗と死に止められるまで、彼らが私たちの濃い大気の中で実験していた機械だった。死の到来が、もう一日遅れていたら危なかった。頭上でカラスが鳴き、私は見上げた。そこには、もう二度と戦うことのない巨大な戦闘機械がそびえ、ぼろぼろの赤い肉片が、プライムローズ・ヒルの頂にある、転倒した座席の上へ滴り落ちていた。

振り返って丘の斜面を見下ろすと、昨夜見た、ほかの二体の火星人が立っていた。死に襲われたそのままの姿で、いまは鳥の輪に取り巻かれていた。一体は、仲間に呼びかけながら死んだのだ。おそらく最後に死んだのは、あの一体だったのだろう。機械の動力が尽きるまで、声だけがいつまでも続いたのかもしれない。いまやそれらは、害のない、輝く金属の三脚塔となって、朝日の中できらめいていた。

穴のまわり一面に、まるで奇跡によって永久の破滅を免れたかのように、偉大な都市の母が広がっていた。陰鬱な煙の衣に包まれたロンドンしか見たことのない人には、静かな家々の荒野が、覆いを脱いで見せる鮮明さと美しさは、ほとんど想像できないだろう。

東では、黒焦げのアルバート・テラスと、砕けた教会の尖塔の向こうで、太陽が澄んだ空にまぶしく燃えていた。広大な屋根の荒野のあちこちで、光を受けた面が、白く激しく輝いていた。

北には、家々の密集するキルバーンとハンプステッドが、青くかすんでいた。西では大都市が薄闇にぼやけていた。南には、火星人の向こうに、リージェンツ・パークの緑のうねり、ランガム・ホテル、アルバート・ホールのドーム、帝国研究所、ブロンプトン通りの巨大な邸宅が、朝日にくっきりと、小さく浮かび、その先に、ウェストミンスターのぎざぎざの廃墟が、かすんでそびえていた。サリーの丘は遠く青く、水晶宮の二本の塔は、銀の棒のようにきらめいた。セント・ポール大聖堂のドームは、朝日を背に黒く見えた。その西側に大きな穴が開いていることに、私は初めて気づいた。

そして、この広大な、静まり返って見捨てられた家々と工場と教会を眺めるうちに、この人間の礁を築くために注がれた無数の希望と努力、数えきれない命のこと、そのすべての上に迫っていた、すばやく無慈悲な破壊のことを思ううちに、その影が取り払われ、人々はなおこの通りで暮らし、私の愛する巨大な死の都市も、再び生き生きと力強く蘇りうるのだと悟ったとき、涙に限りなく近い感情の波が押し寄せた。

苦しみは終わった。その日のうちにも、癒しは始まるだろう。国じゅうに散らばり、指導者も法律も食料もなく、羊飼いを失った羊のようになっていた生存者たち、海を渡って逃れた何千もの人々が、戻り始めるだろう。生命の脈動はますます強くなり、空っぽの通りで再び打ち、無人の広場へ流れこむだろう。どれほど破壊が行われたにせよ、破壊者の手は止められた。日に照らされた丘の草地を、あれほど陰惨に見つめる、痛ましい残骸も、黒焦げの家の骨組みも、やがて修復する人々の金槌を響かせ、こての打つ音に鳴り渡るだろう。そう思うと、私は空へ両手を差し伸べ、神に感謝し始めた。一年もすれば、と私は思った。一年もすれば……。

そのとき、自分自身のこと、妻のこと、希望に満ち、優しく助け合っていた、永遠に失われた昔の暮らしのことが、圧倒的な力で胸に押し寄せた。

第九章 残されたもの

ここからが、私の物語で最も奇妙な部分になる。もっとも、さほど奇妙ではないのかもしれない。その日、プライムローズ・ヒルの頂で泣きながら神をたたえるまで、自分がしたことはすべて、冷静に、はっきりと、鮮やかに覚えている。だが、そこから先の記憶がない。

その後の三日間については、何も知らない。あとで聞いたところによると、火星人の滅亡を最初に発見したのは、私どころではなく、私と同じようにさまよっていた何人かが、すでに前の晩に見つけていたという。最初の一人はセント・マーティンズ・ル・グランへ行き、私が御者の休憩小屋に身を隠していたころ、どうにかパリへ電報を打った。そこから吉報は世界じゅうへ走った。恐ろしい予感に凍りついていた幾千の都市が、たちまち熱狂的な祝賀の明かりに輝いた。私が穴の縁に立っていたころには、ダブリンも、エディンバラも、マンチェスターも、バーミンガムも、それを知っていた。聞くところでは、すでにクルーのようにロンドンに近い町でも、人々は喜びに泣き、叫び、仕事の手を止めて握手を交わし、また叫びながら、ロンドンへ向かう列車を編成していたという。二週間前から沈黙していた教会の鐘も、不意に報せを受け取ったかのように鳴り始め、やがてイングランドじゅうが鐘の音に満ちた。痩せた顔の、髪も髭も伸び放題の男たちが、自転車で田舎道という田舎道を飛ばし、思いがけない救いを叫んで回った。絶望して立ち尽くす、やつれた人々へ向かって叫んだ。そして食料は! 海峡を越え、アイリッシュ海を越え、大西洋を越えて、穀物とパンと肉が、救援のために押し寄せていた。そのころ、世界じゅうの船がロンドンを目指しているかのようだった。だが、そうしたことを、私は何ひとつ覚えていない。正気を失い、さまよい歩いていたのだ。気がつくと、親切な人々の家にいた。その人たちは三日目に、セント・ジョンズ・ウッドの通りで、泣き、うわ言を言いながらさまよう私を見つけたのだった。あとで聞かされたところでは、私は「最後に生き残った人間だ! 万歳! 最後に生き残った人間だ!」という、気のふれたような下手な歌を歌っていたという。

この人たちは、自分たちのことで手いっぱいだったにもかかわらず、あえて私という厄介者を引き受け、住まわせ、私自身の危うさから守ってくれた。どれほど感謝を表したくても、ここに名前を明かすことさえできない人々だ。どうやら私の意識が途切れていたあいだに、私の話をいくらか聞き出していたらしい。

正気が確かに戻ると、その人たちは、レザヘッドの運命について知ったことを、ひどく慎重に伝えてくれた。私が閉じこめられた二日後、町は、そこにいたすべての人とともに、一体の火星人に破壊されていた。何の挑発もなかったらしい。ただ力に任せた気まぐれから、少年がアリ塚を踏み潰すように、町を跡形もなく消し去ったのだ。

私は独りぼっちだった。その人たちは、本当に親切にしてくれた。私は孤独で、悲しみに沈んでいたが、辛抱強く付き合ってくれた。回復してから、さらに四日間、その家にとどまった。そのあいだずっと、過去の中であれほど幸せに、明るく見えるささやかな暮らしの、残っているものを、もう一度見たいという願いが、漠然と、しかししだいに強くなっていった。それはただ、自分の不幸を味わい尽くしたいという、望みのない欲求だった。その人たちは思いとどまるよう勧めた。できるかぎりのことをして、この病的な思いから私をそらそうとした。だが、ついには衝動に抗えなくなった。必ず戻ると固く約束し、告白すれば、たった四日間の友人たちと涙ながらに別れて、私は再び通りへ出た。つい先ごろまで、あれほど暗く、異様で、空っぽだった通りへ。

そこには、すでに帰ってきた人々の活気があった。ところどころ店も開き、水の流れる飲み水用の噴水まで見かけた。

ウォーキングの小さな家を目指し、悲しみに満ちた巡礼の道を戻っていくあいだ、その日の明るさが、どれほど私をあざ笑うように見えたかを覚えている。通りはなんと忙しく、周囲の営みはなんと鮮やかだったことか。いたるところに大勢の人が出て、さまざまな用事に追われていたので、人口の大きな割合が殺されたなどとは、信じられないほどだった。だがやがて、行き会う人々の肌がひどく黄色く、男たちの髪がぼさぼさで、目ばかり大きくぎらぎらしていることに気づいた。二人に一人は、まだ汚れたぼろをまとっていた。顔に浮かぶ表情は、二つのうちどちらかに見えた。跳ね上がるような歓喜と活力か、厳しい決意か。その表情を除けば、ロンドンは浮浪者の都市のようだった。教区役所は、フランス政府から送られたパンを、誰彼かまわず配っていた。わずかに残った馬は、哀れなほど肋骨が浮いていた。通りの角という角に、白い記章をつけた、やつれた臨時警官が立っていた。ウェリントン通りへ出るまでは、火星人のもたらした被害をほとんど見なかったが、そこで、ウォータールー橋の支え壁を這い上がる赤い草を見た。

また、その橋のたもとで、あの奇怪な時代にはよく見られた、対照的な光景に出会った。赤い草の茂みを背に、一枚の紙がはためいていた。棒に突き刺して、留めてあった。それは、最初に復刊した新聞、デイリー・メールの広告だった。私はポケットにあった黒ずんだ一シリング硬貨で、一部買った。紙面の大部分は空白だったが、たった一人でそれを組んだ植字工は、裏面に広告用の版を奇妙に組み合わせ、遊び心を発揮していた。印刷された記事は、感情に訴えるものだった。報道機関は、まだ元に戻っていなかった。新しく知ったことは、この一週間だけで、火星人の機構の調査が、すでに驚くべき成果を上げたということだけだった。とりわけ「飛行の秘密」が解けたと断言していたが、そのときの私は信じなかった。ウォータールーには、人々を故郷へ送る無料列車が出ていた。最初の殺到は、すでに終わっていた。乗客は少なく、私にも、見知らぬ人と気軽に話す気分はなかった。一区画を一人で使い、腕を組んで座り、日差しを浴びた荒廃が窓の外を流れていくのを、沈んだ目で眺めた。終着駅を出てすぐ、列車は仮設の線路の上で大きく揺れ、鉄道の両側には、黒焦げの廃墟となった家々が並んでいた。二日も雷雨があったにもかかわらず、クラパム・ジャンクションまで、ロンドンの表面は黒い煙の粉で汚れていた。クラパム・ジャンクションでも線路が壊されていて、職を失った何百人もの事務員や店員が、ふだんからの土工たちに交じって働いていた。列車は急ごしらえで敷き直された線路を、がたがたと越えた。

そこから先の沿線は、どこも荒れ果てて、見知らぬ土地のようだった。とりわけウィンブルドンの被害はひどかった。ウォルトンは松林が焼け残ったおかげで、沿線ではいちばん傷が浅いように見えた。ワンドル川もモール川も、どんな小川も、赤い草が盛り上がるように詰まっていた。その見た目は、肉屋の肉と、キャベツの漬物の中間といったところだった。だが、サリーの松林は乾きすぎていて、赤い蔓草が飾り綱のように垂れ下がることはなかった。ウィンブルドンを過ぎたところの、線路から見える苗木畑に、六番目の円筒を囲む土の山があった。まわりには何人もの人が立ち、その中で工兵たちが忙しく働いていた。上にはユニオン・ジャックがひるがえり、朝風に陽気にはためいていた。苗木畑は赤い草で一面深紅になり、毒々しい色の広がりを、紫の影が切り分けていて、ひどく目に痛かった。手前の焼け焦げた灰色と、くすんだ赤から、東の丘の柔らかな青緑へ目を移すと、限りない安らぎを覚えた。

ウォーキング駅のロンドン寄りの線路は、まだ修理中だった。そこで私はバイフリート駅で降り、メイベリーへ向かう道を歩いた。砲兵とともに軽騎兵たちと話した場所を過ぎ、さらに、雷雨の中で火星人が姿を現した場所へ進んだ。ここで好奇心に駆られて道をそれると、もつれた赤い葉の中に、ゆがみ、壊れた軽二輪馬車を見つけた。そばには、かじられ、白くなった馬の骨が散らばっていた。私はしばらく、その名残を見つめて立っていた……。

それから、ところどころ首の高さまで赤い草に覆われた松林を抜けて戻り、「スポッテッド・ドッグ」の亭主が、すでに葬られていることを確かめた。そして「カレッジ・アームズ」の前を通って帰った。小さな家の開いた戸口に立つ男が、通りすがりの私に、名前を呼んで挨拶した。

わが家を見た瞬間、希望が閃いたが、すぐに消えた。玄関の戸はこじ開けられていた。掛け金もかかっておらず、私が近づくと、ゆっくり開いた。

それが、またばたんと閉まった。書斎のカーテンが、開いた窓から外へはためいていた。私と砲兵が夜明けを見守った、あの窓だった。あれから誰も閉めていなかった。押し潰された低木も、四週間近く前に去ったときのままだった。私はよろめきながら玄関へ入った。家は空っぽに感じられた。階段の絨毯は、大惨事のあの夜、雷雨にずぶ濡れになった私がうずくまったところが、よれて変色していた。泥だらけの二人の足跡は、まだ階段の上へ続いていた。

足跡をたどって書斎へ上がると、円筒が開いた日の午後に書きかけた原稿が、透石膏の文鎮を載せたまま、机の上に残っていた。私はしばらく立って、中断した議論を読み返した。文明化の進展に伴って、道徳観念がどのように発達するかを論じた文章だった。最後の一文は、予言の書き出しになっていた。「およそ二百年後には」と私は書いていた。「われわれは、次のような事態を期待できるだろう――」そこで、唐突に途切れていた。まだ一か月もたっていない、あの朝のことを思い出した。どうにも集中できず、書くのをやめて、新聞売りの少年からデイリー・クロニクルを受け取ろうとしたのだった。少年が近づくのを見て庭の門まで出ていき、「火星から来た人間」という奇妙な話に耳を傾けたことを、私は思い出した。

階下へ戻り、食堂へ入った。羊肉とパンがあり、どちらもひどく腐っていた。ビール瓶が一本、倒れていた。私と砲兵が残したままだった。わが家は荒涼としていた。長いこと胸に抱いてきた、かすかな希望の愚かさがわかった。そのとき、奇妙なことが起きた。「無駄だよ」と声がした。「家は空っぽだ。この十日間、誰も来ていない。ここにいて、自分を苦しめるのはよすんだ。助かったのは、あなただけなんだから。」

私はぎくりとした。自分の考えを、声に出したのだろうか。振り返ると、背後の庭へ出るガラス戸が開いていた。一歩そちらへ寄り、立って外を見た。

そこにいたのは、いとこと妻だった。私が驚きと恐れに立ち尽くしていたように、二人も驚き、怯えていた。妻は青白く、涙もなかった。小さな叫びを上げた。

「来たの」と妻は言った。「わかっていたわ――わかって――」

妻は喉へ手を当て、よろめいた。私は一歩踏み出し、その体を抱きとめた。

第十章 終章

この物語を結ぶにあたり、いまだ決着していない多くの問題の議論に、ほとんど何も寄与できないことを、残念に思わずにはいられない。とりわけ一つの点では、確実に批判を招くだろう。私の専門は思弁哲学だ。比較生理学の知識は、一、二冊の本を読んだ程度にすぎない。だが、火星人が急速に死に至った理由についてのカーヴァーの説は、ほとんど証明された結論と見なしてよいほど、ありそうに思える。本文では、その前提に立って記述した。

いずれにせよ、戦争後に調べられた火星人の遺体からは、地球上で知られていた種類以外の細菌は、まったく見つからなかった。死者を一体も埋葬しなかったことや、無差別に殺戮を行ったことも、腐敗という過程をまるで知らなかったことを示している。だが、いかにもっともらしく見えても、決して証明された結論ではない。

火星人があれほど致命的な効果を上げた黒い煙も、その組成はまだわかっていないし、熱線の発生装置も謎のままだ。イーリングとサウス・ケンジントンの研究所で起きた恐ろしい事故のため、分析に携わる人々は、後者の調査をこれ以上進める気をなくしている。黒い粉の分光分析は、緑色の領域に三本の鮮やかな線を示す、未知の元素の存在を、疑いなく示している。それがアルゴンと結びついて化合物をつくり、血液の何らかの成分に、即座に致命的な作用を及ぼす可能性がある。だが、このような未証明の推測は、この物語を届けたい一般の読者には、ほとんど興味がないだろう。シェッパートンの破壊後、テムズ川を流れ下った褐色の浮きかすも、当時はまったく調べられず、いまでは何ひとつ手に入らない。

火星人の解剖所見については、徘徊する犬が残したために調べられた範囲で、すでに記した。だが、自然史博物館にある、見事な、ほぼ完全なアルコール浸けの標本と、それをもとに描かれた無数の図は、誰もが知っている。その先の生理や構造への関心は、純粋に科学的なものとなる。

より重大で、誰にとっても関心のある問題は、火星人が再び攻撃してくる可能性だ。この点には、到底十分な注意が払われていないと思う。現在、火星は合ごう[訳注:地球から見て、惑星が太陽と同じ方向に来る位置関係]にある。だが、衝しょう[訳注:地球から見て、惑星が太陽と反対方向に来る位置関係]が巡ってくるたびに、少なくとも私は、彼らが再び企てを実行するのではないかと身構える。いずれにせよ、備えは必要だ。弾体を発射する大砲の位置を突き止め、その区域を絶えず監視し、次の攻撃の到来を予測することは、可能なはずだと思う。

そうすれば、円筒が十分に冷え、火星人が外へ出られるようになる前に、ダイナマイトや砲撃で破壊できるかもしれない。あるいは、ねじ蓋が開いたとたんに、銃砲で殺すこともできるだろう。最初の奇襲が失敗に終わったことで、彼らは大きな優位を失ったように思える。向こうも同じように見ているかもしれない。

レッシングは、火星人が実際に金星への上陸に成功したと考えるべき、きわめて有力な根拠を示している。いまから七か月前、金星と火星は、太陽と一直線に並んだ。つまり、金星の観測者から見れば、火星は衝の位置にあった。その後、この内側の惑星の、光の当たらない半球に、光る、くねった奇妙な模様が現れた。ほぼ同時に、火星の円盤を撮った写真にも、同じようにくねった、かすかな暗い模様が見つかった。両者の性質がいかに驚くほど似ているかを十分に理解するには、それぞれの姿を描いた図を見る必要がある。

いずれにせよ、再侵略を予想するかどうかにかかわらず、これらの出来事によって、人類の未来に対する見方は、大きく改めなければならない。私たちはいまや、この惑星を、囲いに守られた人類の安全な住みかとは見なせないことを知った。宇宙から突然訪れる、まだ見ぬ善や悪を、予見することは決してできない。宇宙のより大きな構想の中では、この火星からの侵略も、最終的には人類に益をもたらさないとは限らない。それは、衰退の最も豊かな源である、未来への安穏とした確信を、私たちから奪った。人類の科学にもたらした贈り物は莫大であり、人類全体の共通の福祉という考えを広めるうえでも、大きな役割を果たした。果てしない宇宙の向こうで、火星人は先遣隊の運命を見届け、教訓を学び、金星にもっと安全な定住地を見つけたのかもしれない。どうあれ、これから長い年月にわたり、火星の円盤への熱心な監視が緩むことはないだろう。そして空の火矢、流れ星が落ちるたび、人の子は誰もが、避けがたい不安を感じることになるだろう。

その結果、人間の視野が広がったことは、いくら強調しても過ぎることはない。円筒が落ちる以前には、宇宙の深みのどこにも、私たちのちっぽけな球体の、ささやかな表面以外に生命はないという確信が、広く行き渡っていた。いまは、もっと遠くが見える。火星人が金星へ到達できるなら、人間には不可能だと考える理由はない。太陽がゆっくり冷えて、この地球が住めない場所になるとき――いずれ必ずそうなるのだが――ここで始まった生命の糸は、すでに外へ伸び出し、姉妹惑星をその網に取りこんでいるかもしれない。

太陽系のこの小さな苗床から、生命がゆっくりと、命のない広大な星間空間へ広がっていく。その光景を思い描くと、ほのかで、驚異に満ちた幻が胸に浮かぶ。だが、それは遠い夢だ。その一方で、火星人の滅亡は、単なる猶予にすぎないのかもしれない。未来が約束されているのは、私たちではなく、彼らなのかもしれない。

告白しなければならない。あの時代の緊張と危険は、消えることのない疑念と不安を、私の心に残した。書斎に座り、ランプの明かりで書き物をしていると、突然、回復しつつある眼下の谷に、また炎がのたうつのが見える。背後の家も、周囲の家も、空っぽで荒涼としているように感じる。バイフリート通りへ出ると、車が通り過ぎる。荷車に乗った肉屋の少年、訪問客を乗せた辻馬車、自転車の職人、学校へ通う子どもたち。すると不意に、みな輪郭を失い、現実のものではなくなる。私はまた、砲兵とともに、暑く重苦しい静寂の中を急いでいる。夜には、静かな通りを黒い粉が暗く覆い、その層に包まれた、ねじれた死体が見える。ぼろぼろになり、犬にかじられた体が、私の前に起き上がる。意味のわからない声を発し、ますます凶暴に、青白く、醜くなり、ついには人間の姿を狂気じみてゆがめたものとなる。私は冷えきって、惨めな思いで、夜の闇の中に目を覚ます。

ロンドンへ行き、フリート・ストリートやストランドを行き交う群衆を見ると、ふと思う。あれは過去の亡霊にすぎないのではないか。私がかつて、静まり返って惨めな姿をさらしているのを見た通りに、いまも取りつき、行き来しているだけではないか。死んだ都市の幻影であり、電気で動かされた死体の、命のまねごとではないか。また、この最後の章を書く前日にもしたように、プライムローズ・ヒルに立つのも、奇妙なことだ。煙と霧のもやを通して、広大な家々の領域が、ぼんやり青く、ついには空の低いところへ溶けていくのを見る。丘の花壇のあいだを行き来する人々を見る。いまもそこに立つ火星人の機械を、見物人が囲むのを見る。遊ぶ子どもたちのにぎわいを聞く。そして、あの最後の大いなる日の夜明けに、これらすべてを、明るく、輪郭も鮮やかに、硬く静まり返った姿で見たときのことを思い出す……。

そして何よりも奇妙なのは、こうして再び妻の手を握りながら、かつて私は妻を死者のうちに数え、妻もまた私を死者のうちに数えていたのだと思うことである。